社会調査の基礎 NO.3 量的調査と質的調査
今回の内容については、YouTubeで視聴できます。
1.量的調査(統計調査)と質的調査
ここの部分は、ほぼ毎年必ず出題されますので、全体を通して学習してください。
それでは、内容に入ります。
(1)量的調査と質的調査の違いと両者の関係
量的調査と質的調査の違いは何か?
端的に言えば、データとして数字を扱うか、言葉を扱うかの違いです。
数字を扱うのが量的調査で、言葉を扱うのが質的調査です。
国家試験では、まず質的調査と量的調査のそれぞれの特徴をしっかりと把握していることが大事だと思います。
なぜかというと、質的調査と量的調査の特徴を把握することによって、解ける問題が結構あるからです。
量的調査と質的調査のそれぞれの特徴
量的調査とは、調査対象となる集団から、ある一定規模の数値化できる量的データを収集し、収集データから、調査対象集団の性質を統計学的に分析・総合する調査方法を言います。
量的調査というのは、アンケート調査に代表されるようなやり方です。
量的調査では、データをたくさんの人から集めます。たくさんのデータを集めて、それをデータ入力したうえで統計的に分析をする。これが量的調査の特徴です。
この特徴からお分かりのように、量的調査は、統計を使うので、その結果を一般化できます。つまり、再現性がある、科学的にできるということです。これが量的調査の最大のメリットになります。
他方で、デメリットは、1人1人のデータは数的・量的に扱われますので、1人1人のデータの特徴は消えてしまって、全体的な数字でしか表せないということです。そういったデメリットがあると言われています。
一方、質的調査については、たくさんの人から聞くのは現実的には難しく、少数の人から聞くことになります。少数の人に面接してインタビューをする。例えば、半構造化面接とかです。
質的調査は、面接を通して、それぞれの語りから、アンケート調査では得られない、本人の表情等の細かいニュアンスや深い価値観を発見し、その内容を深く分析をして、そのプロセスとか、それから個別性を描こうとします。これが質的調査のメリットです。
質的調査のデメリットとしては、なかなか量的で明確な結果が得られない、あるいは分析もなかなか難しい面があるので、一般化することが非常に難しく、一般化することに課題があると言われています。
要するに、質的調査は「科学的でない」ということです。
ここにいう「科学的」というのは、一般的には「再現性」のことを指して用いられています。
端的に言えば、質的調査では、現場の環境や調査者の質、データの分析方法によっては違う結果が出てしまうのではないか、ということです。
量的調査と質的調査の関係について
量的調査のメリット、デメリットは、裏返せば、質的調査のメリット、デメリットとなるので、これらは競争関係にあるものでなくて、補完的なものとみなされています。
ですから、量的調査と質的調査は、両方行われます。これをミックス法と言います。
ミックス法は、両方一緒にやって、研究を進めていこうという方法です。
例えば、生活者の価値観を深堀りしたい場合、量的調査では見えてこない可能性があります。そこで、質的調査で深い価値観を深掘りする。
しかし、いくら深掘りしても、その価値観を持つ人々が全国に果たしてどれだけいるのかが分からなければ、例えば、企業が何か新しい事業をやろうとして資金をつぎ込むことに躊躇してしまうということも出てきます。
そういった際に量的調査が補完的な役割を果たすことができます。
要するに、量的調査と質的調査のメリットをそれぞれ補完的に利用するわけです。
こういう方法もありますので、いろんな方法があるということを知っておいてください。
2.量的調査
(1)全数調査と標本調査
量的調査は、調査対象の選択方法による違いから、全数調査と標本調査に分かれます。
なお、全数調査は悉皆調査(しっかいちょうさ)とも言います。
全数調査とは、ある集団の特性を調べるため、研究対象の全て(これを母集団と言います。)に対して行われる調査のことです。
例えば、国勢調査は、全数調査の代表例になります。
標本調査とは、一定の手順で選び出した調査対象(母集団)の一部、つまり標本(サンプル)に対してのみ行われる調査で、母集団の特性を推測する方法になります。
例えば、国民生活基礎調査、家計調査などは、標本調査の代表例です。
では、具体例を出して、全数調査と標本調査の区別ができるようにしていきましょう。
例えば、愛知県に暮らす高齢者の就業意欲を調べようとしたとします。
愛知県内の高齢者のうち、500人を対象に調査を行いました。この場合、この調査は、全数調査でしょうか、標本調査でしょうか。
この場合、 愛知県内のすべての高齢者について調査を行うわけではなく、特定の500人のみを対象とするものになっています。なので、標本調査になります。
標本調査では、調査の対象となるものを標本とか、サンプルと言います。
そして、標本を含む研究対象の全体を指して、母集団と言います。
では、先ほどの例を使って、確認していきます。
愛知県の例では、母集団と標本は、それぞれ何が当てはまるのか。
母集団としては、「愛知県で暮らす全ての高齢者」が当てはまります。
標本としては、「県内の高齢者500人」が当てはまります。
そして、全数調査を行うことは、小さな集団を対象とするとき以外はかなり難しいということが言えます。
そこで、「母集団から少量の標本を取り出して母集団の様子を推定する」 方法、つまり、標本調査をせざるを得ないわけです。
ここで皆さんに確認して欲しいのは、何のために標本調査を行っているのか、標本調査を行う意義は何か、ということです。
量的調査では、まず母集団というものがあります。
母集団は、研究対象全体になりますが、実際にデータを得る場合には、標本調査の方法が選択され、研究対象全体ではなく、ある一定の調査対象者からデータを得ていきます。
例えば、男女の違いを調査する場合、母集団としては、全ての男性と女性が対象になります。しかし、実際には、標本調査の標本となる人、つまり、サンプルになる人に調査をして、そこから母集団を推計するということをします。
標本調査の場合、実際に観察された標本データを基にして、直接には観察していない母集団についての特性を得ることを目指しています。
要するに、母集団から一部の標本を取り出し、その標本を分析した結果から母集団の特性を推論していくわけです。これが標本調査を行う意義になります。
そして、このような標本調査をする場合に大事なことがあります。
それは、よくかき混ぜるということです。
では、標本調査をする場合、標本はどこから、どのように、どれくらいの量を選んだらいいのか?
例えば、名古屋市において調査をしたというときに、南区の人にだけ調査をしたらどうでしょう。
これでは、名古屋の人の実態を表しているとは言いがたいわけです。
よって、どこから、どの位の人を選んで調査をすることが必要なのか、ということを考える必要があります。これがサンプリングです。
つまり、標本が母集団を適切に代表していなければ、母集団について誤った結論が導かれてしまうので、母集団を適切に代表する標本を得ること、つまりサンプリング(標本抽出)が極めて重要な課題となってきます。
そこで、これからサンプリングについて見ていきます。
第30回第86問の選択肢
全数調査と標本調査に関する問題で、「全数調査の場合、母集団から一部を取り出し、取り出した全員を対象に調査する。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
選択肢のように、母集団から一部を取り出し、取り出した全員を対象に調査するのは標本調査です。全数調査は、対象となる母集団に属するすべての者に対して行われる調査です。
(2)サンプリング(標本抽出)
社会調査をする際に重要なものとして、サンプリングがあります。
サンプリングとは、調査対象がたくさんいるときに、その中から、実際に調査に協力してもらう人を選ぶことを言います。
つまり、母集団から標本を選び出す作業をサンプリング(標本抽出)と言うわけです。
サンプリングの目的は、作業の軽減やできるだけ精度を高めることにあります。
1)サンプリング(標本抽出)の種類
サンプリング(標本抽出)の種類には、無作為抽出と有意抽出があります。
無作為抽出法(確率抽出法とも言います)とは、母集団を構成する要素の全ての個体について、それが同じ確率で選ばれるように計画的に抽出する方法になります。
要するに、台帳に並んだ要素の中から、標本に必要な数だけランダムに選ぶという抽出法です。
有意抽出法(非確率抽出法)とは、調査者が主観的な基準に基づいて、任意に母集団を代表すると考え得る固体を標本として調査する方法になります。
では、母集団を適切に代表する標本を得て、精度が高い推計結果を期待できる抽出方法は、無作為抽出と有意抽出のうち、どちらになるでしょうか?
答えは、無作為抽出です。
代表性、つまり母集団をよく表すには、無作為抽出が適していると言われています。
無作為抽出法によれば、母集団を適切に代表する標本を得ることが期待できます。
無作為抽出は、人間の意図が入らない抽出法なので、最も確率が等しいものになります。
この点、無作為抽出は、そのネーミングが「無作為」とあるからと言って、決して、いい加減に対象者を選ぶということではありません。
次に、有意抽出法(非確率抽出法)です。
有意抽出法は、人間の意図、つまり主観が入ってしまいます。
例えば、ある偏った集団に対して聞いてみたりすると、それは母集団を表していない可能性が高くなります。
ということで、有意抽出法に比べて無作為抽出法の方がやはり標本の信頼性が高いということが言えます。
第33回第86問の選択肢
標本調査に関する問題で、「有意抽出法は、確率抽出法の一方法である。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
有意抽出法は、確率論に基づかない非確率抽出法の一方法です。
第25回第85問の選択肢
標本調査の長所と短所に関する問題で、「標本抽出法には確率抽出法と非確率抽出法があり、 実施が可能でさえあれば、偶然に左右されない非確率抽出法を行うのが望ましい。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
偶然に左右されないのは、確率抽出法です。
確率抽出法は、母集団から調査対象者を選定する際、くじ引きのように選択者の主観を排除して抽出する方法です。
これに対し、非確率抽出法、つまり有意抽出法は、人間の意図が入るので偶然に左右されることになります。
ですから、選択肢にある「偶然に左右されない非確率抽出法を行うのが望ましい」という部分は誤りになります。
偶然に左右されないのは、確率抽出法、つまり無作為抽出法です。
同じような問題が、第23回第79問でも出題されています。
第33回第86問の選択肢
標本調査に関する問題で、「無作為抽出法による標本調査には、道で偶然に出会った見知らぬ人々を調査対象者として選ぶ方法も含む。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
無作為抽出法(確率抽出法とも言います)とは、母集団を構成する要素の全ての個体について、それが同じ確率で選ばれるように計画的に抽出する方法になります。
道で偶然に出会った見知らぬ人々を調査対象者として選ぶ方法は、時間帯によっては標本に偏りが出る可能性があります。例えば、朝の通勤時間帯には、サラリーマンが主になります。
これでは、同じ確率で選んだとは言えません。無作為抽出法による標本調査には、道で偶然に出会った見知らぬ人々を調査対象者として選ぶ方法は含みません。
無作為抽出法によれば、母集団を適切に代表する標本を得ることが期待できます。
では、無作為抽出をした場合に、母集団の値を100%予想できるのでしょうか。
さすがに100%というのは難しいです。
というのは、無作為抽出法であっても、標本は、一部しか選べていません。なので、母集団の値を100%予測することは出来ません。
つまり、標本調査の結果と母集団の値が完全に一致することはないわけで、一定の誤差が存在するわけです。これを標本誤差と言います。
標本誤差とは、全数調査を実施していれば得られたはずの結果と標本調査によって得られた結果との間に生じる差のことです。
標本誤差を生じないのは、全数調査であり、標本誤差は、標本調査では避けることができないものになります。
第25回第85問の選択肢
標本調査の長所と短所に関する問題で、「関心の対象である全員にではなく、その一部分の人々にのみ調査を行う限り、どれだけ適切に設計、実施された標本調査でも必ず標本誤差が生じる可能性がある。」〇か✖か
この選択肢は、正しいです。
標本調査のうちの無作為抽出法であっても、標本調査の結果と母集団の値が完全に一致することはなく、どうしても一定の誤差が存在することになります。標本調査では、標本誤差は避けることができないものになります。
同じような問題が、第30回第86問でも出題されています。
第25回第85問の選択肢
標本調査の長所と短所に関する問題で、「標本調査によって母集団の性質についての統計的な推測ができるのは、母集団に含まれるすべての人が同じ確率で選ばれ得るような標本抽出の手続きをとる場合である。」〇か✖か
この選択肢は、正しいです。
「標本調査によって母集団の性質についての統計的な推測ができるのは」というのは、「標本が母集団を代表するのは」という意味になります。
そして、「母集団に含まれるすべての人が同じ確率で選ばれ得るような標本抽出の手続きをとる場合」、つまり、人間の意図が入らず、同じ確率で選ばれるように計画的に抽出する手続きをとる場合という意味になります。
同じような問題が、第32回第86問でも出題されています。
第29回第86問の選択肢
量的調査における標本抽出に関する問題で、「用いる尺度の問題から測定上の誤差が生じることを標本誤差という。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
標本誤差とは、母集団のすべてを調査しないで、一部の標本を無作為抽出して調査した結果にともなう誤差になります。
選択肢に出てくる「尺度」ですが、これは、変数のことです。つまり、物事を評価するための基準のことです。
第36回第86問
次の事例を読んで、S県が実施した標本調査の母集団として、最も適切なものを1つ選びなさい。
[事例]
S県内の高校に在籍している全ての生徒のうち、日常的に家族の世話や介護等を担っている高校生が、どのくらい存在するかを調べるために、標本調査を実施した。
1 全国の高校に在籍する全生徒
2 全国の高校に在籍する全生徒のうち、日常的に家族の世話や介護等を担っている者
3 S県内の高校に在籍する全生徒
4 S県内の高校に在籍する全生徒のうち、日常的に家族の世話や介護等を担っている者
5 S県内の高校に在籍する全生徒のうち、標本となった者
解説
標本調査とは、調査対象となる集団の一部(標本)を抽出し、母集団の特性を推測する方法です。
母集団とは、調査対象となる集合全体を指します。
事例では、「S県内の高校に在籍している全ての生徒のうち」とあるので、これが、母集団です。よって、選択肢3が適切です。
誤差としては、標本誤差の他にも、データの入力ミスや計算ミス、回答者の誤回答、質問紙が回収されても調査項目が無回答であったことを原因とする誤差などが起こり得ます。
このような誤差を非標本誤差と言います。
非標本誤差は、人為的なミスで発生するため、防ぐ事が可能な誤差であると言えます。
なお、全数調査の場合、理論的に標本誤差は存在しません。しかし、大量のデータを扱うと、データの入力ミス、無回答などが起こる可能性が出てきます。なので、全数調査では、非標本誤差が大きくなりやすいという側面があります。
第33回第86問の選択肢
標本調査に関する問題で、「非標本誤差は、回答者の誤答や記入漏れ、調査者の入力や集計のミスなどで生じる。」〇か✖か
この選択肢は、正しいです。
第35回第86問の選択肢
標本調査に関する問題で、「標準誤差は、質問の意味の取り違え、回答忘れなど、回答者に起因する。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
設問の内容は、非標本誤差の説明です。
ちなみに、標準誤差とは、母集団からある数の標本を選ぶとき、選ぶ組み合わせによって統計量がどの程度ばらつくかを、全ての組み合わせについての標準偏差で表したものを言います。
要するに、少ないサンプルでグループの傾向・特徴をつかもうとすると、真の平均値からブレてしまいます。このブレの範囲がどれくらいかを示してくれるのが標準誤差です。
標準誤差はあるグループの本当の平均値がどの範囲内にいるのか考える時に便利な指標となります。
第25回第85問の選択肢
標本調査の長所と短所に関する問題で、「無作為抽出が適切に行われていれば、 調査対象者が多くても少なくても調査から得られる知見に違いはない。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
普通に考えても、調査対象者が多ければ多いほどよりデータが多くなり、適切な知見が得られます。
なお、調査対象者が少なければ、標本の個性が結果に出やすいので、標本誤差の確率は高くなります。
第35回第86問の選択肢
標本調査に関する問題で、「確率抽出法では、標本誤差は生じない。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
標本誤差は、全数調査でない限り生じます。
確率抽出法とは、無作為抽出法のことですが、いくら無作為に抽出したからといって、結果として偏った標本となる可能性はあり、全く標本誤差が生じないということはあり得ません。
同じような問題が、第32回第86問でも出題されています。
第35回第86問の選択肢
標本調査に関する問題で、「標本調査では、非標本誤差は生じない。」〇か✖か
この選択肢は、誤りです。
標本調査とは、調査対象となる集団の一部(標本)を抽出し、母集団の特性を推測する方法を指します。
非標本誤差とは、データの入力ミスや集計ミスを指します。
標本調査でも、非標本誤差は生じる可能性はあります。
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