見出し画像

薄いのにスゴい!ステーキ

銀座の「吉澤」に肉を食べにくる。

画像1

肉屋さんがやっている日本料理のお店で、一階に精肉販売店があり地下の広間で昼は気軽においしい肉が食べられる。
すき焼きやサイコロステーキ、ハンバーグのような料理もあるけれど一番の売りは「薄切りステーキ」。
そしてその薄切りステーキをタナカくんは「スゴい料理」と評して愛でた。
いい店っていうのはムードやサービスを含めた総合点で決まるもので、案外多い。けれどいい店の料理がすべてスゴい料理かというと決してそんなことはない。
店の雰囲気がどうであろうが、サービスが良かろうが悪かろうが、料理そのものに迫力があり他の追随を許さぬほどにおいしいというのが「スゴい料理」。そうそう巡り会えるものでなく、稀有のひとつが銀座吉澤の薄切りステーキ。今日はそれを食べにくる。

画像2

暖簾をくぐって下足を預け、赤い絨毯を踏みしめながら地下の広間に座って落ち着く。

画像3

もともと広々、のどかで大きな座敷。透明の衝立が置かれているけどのんびりとしておだやかな空気、ムードは昔のまんま。

画像4

長テーブルの中央にお茶の入ったポットと湯呑みが置かれてて、まるで温泉旅館の広間に来たような感じがするのがご愛嬌。
はじめてここに食べに来たとき、タナカくんは少々ご機嫌斜めだった。理由は座敷に座ること。太っていたうえ、足を悪くしていたから料理がでてくるまで何度も足を組み替えてどんどん無口になってった。
ところが料理が出てきた瞬間、「スゴいねぇ…」って呟く声が明るかった。

画像5

薄切りなのです。

画像6

なのに断面が赤くレアといっていい状態で、焼けた表面はつやつや脂で輝いている。
焼けた脂の香りは切ないほどに甘くてなのにたくましく、食べる前からすでにおいしい。
今日もそんな状態で「この断面には惚れ惚れしますね」って言ったら「運んでいるだけで幸せになれますものね」と粋な一言。

画像7

ポン酢を含ませた大根おろしや醤油、わさびがついてくるけどまずはそのまま。塩と胡椒と脂と肉の混じり合うのを味わい、食べる。
あの時、彼はしばらく何も言わずに食べた。口のすみずみに味を教え込ませるようにゆっくり顎を動かして、味わい、たのしみ、そして最後に「スゴいねぇ…」って喉の奥から絞り出すような声で一言。

画像8

大根おろしやわさびに醤油。あるいはご飯の上にのせて一緒に食べてみる。肉の味の輪郭がはっきりします。

画像9

サイドに添えられた野菜サラダを巻いて食べると、フレンチドレッシングの酸味と野菜のみずみずしさで脂がすっきり、肉そのものの旨味が強調されるのもいい。
それと同時になにとどう組み合わせても、、肉そのものの旨味や脂の甘み、そして焼けた脂の香りや風味はゆるぎない。

画像10

こんなに薄く、なのにこんなに脂がのってしかも脂のおいしいことにうっとりしながら食べ終えて「もう一枚、おかわりしたくなっちゃうね」って言って2人で笑ったのが10年以上も前のこと。
コロナの前に一度来た。相変わらずスゴいねぇって感心しながら食べたけど、「歳とったなぁ…、一枚食べたら十分だ」って寂しそうにわらってた。体の調子がよくなかったんだろうなぁ…、って思って今日はちょっと泣く。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?