見出し画像

ソーシャルワークを極める講義NO.2 労働環境の変化



今回の内容は、YouTubeで視聴できます。


1.労働環境の変化


労働力人口の推移ということで見ていきますと、労働力がどれくらい増えていくのか、あるいは減っていくのか、このようなところが注目すべきところになります。

労働力人口とは、労働の意思と労働可能な能力を持った15歳以上の人の人口を指します。
労働力人口は、就業者と完全失業者の合計からなりますが、生産年齢人口から非労働人口を差し引くことでも算出できます。

日本では、少子高齢化が急速に進展した結果、2008年をピークに総人口が減少しています。
つまり、1967年には初めて1億人を超え、その後、2008年の1億2814万人をピークに減少に転じています。
日本は、いわば未曽有の人口減少時代を迎えています。

このような状況の中で、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によりますと、生産年齢人口(15歳~64歳)は、2020年時点で、7509万人(総人口に占める割合は59.5%)だったものが、約20年後の2045年では、5832万人(53.6%)まで減少すると推測されています。
生産年齢人口は、次第にこれから下がっていくということです。
そして、将来的にはかなり減っていくだろうというふうにも言われています。
そうした中で、労働力の中にあっても、一番下の15歳から29歳がどのように推移しているのか。そして、30歳から59歳という人達がどのように推移するのか。そして、60歳代前半層、あるいは65歳以上の人たちが労働力人口の中でどれくらいの割合を保ち続けるのか。

そういうものについて細かい数字は必要はないですが、傾向は掴んでおいて頂きたいところであります。
結局のところ、労働力層の上の方が労働力人口の中で、やはり比率としては大きくなっていく、ということを示しているわけです。

それから、労働環境の変化としては、なんといっても女性の労働力率に注目してほしいところであります。
今、女性のどれくらいが労働市場に出ているのか、つまり働いているのかということです。

それから、高齢者の就業人口というものも注目して欲しいところであります。

労働力人口の確保が叫ばれている中、女性であっても、高齢者であっても、働く環境を整えていって、女性も高齢者も労働市場へと参入してもらう。このように労働市場に多くの人達が算入してくれば、労働力人口。いわゆる社会保障を維持する人たちが、それほど大きくは減らないだろうという風に言われるわけです。
これからの女性は、どんどんと働いてくださいね、また、高齢者は、まだまだ働いてくださいねということです。

確かに、日本では、人口がどんどん減少しております。しかし、労働力人口や就業者数は、1990年代の水準、つまり6500万人前後を維持しています。
特に、女性と高齢者層の就業率が大幅に上昇しています。
令和2年版厚生労働白書より


女性の就業率が増えていることについては、共働き世帯が増加していることからも窺えます。


但し、2020年からは労働力人口が徐々に減っていきます。


現在、日本政府は、この減った部分を外国人労働者で埋めていくという政策をとっています。
日本で働く外国人労働者は、2023年10月の時点で、204万人余りと、初めて200万人を超え、これまでで最も多くなったことが厚生労働省のまとめで分かりました。
厚生労働省は「建設や医療など人手不足と言われる産業での増加率が高い。」と述べています。
国内の日本人の人口は、年間80万人以上減少しています。また、労働力人口も徐々に減少しています。建設や医療などの人手不足と言われる産業のサービスが成り立たないと、日本人自身が生活できなくなります。
そこで、ロボットやAIの活用が進んでいます。しかし、人材を十分に補えるところまでは達していません。労働者の確保があらゆる産業で死活問題になっているなか、日本は、204万人余りの外国人労働者に頼らざるを得ないのが現状です。
一方で、まだまだ外国人に偏見を持つ人が多いというのも現実です。外国人に労働者として本格的に日本で定着してもらうためには、国として共生社会に向けたビジョンをより明確に示していく必要があるわけです。


(1)高齢者層の労働力人口


次に、高齢者層の就業率の大幅上昇の原因を説明しておきます。


高齢者層の就業率の大幅上昇の結果については、年金受給年齢が原則65歳からとなったことと、以下の法律の影響があります。

・1994年の改正高年齢者雇用安定法により、60歳未満の定年が禁止されたこと(第8条)

・2013年の改正高年齢者雇用安定法により、定年が60歳から65歳に引き上げられる等の措置を求められることになったこと(第9条)

が影響しているものと思われます。

要するに、高年齢者雇用安定法では、定年を「65歳以下」に定めている企業は、以下のいずれかの対応をする必要があると規定しています。

具体的には、高年齢者雇用確保措置として、

①定年の引き上げ(65歳以上に引き上げる)

②継続雇用制度(定年後も高年齢者の希望に応じて雇用を延長する制度➡再雇用制度・勤務延長制度)の導入

③定年制度の廃止

これらのいずれかを講じなければならないとされております(第9条第1項)。

再雇用制度と勤務延長制度の違い

内閣府「令和6年版高齢社会白書」より

60歳から非正規の職員の割合が増えていることから、継続雇用制度のうち、勤務延長制度ではなく、再雇用制度が採られていることが分かります。

事業者がいずれも実施せずに義務違反をすると、どうなるか。

この場合、厚生労働大臣は、事業者に対し、指導→勧告→企業名公表ができるようになっています(第10条)。

それから、より一層の労働力不足を解消するために、またまた高年齢者雇用安定法が改正され、2021年4月から施行されています。
2021年の改正で重要なポイントは、定年年齢を65歳から70歳まで引き上げる努力義務が追加されたことです。
厚生労働省の高年齢者雇用安定法の改正の概要のパンフレットより

要するに、2021年改正により、高年齢者雇用確保措置が、以下の形に変わります。

改正前は、65歳まで、義務として、
①65歳までの定年の引き上げ
②65歳までの継続雇用制度(定年後も高年齢者の希望に応じて雇用を延長する制度➡再雇用制度・勤務延長制度)の導入
③定年の廃止
のいずれかの措置をとることであったわけです。

これが、2021年4月からは、70歳までの就業確保が努力義務となりました。

高年齢者就業確保措置として、
①70歳までの定年の引き上げ
②70歳までの継続雇用制度(定年後も高年齢者の希望に応じて雇用を延長する制度➡再雇用制度・勤務延長制度)の導入
③定年制の廃止
その他にも2つの措置があるのですが、いずれかの措置を講じる努力義務が創設されたわけです。
厚生労働省の令和5年「高年齢者雇用状況等報告」によると、70歳までの高年齢者就業確保措置を実施している企業は、約3割になっています。





第25回第49問の選択肢

雇用状況と労働環境の現状に関する問題で、「65歳までの安定した雇用の確保を図るため、事業主は、必ず定年を65歳まで引き上げなければならない。」〇か✖か







この選択肢は、誤りです。
高年齢者雇用確保措置として、①定年の引き上げ(65歳以上に引き上げる)、②継続雇用制度(定年後も高年齢者の希望に応じて雇用を延長する制度)の導入、③定年制度の廃止のいずれかを講じなければなりません(第9条第1項)。ここは、「いずれか」となっているので、事業主は、必ず定年を65歳まで引き上げなければならない、というわけではありません。あくまでも①定年の引き上げ(65歳以上に引き上げる)、②継続雇用制度の導入、③定年制度の廃止のいずれかを講じなければならないというわけです。



では、人口が減ったり、労働力人口が減ったりするということは、どういうことかを確認しておきます。

人口が減ったり、労働力人口が減ったりするということは、社会保障を支える人口も減るということです。
高齢化に伴って年金・医療・介護等の社会保障の支出は伸び続けており、今後も増大が見込まれています。
社会保障給付費の財源は、保険料と税により賄われていますが、このまま人口が減少し、少子高齢化がさらに進めば、生産年齢人口の全世代に占める割合がますます減少することが予想されます。そして、増え続ける社会保障給付費を賄えるだけの保険料収入や税収の確保が困難になると考えられています。
要するに、このままでは、社会保障制度の保持が難しくなるということです。そのために、国は、どのような対応、対策等をしていったらよいのか。

この点については、いろいろと言われているところです。
例えば、未来を担う次世代を育てるとか、女性や高齢者に活躍してもらうとか、外国人労働者を受け入れる等です。このあたりが鍵になるといわれています。



(2)女性の労働力人口


ここでは、特に女性の活躍について深掘りしておきます。

男性、女性という性別で労働力人口というものの比率を見た場合に、以前は女性の労働力というものは、中学卒、高校卒、大学卒などから社会に出て急速に労働力が増えていって、その後、結婚、妊娠、出産、育児などがあって、このことにより女性の労働力が下がる。そして、また育児が終わった段階で、女性が労働市場に復活するということで若干上がる。そして加齢とともに次第に労働市場から去っていくという流れです。
これをグラフにすると、アルファベットで言うと「M」という字にその形が似ているので 、女性の働き方というのは、M字型雇用と言われてきたわけです。
ところが、最近の動きを見ると、次第にその M という字がそれほどはっきりとした M ではなくなってきています。このように女性の働き方も変わってきているということも押さえておいてください。
ちなみに、男性の場合は、完璧に台形型です。

あと、1980年以降、共働き世帯が年々増加しております。
1997年以降は、共働き世帯数が男性雇用者と無業の妻からなる世帯数(専業主婦世帯)を上回っています。

この図を見てください。
共働き世帯は黒の線、赤の点線は専業主婦世帯を示しています。
1997年のところを見てください。逆転しています。その後は、その差がかなり開いてきています。専業主婦世帯は、2020年のところを見ると、571万世帯になっています。1980年と比較すると、専業主婦世帯は、半分くらいになっています。


資料出所
総務省「労働力調査特別調査」、総務省「労働力調査(詳細集計)」

以上のような、労働力人口を増やすための女性の社会進出に伴い、仕事と家事の両立が難しく結婚や出産を諦める女性が増えている、あるいは、男女共に結婚する気がない人が増えているというということがあって、このことが、更なる少子化の原因になってきているということがあります。これでは、当面はなんとか凌げるが、将来的には先細る一方です。
そこで、女性の社会進出を進める一方で、女性が結婚や出産をしやすい環境をつくっていくことが必要となってくるわけです。育児の両立や家庭における子育ての支援など、子育てしやすい社会・街づくりを進めることが肝要になってきます。


2.労働力調査の結果の要約


総務省統計局による労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果の要約についても触れておきます。


(1)就業率


就業者数は、2023年平均で6925万人となっています。

男女別にみると、男性は 3801万人。女性は 3124万人となっています。

男女の割合としては、男性が約55%。女性が約45%ということになります。

就業率(15 歳以上人口に占める就業者の割合)は、2023 年平均で 61.2%となっております。この61.2%は、前年に比べ 0.3ポイントの上昇になります。

就業率の推移

(2)雇用者


雇用者とは、生産活動に従事する就業者を指しますが、個人事業主と無給の家族従事者は除かれます。

労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)によると

雇用者数は、2023年平均で6076万人となっています。

雇用者を男女別にみると、男性は 3282万人、女性は 2793万人となっています。
比率としては、男性が約54%、女性が46%の割合になっています。ほぼ半分、若干男性が多いという比率になっています。

次に、2023年、就業者が最も増加した産業は、「宿泊業、飲食サービス業」になります。


(3)完全失業率


完全失業率とは、労働力人口(就業者と完全失業者の合計)に占める完全失業者の割合のことです。

これは、失業率(完全失業率)=(完全失業者÷労働力人口)×100 という計算式で求めていきます。

完全失業率は、景気のバロメーターと言われています。

2023年の平均の完全失業率は、2.6%でした。
この2.6%は、前年と同率です。


完全失業率については、2009、10年ころの5.1%。この辺は、2008年にリーマンショックがありましたので、完全失業率が高かったわけですが、その後は、徐々に完全失業率は減少していたわけです。
ところが、2019年の2.4%だったのが、2020年には、コロナウィルスの関係で完全失業率の増加となり、2.8%となったわけです。

特に注目すべきは、15歳から24歳男性の完全失業率が、4.1%と一番高い数値になっているという点です。

2023年の完全失業者数は、178万人となっています。前年に比べ1万人の減少となっています。


完全失業者の意味もしっかりと押さえておいてください。

完全失業者とは、15歳以上の就業者ではない者で、
1)仕事がなくて調査週間中に少しも仕事をしなかった。
2)仕事があればすぐ就くことができる。
3)調査期間中に、仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた。(過去の求職活動の結果を待っている場合を含む)
以上の3つの条件を満たす者のことを指します。


(4)正規と非正規の割合


正規の職員・従業員数は、2023年平均で 3615万人でした。前年に比べ 18万人の増加となっております。しかも、9年連続の増加になります。

非正規の職員・従業員数は、2124万人でした。こちらは、23万人の増加です。

なお、役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は、 37.0%でした。
あと、特徴的なのは、非正規の職員・従業員を年齢階級別に見た時に、65歳以上の階級の増加が目覚ましいという点が挙げられます。ずっと増加しています。


創作問題

「総務省統計局による労働力調査(基本集計)2023年によると、 2023年平均において、雇用者 (役員を除く。) に占める非正規の職員・従業員の割合は3割を超えている。」〇か✖か








この選択肢は、正しいです。
雇用者 (役員を除く。) に占める非正規の職員・従業員の割合は、37.0%になっており、3割を超えています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?