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アデウス・ミロンガ

神保町の「ミロンガヌオーバ」が12月で閉店になってしまうと友人に教わった。

今の建物が取り壊されて移転するため、ということらしい。
おそらく耐震基準も満たさぬ古い建物です。早晩、無くなることを覚悟してはいたけどさみしい。

床の煉瓦のひとつひとつに天井の梁やテーブルに椅子、壁の染みにも愛着があり、それらすべてを別の場所に移設したとて今のようには絶対ならない。
なにより表の路地の景色は作れない。

スピーカーはどうなるんだろう…、建物自体が音の一部をなしていたから場所が変われば音も変わってしまうのでしょう。もったいないなぁ…、と思うもそれもせんないことです。
ここに来ると飲みたくなるのがウィンナコーヒー。今日もそれ。

昭和の喫茶店には必ずあった。「コーヒーにウィンナーが浮かんでいると思ってた…」なんてあるある話も今も昔の昔の飲み物。カフェラテやカプチーノにすっかり駆逐されちゃった。

すっきりとしたブレンドの上に硬めに立てたクリームをたっぷりのっけて溶かさずそのままズズッとすする。
唇にふれるクリーム。そのクリームの隙間からコーヒーが口へとゆっくり流れ込む。冷たいクリームでコーヒーの温度が下がりのどごしなめらか。コーヒーの味もお店を満たすアルゼンチンタンゴの音も濃厚。うっとりします。

このシアワセもあと数ヶ月。閉業がせまると本当にかなしくなるから、ここにくるのは今日を最後にしようと思う。さようなら。


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