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ソーセージが甘やかされてるホットドッグ

ホットドッグとはソーセージをおいしく食べる工夫の料理。
ドッグロールやドッグブレッドがでしゃばることなく、ソーセージの引き立て役に徹することが必要で、ただそのためには主役のソーセージが本当においしいものでなくてはならないんだ…、ということをしみじみ思い知ることができるホットドッグの話をしましょう。

新宿に「ベルク」という店がある。

セルフサービスで荒っぽい言い方をすればビールが飲めるドトールコーヒーみたいな場所。けれどこの店ほど新宿らしい場所はほかにないんじゃないかと思うほどに個性的。
誰がいてもおかしくない小さな空間。朝に1日を終える人。朝から飲み人、腹ごしらえをする人、コーヒーを片手に愛を語らう人たちと、カオスのごとき秩序をともなった無秩序がある。
ゴミゴミしていてどこに行っても人だらけ。無関心と好奇心の分量がおそらく日本で一番多い厄介な街、東京の中でも一番厄介な街、新宿をギュギュッと凝縮したらこの店ができるんだろうとさえ思う。

いつも人で溢れる店の理由は自由なムードと商品。
ビールもコーヒーも一流で、なによりハムやソーセージがうまい。ビールをおいしくさせる料理といえばハム、ソーセージにとどめをさします。ビールを売る努力をする人はたくさんいるけどハム、ソーセージのおいしさに無頓着な人が多くて、結局そういう人たちはビールを安く売ることでしか売れなくなっちゃう。
コーヒーのお供の軽食といえばサンドイッチやホットドッグが1番で、中でもホットドッグは東京1の逸品と思う。

オキニイリは極太のソーセージを使ったビッグドッグ。
そのビッグドッグのクワトロチーズかけを作ってもらう。
大きなソーセージを茹でるのに5分ほどかかるからと
ビーパーをもらってカウンター前に陣取る。首をちょっと伸ばすと厨房の中の様子がよく見える。じっくり茹でたソーセージがドッグブレッドの上に収まり、溶かしたチーズをスプーンでかけまわす様子を見届けて、ビーパーに呼ばれる前に立ち上がる。

ドッグブレッドに収まらないサイズのソーセージ。
今日はいつも以上に反っくり返り勇ましい様。拝みたくなる。
まずパキッとソーセージの先っぽを折り、とろけたチーズをぬぐってつけてパクっと食べる。

肉から生まれて肉よりおいしいんじゃないかと、惚れ惚れするほどの肉汁、味わい。最初はクニュクニュ、腸膜の食感がたのしめて、それがふっくらとしたひき肉のなめらかに置きかわる。ずっと噛んでいたいのに、そのおいしさを喉の奥へと引きわたさなきゃいけなくなるのが切ないほどのオゴチソウ。

さっくり歯切れて乾いた食感のドッグブレッドと一緒に食べるとそのなめらかが一層強調されていく。しかもほどよくトーストされて熱々のパン。収まっているソーセージが寒さを感じずずっとおいしくいてくれる。
食材をいじめておいしくする料理がある。例えばせっかくお湯の中でぬくぬくしていたうどんを冷たい水の中で冷やして鍛える讃岐うどんのような料理はスパルタ料理。
でもこのホットドッグのソーセージはぬくぬくのドッグブレッドに寝かせてもらい、上から熱々のチーズの毛布までかけてもらえる甘やかされ具合。うらやましくってしょうがない。

甘やかされる料理を食べると、食べてるこちらまでもが甘やかされてる気持ちになれる。
例えばうな重もそんな料理で、じっくり焼かれた鰻の蒲焼が寒くならぬようにとご飯のベッドの上でぬくぬく甘やかされる。上等なお重ではベッドだったはずのご飯を掛け布団にしてぬくぬく寝ている鰻が隠れていたりするから、気持ちはすっかり極楽です。

とろけたチーズがからむとソーセージのなめらかさに拍車がかかる。すべすべトロトロがふっくらフワフワに混じって口いっぱいにとろけが広がる。
チーズという食材を調味料と考えれば別だけれど、このホットドッグには調味料が使われない。パンの香ばしさ、ソーセージの旨味に塩味。チーズのコクや軽い渋みに風味で味がすべて整う。余計なものは一切ない…、という潔さが魅力の一品。

それもこれも主役のソーセージがおいしいからこそ。
だからホットドッグをはじめて食べる店ではまずソーセージをパキッと折って一口食べる。
パキッと音がしないソーセージがあったりします。味が足りなかったり味がし過ぎたりすることもあり、そんなときには、ケチャップやフレンチマスタードを食べる覚悟をして食べる。

ここではただただソーセージ味。
もぐもぐもぐもぐ、あっという間にお腹の中にすべておさまり、お供にもらった朝のカフェオレでお腹を潤す。ミルク多めでぬるい仕上がりのカフェオレまでが、ボクのお腹を甘やかす。

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