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『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』と『Cloud』の同時代性について

 先ごろ公開された映画『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』(阪元裕吾監督)と『Cloud』(黒沢清監督)を鑑賞しました。
Netflixでも配信が開始された『ミッシング』(吉田恵輔監督)を加えると、ある共通点が浮かび上がってきます。
 それは「ネットが引き起こす不幸」です。
 本稿は軽いネタバレを含みます。
 上記3作品について一切情報を入れたくないという方はご注意ください。

◼️ネットが人を壊す

 2024年9月27日に公開された『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』と『Cloud』。
 そして同年5月17日に公開された『ミッシング』に共通するもの。
 それは「ネットが引き起こす不幸」。「ネットが悪人をあぶり出す」ということです。

 『ミッシング』では子供が行方不明となった親に対して誹謗中傷が浴びせられます。
 『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』では最強の殺し屋冬村かえで(池松壮亮)が150人殺しをする理由は、SNSで炎上させた全員を殺して欲しいという依頼でした。
 『Cloud』では転売屋ラーテル(菅田将暉)への恨みを募らせた人たちがネットで呼び掛け合い復讐を計画しました。

 ネットが無ければどれも起きなかった出来事です。
 特に『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』と『Cloud』は制裁を受けるという点でも共通しています。

 ネットを使い誰かを不幸にする者が裁きを受けるという構図。
 理解不能で理不尽な災難に巻き込まれるというのではなく、あくまで襲われる側に理由がある、という描かれ方はある種の警告のように感じられます。
(『ミッシング』は名誉毀損の書き込みをする人たちは裁きを受けませんが、先日最終回を迎えた漫画原作のドラマ『しょせん他人事ですから〜とある弁護士の本音の仕事〜』(原作左藤真通)でSNSで炎上させた人たちが訴えられるエピソードが丁寧に描かれていました。2024年にこれらの作品が集中したのは同時代性と言えるでしょう)

◼️社会の外から訪れる者

 『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』には最強の殺し屋冬村かえでが。『Cloud』にはラーテルを手伝う佐野(奥平大兼)が社会の外から訪れる者として描かれます。
(「ベイビーわるきゅーれ」はそもそも殺し屋の女の子2人のお話なので、登場人物がほぼ社会の外を生きていますが。彼らがゆるく我々と同じ日常を生活する、という面白さが魅力のひとつです)

 冬村かえでは殺し屋協会に所属していない野良の殺し屋という設定です。
 その意味では主人公二人にとってはさらに外部・暗部から突然現れたという立場です。

 佐野はさらに異質です。
 ただのお手伝いかと思っていたら、物語の後半で一気に色合いが変わります。
 謎の人物(松重豊)から大量の銃器を受け取り、ラーテルを救い出すために命を掛けて廃工場に乗り込みます。ラーテル自身も理解が追い付きません。
 ラーテルと佐野は復讐者を全員返り討ちにしますが、その後ラーテルは佐野と共にさらに暗部へと導かれて物語は終わります。

◼️半年ROMれ

 『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』と『Cloud』。『ミッシング』。そして『しょせん他人事ですから〜とある弁護士の本音の仕事〜』に共通する教訓。
 それは「半年ROMれ」です。
(ROMとはRead Only Memberの略。閲覧のみの人)
 ネットは容易に自身の手が負える範疇を飛び越えていきます。
 匿名性や異常な情報速度、拡散力などから万能な力を得たかのように錯覚しますがどれも過剰な思い込みです。
 ネットの扱いに慣れていないと知らぬ間に恨みを買っていたり、訴えられたりする。その危険性に無自覚な人たちへの警告が2024年に集中したのは偶然ではないでしょう。

 いずれ「いいねを押しただけなのに」というような理不尽な、だけど法的に正当な理由で不幸に巻き込まれる時代が近い内に訪れるかも知れません。

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