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へんてこりんで愛すべきナポリターノ

へんてこりんで、愛すべき料理が世の中にはたくさんある。
ボクが食べてあげないと、もしかしたら絶滅しちゃうかもしれないって、思うといとおしくていとおしくてしょうがなくなる。
新宿中村屋の「ナポリターノ」って料理がそういう料理のひとつ。

かつて新宿駅の東口といえばフルーツパーラーの高野とカレーの中村屋が並んであった数寄屋橋にはペコちゃんがあり、池袋にはパンのタカセ、渋谷の街には西村フルーツパーラーが今でも一階に店を持ってて駅前の顔になっている。
新宿のかつての顔はどちらも地下に潜ってしまって、かつてピロシキや肉まんが売られてたとこはコーチレザーのお店になった。家賃を取れるところから取っちゃいましょうということなのでありましょう。世知辛い。
改築直後は「マンナ」と店名をデカデカと出し、従来の中村屋との不連続性をアピールしてた。中村屋がプロデュースする未来指向のダイニング…、みたいな感じで突っ張ってたけど結局「中村屋」の暖簾を再び持ち出してメニューもかつての中村屋レストランとほぼ同じ。かつてのお馴染みさんでにぎわっている。

改築したから心機一転で若い人たちを呼び込みたかったのでしょうね。
でも若い人ばかりが上客じゃない。
昔からのお馴染みさんがまずホッとしてやってきて、娘さんとか後輩なんかを連れてくる。
その人たちが、いいな!と思ってきてくれるようになれば歴史は続いてく。
お客様がお客様を引き継ぐということがあるのです。
その人たちが引き継ぐのは、変わらぬ料理と信頼感。なんでもかでも変えりゃいいってもんじゃなかろうと思うわけ。

カレーが有名な店ではある。けれどボクには未来に繋いで欲しい料理がひとつある。
ナポリターノという麺料理。

名前をみればイタリア料理をイメージした料理なんだろうと思う。
でも麺は中国料理で使われる伊府麺。
乾燥させた平打ち麺で、しかもそれを土鍋で仕上げる。
中華料理かというと、やっぱりそうでもなくて、ボルシチやピロシキが有名な店だからロシア風のようにも思える。
国籍不明を怪しいと思うか、グローバルと考えるかで評価がわかれるかもしれない。
あさりのむき身がたっぷり入っているから「煮込みボンゴレロッソ」ということにでもしておきましょう。その「どこにも属さぬ感じ」が好き。

穴が無数に開いて仕上がる乾燥平打ち麺が、スープを飲み込みプルプル膨らむ。熱々をフーフーしながら吸い上げるとトゥルンと唇撫でて口の中へと飛び込んでくる。
ふわふわなんです。
麺がふわふわ。
フォークで巻いてパスタよろしく味わうとタリアテッレのようでもあってけれど小麦の香りが強烈。麺のデンプン質が徐々に溶け出し麺もスープもぽってりしてくる。

久しぶりに見るとマッシュルームがフレッシュのホワイトマッシュに変わってた。ちょっとよそよそしくなっちゃったのね…、とスプーンでスープをすくっていたら鶏ひき肉やトマトに混じって缶詰マッシュルームがいくつかあった。やっぱりこれでなくちゃとホッとする(笑)。
トマトスープはV8ジュースみたいな風味。パルミジャーノをたっぷりくわえ、コクと香りを楽しみ食べる。スープを全部飲み干すとセロリの香りが舌に残ってハイカラ味をたのしみ食べる。
カンカン帽を被った老紳士が隣でこれを肴にビールを飲んでた。カッコいい!


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