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味噌煮込みうどん

硬いうどんと味噌煮込みうどん

いつのまにか讃岐うどんがうどんの代名詞のようになっちゃったけど、日本全国にご当地うどんと呼ばれるうどんがたくさんある。
福岡にはやわいので有名なうどんがあるし、宮崎県には釜揚げうどん。稲庭うどんも有名だし、大阪のきつねうどんも忘れることができないうどん。

名古屋には「味噌煮込みうどん」という独特のうどんの文化が昔からある。

茹でたうどんを鍋で煮込んで仕上げる鍋焼きうどんは日本全国のうどん屋さんの冬のメニューとして重宝される。
名古屋の煮込みうどんは茹でずに麺を土鍋で煮込んで仕上げる料理。
実は讃岐にも茹でずに鍋で炊いて仕上げる打ち込みうどんという料理があるし、山梨県のほうとうも類は同じ。
小麦の風味や旨み、栄養をもれなく味わうことができる上、調理道具がほぼ鍋ひとつという合理的な料理でもある。

もったいないことが大嫌いで合理的に物事を考えることが得意な名古屋の人にとって、鍋ひとつで出来上がる煮込みうどんはうれしい料理。
しかも赤味噌という、長時間高温で煮ても風味が劣化しづらい調味料が手近に入る環境にもある。
味噌煮込みうどんという名物が生まれ、ずっと愛され続ける素地が十分にあったということなのでしょう。

硬い味噌煮込みうどんは、非日常的なオゴチソウ?

代表的な店といえば「山本屋本店」。
県外からやってきた人のほとんどが最初に経験する味噌煮込みうどんも、山本屋本店のそれでしょうネ。
みんな一様に「硬くてゴジゴジしている麺と塩辛くて酸っぱい赤味噌独特の強い味」にビックリします。
好き嫌いの激しい味で、ほとんどの人がご飯のお供に食べるから、こんなに硬くて強い味の料理なんだろうなぁ…、名古屋の人は倹約家だからご飯をたくさん食べてお腹を膨らませるんだと勝手に理由を考え、腹に落とすのです。

これは讃岐うどんにおいても言えることなんだけど、県外で有名な讃岐うどんの店はみんな硬くて味が強くできてる。
本場、讃岐にあっても観光客の評価が高い店はどこも硬い。
お客様が「硬さを期待」して訪れるから期待に応えるためにどんどん硬くなっていくのでしょう。
ただ、硬い麺は消化が遅い。
その消化の遅さゆえに腹持ちがよく、野良仕事をする前に食べるうどんは硬いほうがいいと、讃岐うどんはどんどん硬くなっていったんだという人がいるほど満腹感が寺族する。
でも深く考えればそんなモノばかり食べていると、体にいいはずがないわけで、「食べ続けるモノ」にはふさわしくない。

だから山本屋本店の味噌煮込みうどんは日常的なゴチソウではなく、いつもと違ったちょっと特別なものを食べたいときに選ばれる料理なんじゃないかと思う。
その想像が決して突飛なものではないことを証明するようなお店が名古屋には沢山ある。

コシはあるけど硬いわけではない角丸の煮込みうどん

例えば「角丸」というお店。

煮込みうどんがおいしいので人気の店でうどんにきしめん、ラーメンなんかもメニューにあって、それぞれファンがついている。
先日行ったら、急に暑くなったから今日はカレー中華ネ…、なんておじさんもいる。
けれどやっぱり煮込みうどんが人気で、味噌で、カレーで、肉ネ、かしわネ、卵もネとみんな銘々好みを伝えて作ってもらう。

厨房の中ではキリキリっとパーマが効いた盛り髪にバッチリメイクのおばちゃんが、流れる汗をものともせずテキパキ料理を作っていきます。
お待たせしましたと鍋を運んでくるおねぇさんの顔も湯気で煙って見える。

味噌煮込みうどんに天ぷらと餅を追加で注文しました。
ぽってりとした土鍋がグツグツ、小さく、しかし激しく沸騰しながら到着。
切り餅が二枚。エビは上半身をどっぷり汁に浸かるようにし、尻尾がピンっと宙を突く。
お揚げにお麩にネギにかしわと具材は豊富。
麺が細めというのがここの特徴。最初がゴリゴリ硬いのだけど徐々に熱が入ってねっとりしてくる。
餅もねっとり、天ぷらの衣もねっとり。そのねっとりが溶け出して、ブクブク沸いてた汁がフツフツタプンを軽い粘りを帯びてゆっくりおさまっていく。食べ頃です。

表面に軽いとろみをまとって口へと飛び込んでくる熱々の麺。噛みごたえがあり、けれど硬すぎることもなく歯切れが良くて腰がある。味噌出汁をたっぷりからめて口の中を潤わすのにウットリします。
エビの天ぷらは衣が脱げて裸になるも、そのエビの衣を脱いでも立派なこと。衣は汁をたっぷり吸い込み味わい豊かな具材に変わる。
汁の本当においしいことに、一心不乱に飲み続け汗がポタポタ、メガネも曇る。赤味噌独特の酸味や甘味はあるものの、渋みや苦みがほとんど無くて出汁の旨味が際立つおいしさ。お供にご飯がなくとも汁まで全部飲み干す。

ここの煮込みうどんを食べると、麺が硬いということと、コシがあるということはまるで別ものなんだなぁ…、としみじみ思う。
オモシロイ。

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