見出し画像

煉瓦亭。紳士淑女の物語

銀座の煉瓦亭。
連休前に食べておきたいものがあり、開店前に到着しちゃう。入り口の前でちょっと待ちます。
入り口脇の窓にゴールデンウィークの営業予定の貼り紙がある。
人が集まる銀座の街です。
ほぼ通常営業というのに頭が下がる。
それにしてもこの10連休は一体だれのためにあるんだろう…、ってしみじみ思う。

その貼り紙の下に今年のカレンダーが貼られてて、挿絵が「白いばら」。
去年の1月で90年近い歴史を閉じたグランドキャバレー。
全国各地出身のホステスがお国言葉で接客するのが売り物で、店の表に日本地図を模したホステスさんの在籍表が掲げられてた。
あぁ、今日は愛媛県の娘がお休みだなんて、冷やかし気分で見るのがたのしみだったのに…。
建物の老朽化が廃業の理由だったけど、銀座の街がそういう店に似合わぬ街になってしまったのが多分原因。
世知辛い。

ほとんどのテーブルが四人がけ。
テーブルのサイズもゆったりしていれば、配置されかたもゆったりしていて互いのテーブルが気にはならない優雅な空間。
一人で言っても四人がけのテーブルにひとり、座らせてくれる鷹揚なとこがなんともうれしい。

なのに今日。
ちょっと不思議なことが起こった。
ボクの隣のテーブルに背筋の伸びた女性がひとり、座りました。
メニューを開いて、何にしようかとニコニコしながら考えていた。
すると帽子を粋にかぶったシニアな紳士が、「こちら、よろしいですかな?」と彼女の向かい側に座った。
女性はちょっとびっくりした様子。
けれどすぐさま、「かまいませんよ」と笑顔で答える。
相席なんかしなくていいのに…、と隣でハラハラしながら様子をうかがった。

お店の人がやってきて注文をとる。
まずは女性に「何にいたしましょうか」と聞いて、彼女はオムライスをたのみました。
お店の人がそれに続いて「お連れ様は?」と注文を聞く。
紳士は「いや、連れではないんです」…、と、そういって周りを見回しおひとり様がみんな一人でテーブルにすわっているコトをみてとって、彼女に一言。

「どうも、お邪魔したようですな」と。

彼女が答える。
「一人で食事をするのはさみしいですものネ。よろしければご一緒お願いできますか?」
紳士淑女がひとつのテーブルを囲んで食事をすることとなった。
特別話をするでなく。
最初に紳士がたのんだコーンポタージュがやってきて、「お先に失礼してもいいですかな」とたずね、ニッコリうなずく彼女に軽く会釈して食事がスタート。
お代わりの水を注ぎにお店の人がやってきたときには、互いに譲りあったりもして、そのテーブルのムードはあったか。
女性を見ると、若い恋人同士がはにかみながら無言で食事をしているようで、紳士を見ると熟年カップルが互いをいたわり食事をしているようでもある。
シアワセな空気がそのテーブルから溢れ出し、隣のボクもシアワセにする。
レストランっていい場所だなぁ…、ってしみじみ思った。今日の午後。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?