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豚汁はとんじるなのかぶたじるなのか…。

新宿の「王ろじ」。

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とんかつという料理が生まれた日本の洋食黎明期からずっと今に続く店。
創業大正10年です。
西暦1921年。あと二年で創業百年。

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お店の脇には「昔ながらのあたらしい味」とかかれた看板があって、言うのは簡単。けれどそれを実践するのはむつかしく、そのむつかしいことをやり続けたからまもなく100年ということなんだ…、としみじみ思う。
厨房が目の前にあるカウンターに座って料理を待ちます。
ご主人がとんかつを揚げ、奥さんが料理の進行や出来栄えをチェックしながら確実な料理がお客様の前に届くように気を配る。厨房と客席を行ったり来たりするベテランスタッフ。若い見習いの調理スタッフも一生懸命。ワクワクします。

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大根やピーマンを麹で漬けた王ろじ漬けを食べながら、メニューを見ていてオモシロイことにいくつか気づく。

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とんかつという商品名は当たり前。
誰も「ぶたかつ」とは言わない。「今日はぶたかつを作ったよ…」って言われたら、どんな料理が出てくるのかドキドキしちゃうほどに「豚かつはとんかつ」。
けれど豚汁を「とんじる」というのか「ぶたじる」と呼ぶのかは地域によって違う。ちなみにとんじるは重箱読み。日本語としては 変則的な読み方ではある。
ただ「豚」をぶたと読むと動物としての豚をイメージさせる。牛をうしと読むと動物としての牛、ぎゅうと読むとにくを連想させるのと一緒で、だから「ぶたじる」は豚が流した汁とか、豚を洗った汁のように感じてしまう。
ここでは「とんじる」。
オモシロイのが一般的に「かつサンドイッチ」と呼ばれるものをここでは「とんサンドイッチ」と呼ぶ。たしかにカツは素材にパン粉をまとわせ揚げたもの。カツサンドと言ってそれをすなわちとんかつを挟んだサンドイッチと思わせるのは考えてみれば力技。ただ「とん」のサンドイッチだと揚げた豚肉なのか、焼いたのとかがわからないから、それも力技であることには変わりなし。料理の名前はオモシロイ。

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ここの名物。そして一番人気の「とん丼」と「とん汁」たのむ。

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とん丼は、どんぶり状の器に入ったカツカレー。ご飯をカレーで覆ったところにカツを並べてソースを垂らす。カツがちょっと独特で脂を削った豚ロース肉を筒状にして衣をつける。細かなパン粉がぎっしり貼り付きガリッと揚がったとんかつで、ジューシーではない。
けれどザクッと壊れる衣の歯ざわり。がっしりと肉の歯ごたえはたくましく肉が蓄えたままの自分の旨味が口に広がっていく。

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とん汁は注文を受けてから玉ねぎやベーコンを炒めてスープを注ぎ、味噌を溶かして仕上げるもの。熱々で素材が焦げた風味がおいしい。

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カレーがちょっと独特です。
スパイシーでじんわり辛さがあとからあとからおいかけてくる。
ただ味がひとあじ足りないように感じるんです。
ソースの出番。
酸味が強くて、フルーツティーな甘さと旨味が力強いソースをかけて食べると不思議なほどに味が整う。
若い頃より歳をとってからおいしいと思う料理があってここの料理がそういう料理。

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若い頃はちょっと変わったとんかつを売る店ぐらいにしか思ってなかった。ところが40を過ぎた頃かなぁ…、久しぶりに食べて、あれっ。こんなにおいしかったか?と不思議に思うほどおいしく感じた。食べ続けた結果、下と頭が味を覚えたというコトと、余分を削ぎ落とした静かで素直な味が経験を積んだ舌においしく感じるようになったから。…、なんだろうなとしみじみ思う。

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そういう料理を出す店に限って何十年も続く老舗が多いのですね。当然その逆もあって、若い頃は熱狂したのに歳を重ねて、もういいやって思って食べなくなる料理。あるいは行かなくなってしまう店。最近はそういう店の方が多いな…、ってまたしみじみ。
ちなみにとん丼の丼がかなり変わってて、下皿と丼のように見えるのだけど実は両方がつながっているオリジナル。だから丼の方だけ持っても下皿までもが持ち上がる。ボクが通うようになってから器自体は三代目。でもずっとこの大きさでこのスタイルというのもステキ。

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とん汁の中でポカポカあったまるスベスベ豆腐にシャキッと甘い玉ねぎと焦げたベーコン。それすらご飯のおかずになります。お腹にすべてを収めても、お腹が重たくならないところがまたステキ。

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