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待ってろ、カツレツ。ボクが元気になる日まで。

食べると体の芯から元気が湧き出す元気な料理。

オステリアナカムラのカツレツがボクにとってそういう料理。

好きなお店です。
六本木の裏路地に開業されてから20年近く通い続けるオキニイリ。
ゴキゲンなご夫婦でやってらっしゃっるお店の空気がほがらかで、おいしい料理を一層おいしくしてくれる店。


ボクを元気にしてくれるカツレツ

レモンを搾って、オリーブオイルであえたルッコラをお供に食べるカツレツ。

トマトソースで煮込んだカツレツ。

肉を薄く叩いたさっくりとした歯触りのカツレツもおいしいければ、奥歯を沈ませる肉感的な歯応えの分厚いカツレツも味わい深い。
カジキマグロのカツレツも元気になれる一品だった。

厨房の真ん前にあるカウンターに座ると調理の様子がよく見えて、五感が元気で満たされる。

毎月のように通っていました。
ただそのペースが2度、中断されたことがある。

お店に行って食べて元気になる条件

お店に行って元気をもらうには、お店の元気にふさわしい元気を用意しないといけない。
ボクはそう思っています。
本当に悲しいときには何を食べても味気ない。
元気になる心の準備ができていないと、食べて元気になることはできないんだも思うのです。
そしてボクには元気をふりしぼろうにもどうしようもない時期が2回、あったのです。

2010年にそれまで経営していた会社が潰れて、3年間ほど気持ち以上にお財布が元気じゃなかった。
それが1回目の中断の時期。
生活や仕事をすべてリセットさせて、1年ほどで仕事が軌道にのりはじめます。
無理をすればカツレツを食べにいける状態。
でも気持ちの余裕が足りなかった。

作って食べて元気を出そう

ボクにはタナカくんという5つ年下の同性パートナーがいました。
付き合いはじめたのは20世紀の終わり頃。
オステリアナカムラは彼と一緒にみつけたお店。
カウンターに座るボクの右側に彼がいなかったことは数えるほどしかなかったほど。
ボクが元気をなくしているのを心配して、ある日、彼がこういいました。

お店に行って食べることができないんなら、一緒に作って食べようよ。

みようみまねで作ってみます。
例えばこんな具合です。

鶏のむな肉を二枚に開き、叩いてほどよく薄くする。
パン粉をブレンダーで細かく砕いて、そこに塩と胡椒と粗くおろしたパルミジャーノ。細かく刻んだオレガノをいれ混ぜあわせ、良くおしつけてまとわせる。
オリーブオイルを多めにひいたフライパンでソテして休ませカツレツにする。
お皿に移してルッコラとトマトをオリーブオイルで和えたののっけて出来上がり。

フックラとした鶏むね肉の食感やさしい揚げ物料理。揚げているのにサッパリした味わいで、それを食べながらいつかナカムラさんの作るカツレツを食べに行くんだ…、と思ってがんばった。

お店でもらえる元気は格別

元気をもらおう…、じゃなくて。
元気を出そう…、でもなくて。
元気がほんのちょっとだけ足りないときに、行って食べるカツレツ。
だからまだ行けないなぁと思いながら、ふたりで家でカツレツ作って徐々に元気を蓄えて、経営破綻からほぼ3年。
カツレツがボクを呼んでるって思えるほどに元気になった。

ボクはナカムラさんに電話をかけて予約をしました。
それを隣で聞いていたタナカくんが「本当に元気になったんだね」ってうれしそうに笑ってくれた。
ひさしぶりに食べたナカムラさんのカツレツは、もうそれはそれはおいしくて、よしまた来るぞ…、って元気が体中から溢れるようなゴチソウだった。

それからボクらはかつてのペースでナカムラさんちに伺って、元気を蓄えがんばった。

なのに…。

待ってろカツレツ、ボクが元気になる日まで

いつもカウンターでボクの右隣にいてくれたタナカくんが突然逝ってしまったのが3年前の今日のこと。

再び元気が失せちゃった。
さみしくってネ…、かなしくて。
それでもなんとか元気をふりしぼって食べに行こうかとナカムラさんに連絡したら、「サカキさんの顔をみたらマダムが泣いちゃうから、無理をしないでいいですよ」ってやさしく言われて言葉に甘えた。

一年ほどして、お世話になったお礼をかねてお店にいった。
挨拶しながらいつも座ってたカウンターが目に入り、かなしくなってお店を出たら泣いちゃった。
行って食べることがむつかしいなら作ってみようと作ったけれど、ひとりで食べると味気ない。

そろそろ元気になれるかなぁ…、と、この命日に行ってみようかと思ったけれどあいにく今日は日曜日。
ナカムラさんちのお休みの日です。
これさいわいと、あのカツレツは先送り。

待ってろカツレツ。ボクが元気になる日まで。

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