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列車に乗って北朝鮮(2)~丹東→新義州~

●丹東出発

(ほぼ:笑)定刻の午前10時、
汽笛一声、列車がゆっくりと動き出しました。
いよいよピョンヤンに向けて出発です。

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向こうのホームには
中国ご自慢の高速鉄道和諧号が入線。

列車はすぐに鉄橋を渡ります。
下を流れるのは中朝国境を隔てる川の鴨緑江。

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この周辺は鴨緑江公園という国境の観光地で
橋の下では大勢の観光客が列車を見物してますよ。

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ちょっと優越感ありますねww

向こうにあるもう一本の橋は「鴨緑江断橋」。
朝鮮戦争時の1950年、
国連軍の爆撃で途中から破壊された
昔の橋がいまも史跡として保存されてます。
橋は現在遊歩道として整備され(←入場料必要)
先っぽは爆撃時の破壊部分を当時のまま保存、
北朝鮮を近くで見られる展望台としても人気です。
この日も観光客でいっぱい。

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いま列車が通ってる橋も当時からあって
同じように爆撃を受けましたが
こちらはその後修復されました。
途中の柱にはその時の弾痕が残ってますよ。
この写真に写ってる柱の穴がそれ。
その先は橋げただけがぽつんと残り
5分ほどで列車は橋を渡って
北朝鮮側の陸地へと入っていきます。

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「조선(朝鮮)」の表示を越えるとまもなく新義州駅。
向こうには有名(?)な観覧車が見えますね。

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やはり今日も動いてません…ww

●北朝鮮最初の駅へ

そして列車は新義州(シニジュ)駅に到着。
広いホームにゆっくりと滑り込みます。

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ホームには駅員のほかに警備兵が並んで
なんだか物々しい雰囲気。
やはり国境の駅ですね。

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この駅で乗客は全員、
税関検査と入国審査を受けます。
とりあえずは車内で待機。
まもなく入国審査官と税関職員が
それぞれ各車両へ乗り込んできます。

まずは入国審査官が
全員のパスポートを回収。
まとめて外へ持って出ちゃいます。
どうやら事務所で落ち着いて(?)審査するよう。
いきなりパスポート取り上げられるのも不安ですが
まぁ乗客全員がそうだし、大丈夫でしょう。

一方の税関職員は大変ですよ。
車内で一人一人から税関申告書を受け取り、

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すべての荷物をチェックしなければなりません。

1車両をだいたい2人ずつくらい担当しますが
2等寝台が満席だと66人もの乗客数。
狭い車内でいちいち大荷物を広げ、
さらにはスマホのチェックや身体検査まで。
そのうえ朝鮮語がわからない中国人も多く、
検査官も汗だくでちょっと同情しちゃいます。

とはいってもうわさ通りの厳重検査。
ワタシの番が近づくと緊張してきますよ。
お隣のコンパートメントの男性客は
中国で買ったらしい書籍を没収されてましたし、
別の客はスマホの中身でいろいろ質問責め。
うぁぁ、ドキドキしてきた…

飛行機よりも格段に厳しいと評判の検査です。
ネットにはいろいろ面倒な体験談も数多く、
もう一度アタマの中で整理です。

今回、本は一切持ってきてない→OK

パソコンの中のヤバい写真は全消去→たぶんOK

カメラ2台とビデオカメラの1人3台持ち→少し不安

カメラ用のちょっと大きい望遠レンズ→不安

スマホ、中国でちょっとマニア的にいろいろ撮った→不安

SNSで韓国の友達とやり取りした履歴→もっと不安

現地ガイドへのお土産用の酒やタバコ→かなり不安


…おおっ、大丈夫か?オレ。

●税関検査でどんでん返し

ついにワタシの番が来ました。

ちょっと気難しそうな年配の係官です。
事前に記入済みの税関申告書を渡すと
名前と国籍を見て険しい表情で
「日本人か?」と尋ねてきました。
と、ここであらかじめ企んでいた作戦を実行。

「ネ…ネー、イルボンサラミムニダ。クァングァンイムニダぁ」
(は…はい、日本人です。観光ですぅ。)

思い切って朝鮮語(厳密には韓国語)で返答してみます。
せっかく半年も韓国留学したんですからね。3年前だけど。
韓国語も朝鮮語もほとんど一緒さ、
さぁどうだ。

すると、なんということでしょう。
「お?」という反応のあと、
険しかった彼の表情が見事に変わりましたよ。
おお、コトバの力ってすごい!

やはり検査官も人の子、
いつも仕事で言葉の通じにくい中国人をはじめ
多くの外国人を相手に気を張っている中で
多少たどたどしくても母国語で話そうとする姿勢に
つい親近感を持ってくれたのかもしれません。

「朝鮮語がわかるの?」(以下お互い朝鮮語で)

「はい、少しですが。」

「どこで勉強した?」

「南朝鮮で半年間留学しました。」
(※北朝鮮では「韓国」とは言いません)

「へぇ、上手だね。」

「いえ、まだまだ難しいです。」

この後は態度も明らかにぐっと優しく。
本命の荷物検査もスーツケースの中を覗いて
「パソコン持ってるの?カメラはどこ?」と言うので
ココとソコに…と取り出そうとしたら
「あー、もういいよいいよ。」と現物見るだけでOKに。
他の荷物もほとんど広げることなくOKで拍子抜けw
現地ガイドへのお土産用にどっさり買ってたタバコも
見つかって一瞬ヒヤリとしたけど彼はお構いなしで
「日本のタバコ?日本ではいくらなの?」。
そして「一人旅?珍しいね、どこ行くの?」などと
興味本位にどうでもいい質問をしてくる始末。
もう税関検査なんだかどうだかわからん雑談で
別れ際には握手までしてくれてすっかり仲良しに(笑)

単にラッキーだっただけなのかも知れませんが
緊張のはずが、ちょっとホンワカしちゃいました。

●停車時間は約2時間

無事に検査終了であとは発車を待つだけですが
ここ新義州での停車時間はなんと約2時間!
数百人に及ぶ乗客全員の検査をするために
余裕を持った設定になっているんでしょうね。
発車時刻まではまだ20分ほどありそうです。
窓の外を見ると小さなワゴンが売店やってます。

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ほかの乗客もホームに出てるようですし
ちょっとノドが渇いたので飲み物でも買おうかな。

ホンワカ気分の延長でワタシもホームへ。
でも、出て行ってよく見てみると
商品のイメージがちょっと違う。
洋酒に人参酒、高級タバコ…
あとは化粧品や海苔セットなど
いわゆる「おみやげもの」がメインでした。
駅の売店、と言うよりは
むしろ小さな免税店、みたいな。
そういえば売り子のお姉さんも
シックでおしゃれな装いです。
それに中国語もかなり堪能。
押し寄せる中国人相手に少しもひるむことなく
テキパキ対応します。すげーな。

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もちろんお値段もなかなかなんですが
さすが爆買いで名をはせた中国人。
次々に高級商品に手を伸ばし
右から左から100元札が飛び交います。

そう。

ここ新義州駅って北朝鮮なのに
中国のおカネで買い物するんです。
というのも、
北朝鮮のおカネを外国人は持てないから。
だから外国人の旅行中の買い物は
現地通貨への両替をすることなく
元かドルかユーロをそのまま使います。
以前は日本円も使えたんですが
流通量が減った今ではほとんど使えません。
幸いミネラルウォーターもあったので1本購入。
お値段は2元、ということで5元札を出すと
「お釣りがありません」といって
2元しか返してくれませんでした、おいおい。
1元単位の買い物なんか相手にしねーってか。
ま、3元でも日本より安いからいいですけども。

さて、ホームの先を見てみると
出発時より列車が長くなってます。

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実はこの駅からさらに4両
国内線の列車を一緒につなぐんです。
北朝鮮では一般国民が乗る車両と
外国人が乗る車両は原則分けられています。
なので途中の駅で乗り降りする人のために
別の車両を連結するんですね。

もうちょっとカッコよく撮りたいなと
カメラを構えて前へ踏み出したその時、
背後から「オイ!」と呼ぶ声が。
さっきホームに立っていた警備兵です。
見るとまだ10代。幼い顔立ちですよ。

「いま何を撮った?見せろ。」
(朝鮮語の命令表現で)

仮りにも45超えたおっさんに向かって
おそろしく高圧的でエラそうな態度です。
ま、そのへんが軍人さんなんでしょうか。

「記念に列車の写真を撮ってたんだけど」と
(あえてこっちもタメぐち表現でw)
近づいてきた彼に画像を見せます。

妙に小難しい顔つきでモニターを目詰める彼。
「これはダメだ」「この写真は消せ」と
次々にダメ出しをしてきます。
列車がダメなのか駅施設がダメなのか
なんだか基準はよくわからないままですが
彼が繰り出すダメ出しに従って
結局何枚かの画像を消すことに。
でも「売店」の写真は良かったんだよな。
なんでだろ。

もう、さっきまでのホンワカが一瞬で台無しですよ。
まぁこのへんも北朝鮮のお国柄だと
これから気を付けていくことにしましょう。

やがて忘れかけていたパスポートも
きちんとそれぞれの手元に帰り
定刻を少し遅れて発車です。

そうそう、中国との間には時差があるので
時計を1時間進めないと。
「国境越えた!」って感じ、高まりますね。
さあいよいよ北朝鮮の車窓風景です。
楽しみ楽しみ。

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