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関西の喫茶店文化をイノダコーヒに学ぶ

東京駅の八重洲口側にある大丸百貨店。
関西の老舗百貨店ということもあってでしょう…、関西に本店をおく飲食店がいくつか揃う。
中でもよくぞいらっしゃいましたといいたくなるのが「イノダコーヒ」。
コーヒー好きさんが多い京都を代表する喫茶店です。
百貨店の中にありつつ優雅な空気がただよう空間。
赤いビロードのカーテンに同じ赤色の張り地の椅子。マホガニーのテーブルに天井から下がったオレンジ色の照明。豪奢な感じのインテリアが優雅な舞台。
その舞台の上を背筋をのばしてゆったり、サービスをするスタッフの笑顔や姿が優雅な彩り。
波打つ形のカウンターが隣の人との感覚をほどよく保ち、プライバシーを感じるしつらえ。

紳士服売り場の奥にひっそり入口がある。
にもかかわらずお客様が次々やってきてにぎわう。なのに、のんびりとした空気が壊れぬところがステキ。

関東の喫茶店は男性的でストイック。
硬い素材の背板直角の椅子に小さなテーブルという、サービス精神におおいにかけるお店が多い。おいしいコーヒーを心して飲め…、って命令形がおそらくお江戸の人のココロをくすぐるのでありましょう。
蕎麦の老舗のありようとなんだか似てると、ふと思う。

それに比べて関西の喫茶店は優雅な時間をたのしむようにできているような気がするのです。
コーヒーを売り物にしているのだからそれがおいしいのは当たり前。
それにコーヒーと言う飲みものは良い、悪いではなく好き、嫌いで判断されるもの。
その日の体の加減で味もかわろうともので、だから居心地のよい店内でゆっくり時間を過ごすきっかけ、言い訳としてコーヒーを使ってもらえばいいんだというサービス精神を強く感じる。

イノダコーヒもそういうお店。
コーヒーはいつものごとく「アラビアの真珠」。
ここで一番人気のブレンドで、たのむとお店の人がなにか質問しようとする。
ブラックで飲むのか。
ミルクや砂糖はどうするのか?という質問なんだとわかっているから、質問の前に「砂糖とミルクを入れて下さい」ってお願いをする。
おなじみさんな気分に浸る。

背が高く口とお尻の部分が広がる独特な形のマグでやってくる。
関西周辺の喫茶店にはこういう形の器が多い。
ミルクはたっぷり。
砂糖はほんの少々があらかじめ溶かされ器に注がれる。
だから一口目からほんのちょっとだけ甘く感じる。
甘いのじゃなく、「甘く感じる」というのが絶妙で、この甘みはミルク由来かそれとも砂糖で甘くしたのか舌が迷う程度の甘み。
すっきりとした苦味が際立つ。

スプーンに小さな角砂糖が一個乗せられ、カップソーサーにのせられてくる。
それを好きなタイミングで溶かして飲んでというメッセージ。
3分の1ほど飲んで砂糖を溶かす。
こんな小さな砂糖一個でびっくりするほど甘くなり、しかも酸味が膨らんでくる。いつも感心…、オモシロイ。

ミックスサンドをたのんで食べる。
実はちょっと迷った。
分厚いグリルドベーコンがのっかったビフカツサンドかBLT。
どちらもゴチソウ。なにしろここのベーコンは脂がのってて本当においしく、しかもパンはトーストされてる。
でも朝のことでした。
ふっかりとしたパンでお腹をやさしく満たしたくってそれで焼かないパンを使ったミックスサンド。
楕円形の洋白のお皿にのせられやってくるのがいかにも喫茶店のサンドイッチっていう感じで、しかもレースペーパーがお皿に光の模様を描く。食べる前からもうおいしい。あしらいに添えられているパセリの葉っぱがたくましく、緑の匂いが漂ってきて目をさまさせる。

ハムに玉子に野菜が並ぶ。
関西のお店なのにたまごサンドが卵焼きじゃなくたまごサラダというのが不思議な感じ。しかもたまごサラダはかなりゆるめでやわらかで、パンからはみ出し垂れ下がりそうになる。そうはさせじと息を吸いつつパクリ、パクリと食べていく。
ハムも野菜もたまごサラダも味のほんの最小限で、素材そのものの持ち味をたのしむ趣向。塩をパラリとふると劇的に素材それぞれの味が際立ちはっきりとする。ほのかに甘くスッキリとした苦味、酸味がおいしいコーヒーと一緒に食べると互いが互いをおいしくさせる。いつも感心、お勉強。

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