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旅立つ前に(2)~じゃあどうやって行くの?~

●まずはビザが必要です。


いまや世界最強と言われるニッポンのパスポートは
ほとんどの国でビザが免除されるので
ふだんあんまり意識することないんですが
さすがに北朝鮮は免除してくれません。
というか、そもそも国交がありませんので
免除するしない以前のおハナシですが。

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これ(右側)がいわゆる「北朝鮮のビザ」。
2つ折りのパスポートサイズです。
正確にはビザ(査証)ではなく「観光証」と言って
外国人観光客専用の入国許可書として発行されるもの。
  ※めんどくさいので以降は「ビザ」と呼びますね。

中を開くと写真や名前に生年月日、
さらには「職場職位」なんて欄もあり
ワタシなんかは思い切り「無職」と書かれて
ちょっと恥ずかしかったです(苦笑)

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右側には発行機関名の
「朝鮮国際旅行社 丹東チュチェ観光事務所」と
そこのスタンプが押されていますよ。

北朝鮮へ行くには
まずこいつを手に入れなきゃなりません。
でもこれがちょっとめんどくさい。
ご存知の方もおられるでしょうが
ビザってのはあらかじめ
その国の大使館とかへ申請しなきゃいけませんよね。
ただ、そう。
現在日本は北朝鮮と国交がありませんので
大使館も領事館も国内にはありません。
そもそも申請する先がないわけです。

確かに中国などへ行けば
北朝鮮の大使館がちゃんとあります。

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          中国・北京の北朝鮮大使館領事部
      週のうち3日は午前中しか窓口開いてないそうです…

無題667


じゃそうした北朝鮮の大使館がある国へ行って
直接ビザ申請すりゃいいんじゃね?…
なんて理屈も成り立つように思えますが、
いきなり窓口へ乗り込んだところで
相手は「あんた誰?」状態でしょうww
つまりここでもうひとつのハードルになるのが
現地での受け入れ先なんです。

北朝鮮のビザをもらうには
現地で自分を引き受けてくれる企業や団体からの
いわゆる「お招き」があらかじめ必要となります。
「とりあえず来ちゃった♥」では入れてくれません。

とはいえ北朝鮮で身元保証してくれる相手など
実際にはなかなかいないはず。
そんなわけで、
個人で直接ビザを申請して受領するというのは
現実的にはかなり難しいと言えます。
過去に成功した例もあるとは聞きますが
それは相当な例外だと思います。
ちなみに、大使館で発行されるリアルの「査証」は
こんな感じです。

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1枚もののパスポートサイズ。
「観光証」よりちょっとしっかりした紙で
中央の絵は凱旋門。
これのシールタイプもあると聞きましたが
現物を見たことはありません。

●専門の旅行会社に依頼しよう

出だしからなかなか困難な道のりっぽいですが
そこはそれ、北朝鮮側にはそうした外国人のための
受け入れの専門機関がちゃんとあります。

日本人の場合おもに先ほど出てきた「朝鮮国際旅行社」と
もうひとつ「朝鮮対外文化連絡協会(対文協)」。
このうち「対文協」は基本的に友好親善団体などが対象で
議員さんの訪朝団とかのお相手をすることが多いため、
一般の個人観光旅行客だとほとんど「朝鮮国際旅行社」です。

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20年ほど前の案内ちらし。まさに’90年代な雰囲気ですw
ちなみに「朝鮮国際旅行社」は「旅行社」と名乗るものの
朝鮮国家観光総局という政府機関の直結組織なので
まぁ実際にはお役所みたいなもんです。
というよりも、北朝鮮は社会主義国家ですから
ここに限らず労働者全員が「公務員」なんですけどね。
この「朝鮮国際旅行社」は北朝鮮にしかありませんが
その窓口代理店が世界のあちこちに置かれていて
海外からの北朝鮮旅行の手配を代行しているんです。

つまり北朝鮮とやり取りができる関係があって
いろんな手続きを代行してくれる
こういった専門の旅行会社にお願いすることが
ビザ取得のいちばん現実的な手段になります。
そうした代理店が実は日本にも複数あるんですよ。

以前はなかなかこれらの存在を知る機会がなかったんですが
最近はもうすっかりインターネットが発達してますから
おウチにいながらでも「北朝鮮 ツアー」などと
ちょいちょいと検索すればぞろぞろヒットします。
メールを使えばコンタクトや申し込みも簡単。
便利になったなぁ…

これらの旅行会社では
基本的なモデルツアーを何種類か用意していますので
その中から予算と興味に合ったものを選んで申し込み。
このへんはもうふつうの海外旅行パックと同じです。
旅行会社によっては個人的な希望を伝えると
現地と交渉してプランを組んでくれるところもあります。

申請に必要な書類や書き方も教えてくれるので
それを提出して代金を支払えば
受け入れ機関との調整だの連絡だの
面倒ごとはすべて丸投げお任せで
あとは出発を待つばかり。

ビザは中国を出発するときに受け取ります。
ほんと、いつでも簡単に行けるんですよ。
ビザの発給までに少し時間がかかるので
出発の1か月くらい前には申し込みが必要ですが。

ただ、「簡単に」とは言いましたが
ビザの発行にあたっては
けっこう細かいチェックがあるようで
それが時間のかかる理由のひとつでもあります。
実は警察官、自衛官といった職業のほか
社用ではなく個人旅行のマスコミ関係者や
過去おおやけに北朝鮮を批判したりした人は
発行を拒否されるそうなので注意。
そのへんはやはり厳しいお国柄なんですね。

●入国の経路は?

飛行機と鉄道の2種類の方法があります。
利便性から多くは飛行機利用になりますね。
当然ながら日本からの直行便はないので
いったん別の国を経由しなくてはなりません。
北朝鮮への国際便は中国とロシアから
中国国際航空と高麗航空が就航しています。

ただロシアからの入国は現在認められていないので
経由できるのは中国の北京か瀋陽のみです。
ツアーを申し込むとだいたい往復の飛行機も
セットで手配してくれるのでこれもお任せでOK。
LCCなんてもちろんありませんから選択肢はなしw
自分で手配する必要もないわけです。

航空運賃はほぼ正規運賃一本。お高いですよ。

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ってか、ピョンヤン行きの航空券が
自宅からネットでも買えることにビックリしたぞww

試しに検索してみたら見事にヒット。
えらい世の中になったもんだなぁ。
ま、さすがに高麗航空のチケットは買えないようですが。

さてこちらは北朝鮮のフラッグシップ高麗航空。

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世界約600社が対象の利用者満足度調査で4年連続最下位、
イギリスのサービス評価機関からは「星1つ」評価を受けるなど
散々な言われようのいわくつき航空会社ですが
航空機ファン垂涎の旧型機が現役で就航中ですし
CAさんもけっこうキレイです。ただし機内食はショボいらしい。

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こちら旧ソ連(!)製のツポレフ型。
さっきの写真はイリューシン型。まだまだ現役です。

でもせっかく北朝鮮へ行くなら乗っておきたいものです。
中国国際航空ならいつでも乗れますからね。


さてもうひとつの、鉄道で北朝鮮入りする方法。

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     中朝国境の橋を渡る国際列車(中国側から)

北朝鮮へは、中国とロシアからの国際列車があります。
中国の北京からの直通は週4便、
国境の町丹東からは毎日運行され、
ロシアのモスクワからは2週間に1便が走ります。
鉄道ならロシアからの国境越えも可能なはずですが
実際にはほとんど許可が出ない様子。
われわれ日本人は基本的に中国からとなります。

当然飛行機よりは時間がかかりますが、
運賃はかなり安くなりますし
なによりも日本にはない
「地続きの国境を越える」という
貴重で刺激的な体験ができるのでおススメ。
鉄っちゃんでなくても結構楽しめると思います。

ワタシは今回鉄道を利用しました。
鉄道の詳細レポはこの先の記事で。

●パスポートについての心配

パスポートにイスラエルの出入国スタンプがあると
アラブ諸国では入国を拒否される、といったように
特定の国家間の関係が複雑な時は
出入国スタンプが思わぬ障害になることがあります。

そんなわけで北朝鮮へ行ったとき
もしパスポートに出入国スタンプが残っていたら
韓国で入国拒否される?とか
そのほか何か面倒なことになるんじゃないか、と
心配に思う人がいるかもしれませんね。

でもご安心(?)ください。

日本のパスポートに出入国スタンプは押されません。
理由は簡単、国交がないからです。

北朝鮮にとっては
国交がない日本が発行したパスポートは
正式な書類とは認識されないのです。
なので公的なスタンプは押せない、と。
だからたとえお願いしても押してはくれませんよw

ではどうするか。
パスポートにではなく、ビザの方に押すんです。

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こんなふうに。

そして、このビザや観光証は出国時に回収されてしまうので
帰国後は手元に何も残りません。
逆に言えば北朝鮮に行ったという記念を
パスポートに残すこともできないわけです。
そういう意味ではちょっと残念ではありますが
こればかりは仕方がありませんね。

一方、いま持っているパスポートに
韓国やアメリカの出入国スタンプがあっても
北朝鮮の入国には影響ありません。
あくまでも正式に認められる書類ではないので
何が押してあろうと関係ねーや、というスタンスです。

まぁ一応実務的には公的な身分証として認めてるんですが
(だから出入国審査ではしっかり確認されます)
やはりお互いの国同士で何ら取り決めがない以上、
厳密には「なんの裏付けもない」ものにすぎません。

とはいえ現地での管理はくれぐれもしっかりと。
もしあちらでパスポートをなくしたりすると
大変に面倒なことになるので気を付けて。
とにかく国交がないので大使館はありませんし
事務的な連絡や調整もスムーズにできない。
なんとかニッポンの自宅を通して連絡が取れても
担当するのは外務省本省、霞が関相手になります。
そもそもが「渡航は自粛してね」の国ですから
「何で行った」「どういう関係だ」などとがっつり尋問され
家族に負担をかけるだけでなく
ヘタをするとマスコミにまで追われかねません。
そこんとこだけは充分に心得ておくことが大切。

「北朝鮮へ行く」ことって、もしかすると
行った先の北朝鮮よりも
帰ってくる日本の方がコワいのかもしれません(笑)

ともあれ、こんなふうに手順を踏めば
まぁ思っているよりは簡単に
北朝鮮へ行くことができるわけです。

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