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昔ながらのあたしい味

ひさしぶりに「王ろじ」にくる。

創業大正10年、1921年創業の101歳のとんかつの店。「昔ながらのあたらしい味」というキャッチフレーズがボクは好き。

路地の王様になろうと誓ってつけた店名。
大通りの王様でなく「路地の」王様を目指したことが、ずっと変わらず長く続いた理由のひとつなんでしょう。

大通りの商売は時代の流れに乗らなきゃいけない。路地なら通りの流れは静かで、自分らしさを守っていける。すぐ近くの表通りに伊勢丹があり、その引力に引き込まれることなく自分を守るってなかなかできることじゃない。
メニューはずっと変わらない。清潔を保つためにたまに改装するけれど、雰囲気自体は変わることなく昔のままを守っているのもステキなところ。
ここではいつもおなじ注文。「とん汁、とん丼、ご飯少なめ」。ふたりで来るとカツサンドをたのんで分けてビールのあてにして待って〆にとん丼とん汁と言う注文をしてました。思い返せば食べすぎでした。

王ろじ漬けがまずやってくる。薄切り大根の麹漬けなんだけどピーマンも一緒に漬け込まれてて緑に香りがとてもハイカラ。昔ながらの新しい味。
そしてメインのとん丼到着。献立表に「カツカレー」と但し書きがあるのだけれどどんなお店のカツカレーとも違って独特。丼にご飯を入れてカレーで覆う。とんかつをのせソースをかけて出来上がり。丼で出すとんかつだからとん丼なのでありましょう。

とんかつ自体も独特で、肉の筋を丁寧にとりクルンと丸めて筒状にして揚げる。衣は分厚くザクザク硬い。最近流行りのふんわりとして軽い衣の真逆にあって、それが肉のふっくらとしてやわらかでジューシーなことを引き立てる。カレーやソースに触れても衣がずっとバリバリしているところも悪くない。

カレーも独特。
スパイシーで旨味もしっかりしてるんだけど、カレーとしては物足りない。
カレー風味のソースのような味わいで、よく言えばとんかつの持ち味を邪魔せぬ仕上がり。

ただやっぱりなにか一味欲しくなるのです。
そこで芥子やとんかつソースをあわせていくと面白いように味が変わって自分好みが出来上がる。

とんかつをスプーンで崩してカレーやご飯と一緒に食べる。
カレーの辛さにソースの酸味、衣の苦味が混じり合い味がしっかり整っていく。しかも主役はあくまでとんかつ。他の素材は主役をしっかり引き立てる名脇役に徹しているのにうっとりします。
それそのものでおいしいものを組み合わせると互いが邪魔することがある。「足すならまず引け」。勉強です。

そしてとん汁。

これまた独特。まずベーコンと玉ねぎ、しいたけを手鍋で炒める。そこに出汁を注いで豆腐を入れて味噌を溶かして出来上がり。脂がキラキラ表面飾り、漉さずに溶かした味噌の粒がふわふわただよい量もたっぷり。

豆腐はなめらか、焼かれて縮んでいだベーコンは風味豊かで焦げた玉ねぎは甘くてうまい。味噌汁なのに香りはどこか西洋的で味噌の風味のベーコンスープのような味わい。
昔の人にとって衝撃的に新しい味だっただろうなぁ…、今でも十分新しい。
ここは器も独特で、器本体と下皿がくっついているオリジナル。

いつものように器を持ち上げ撮影してたらお店の人がニッコリしながら「こんな面倒なものを作ってくれるところが少なくなっちゃって」…、って。オリジナルであり続けることがむつかしくなる世の中ってちょっとさみしい。なやましい。


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