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おくることはさみしい

先日、ひさしぶりに「珈琲専門店エース」のドーナッツを食べたいなぁ…、と思って営業時間を確かめるためネットで調べた。
そしたら「閉業」ってマークがついてて、アッと思った。

創業昭和46年。
名物ののりトーストを紹介する幟旗にも「みなさまに愛されて52年」と書かれてあって、そんな歴史も今年でおしまい。

シニアご兄弟ふたりでやってらっしゃった喫茶店。
店の外観、お店の造り、そしてメニューのどれをとっても昭和そのもの。
かとってしおれていたかというと、看板やポスター、そして幟といつもキレイに整って定期的にあたらしくなる。
その空気感はみずみずしくて、若い人たちにも愛されていた。
名物ののりトーストの写真を撮ろうとするとおじぃちゃまがやってきて「キレイに写真を撮ってくださいね」って商品が一番バエる置き方をしてくれたりしていました。

昭和はおそらく仕事の合間にタバコを吸うサラリーマンに愛された店。今は禁煙。タバコを吸う人は他の店を求め、サラリーマンはドトールみたいな安いお店に鞍替えをした。
その跡を自然と若い人たちが埋めてずっと流行っていたさま、今の時流に無理やり合わせようとするのでなくて、自然でたおやかな生き残り術がステキだなぁ…、ってくるたびしみじみ思ってた。

タナカくんはここのドーナッツが好きだった。

提供前に「チンっ」ってオーブントースターのタイマーの音がするのネ。揚げドーナッツを提供ごとに焼いてあたため、穴の部分にバターを落としてグラニュー糖。
メニューにも「焼き立てドーナッツ」って書いてあって、ひっくり返すとたしかに焼けた跡がある。

焼いたときに揚げた油が落ちるのかなぁ…、案外軽い。
生地がボロッと壊れて散らかり、バターと混じってたちまちとろける。
これもひとつのクリスピークリームだよねなんて言って、グラニュー糖をジャリジャリさせて甘いアイスコーヒーと一緒に食べていたんだなぁ。なつかしい。

お店のことをよく知る人曰く。
しばらくお休みいたします…、と張り紙が貼られてそのまま閉業しちゃったらしいのですネ。
いついつ閉業いたしますって行った途端に、それまで来たこともなかったような人まで押し寄せ、大騒ぎになっちゃうことが多い今。
閉業を告知せずにひっそり幕をおろしたことが、この店らしい潔さってしみじみ思う。
それでよかった…、いや、それがよかったのだろうとしみじみ思った。

そして今日の月命日に「おくる」ということをテーマに書いてみようと思います。


予感はあったのです

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