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棚田と環境(中国 龍勝棚田)


  棚田が一望できる高台からの眺め            

                           2023年10月31日 さかい 悠

稲穂が頭(こうべ)を垂れ、鮮やかな黄金色に染まる秋の季節 日本ではそろそろ刈入れの終わる頃 
 
稲刈りのスタイルも随分と変わり、現在は鎌(カマ)で稲を刈る風景は希少である ほとんどが大型の機械で、あっという間に刈り取り、収穫を終えてしまう。
 
 当然 刈り取った稲の束を干す風景も今では見られない。
稲刈り風景は風情が有り、農作業の経験のない私など見た目だけで、癒しされるなどと不謹慎な言葉を口にする。
 この時期、稲作農家にとって大切な収穫の時 実際には重労働で大変な苦労が有る。
昨今日本は高齢化が進み、農作業の方法も大きく変わり、のどかな作業風景も遠のいて久しい。
 
 赴任時代(2000年代初期)、中国の観光資料を目にする機会が多い。
この時期、地方の魅力ある風景のPR誌が多くある。
 その中で棚田を紹介する風景が特に印象深い 少数民族が暮らす、雲南省の棚田の風景
スケールの大きさに興味が湧き 一度この目で見たいと思うのは当然である。
数少ない休暇を利用して強行スケジュールで行こうと思えば、行けない事も無い。
 ただ、実際に行くとなると飛行機、列車、バスなどを乗り継ぎ移動距離も大変 更に案内人(通訳など)も必要となる。 
 中国旅行会社のツアーに入る事も選択肢だが自由に行動が出来ない、私の様にいろんなところに入り込み観光したい者にとっては旅行の魅力が半減してしまう。
やはり、好きなところに気の向くままに行動できる単独行動が断然好きである。

 中国人の社員達に聞いてみると広東省に隣接する広西省の北に雲南省にも負けない大規模の棚田が有ると聞く。
 広西省の有名な観光地 桂林から北に80Km程の所に有る。 更に広西省なら棚田だけでなく、近辺の観光スポットも多く、合わせて見学できる。
 
 今回は中国の棚田を観光と棚田に纏(まつわる)わる風景をご紹介する。

 時期は2004年10月 国慶節休暇を利用 移動は車とした。
当然移動距離が長いので中国人運転手に旅のパートナーとして同行してもらう。
 当時はホテル代も食事費用もそれほど高くない 3人分まとめて自分が負担するという条件で提示したところ、彼らは喜んでOKしてくれた 彼らにとって観光も出来、費用は掛からない。
 
 現在の観光資料によると桂林観光のルートにも組み入れられるほど有名な場所に成っている。
しかし 今から20年も前の頃はまだまだ訪れる観光客も少なく、のどかな観光スポットに過ぎなかった。
 先日ネットで調べるとロープウェイが新設され、空からも棚田が一望できるまでに成った 展望台までそれ程、苦労する事も無く、雄大な景色が一望できる。
 
広西省  龍勝棚田(広西チワン族)少数民族
場所   桂林から北の方角 約80Km
海抜   300m〜1100m 山の中腹に作られた棚田
歴史   650年ほど前、中国の元の時代にさかのぼると言われている。
     ※西暦1300年代前後から少数民族が作り始めたと言われている。
棚田の条件 稲作の絶対条件として水(水源)を確保しなければならない
その為、棚田より上に森林など水源が必要。
 
 棚田の規模が大きいほど、水源の確保が絶対条件 更に気象条件として水の循環がシステムとして備わっている立地が必要。
 つまり雨が降り、その貯えられた水が棚田の上から順番に下の棚田に流れる仕組み 更に地上の水分が蒸発して再び、森に雨を降らせる仕組みが備わっている事が条件である その仕組みがこの地方に適した場所で有ったという事になる。

 確かに現地で見ると、上部に森林帯が有り、水源が確保出来そうな森が存在する。
先人たちの知恵と経験がこのスケールの大きな棚田を作り上げたと言っても過言でない 少なくても300年以上もの歳月をかけ作り上げた 時には部分崩壊、補修も度々繰り返しながら現在の姿に成った 人と自然が作り上げた風景と言えるだろう。
  
 さて 早速棚田の散策をしてみよう。
 前日宿泊した広西省賀州市を6時過ぎに出発、所々休憩を挟み、桂林を経て棚田の集落に着いたのは12時半頃 当時は高速道路も部分開通の為、時間もかかった。
 先ずは簡単な食事を済ませる。
食事場所の周辺は水の綺麗な川に沿って家々が点在する。
食事場所と土産物が並んでいる まだまだ観光地化されてなく、のどかな集落といった感じ。河では、洗い物する女性の姿も見られる

棚田の下には川が流れ昔ながらの家々が並ぶ
川で洗い物をする少数民族の女性

 現在 棚田を見学するには何カ所かの入り口が有り入場料が必要。
私が観光した頃、入場料を払った記憶が定かでない 車を駐車する為の料金を払った記憶はある、それが入場料の変わりだったのかとも思う 金額も日本円で300円〜500円ほどで安い。
実際に登り始めるにはどのルートで登るのかは案内板があまり整備されていなく、よく解らない。

 棚田は四方のすそ野に延々と広がる。
登るルートは幾つかある 取り合えず、人の多いルートをたどる事にした。
 大小さまざまな石が並べられ、登るには苦労する。 両脇は棚田が迫っており、収穫量を確保するには出来るだけ、通路幅が狭い方が良い 収穫時の作業性を考え、ぎりぎりの道幅であろう。

 目指す高台までは遥か見上げる位置に有る 果たしてたどり着けるかと不安になる。
でもこの労力を体験しないと、あの素晴らしい景色のご褒美は無い。
 案の定、前を行く中国人の女性、老人たちはもう既に悲鳴を上げている 自分も遅かれ早かれ、あのような状態になるだろう。
 同行した運転手たちは流石に若い 瞬く間に置いていかれる 日ごろの運動不足と年齢からくる衰えを実感。

 小休止の場所で棚田の風景を見下ろすたびに裾野の家々が小さくなる。
間近で見る、棚田の広さは想像以上に狭い 棚田に沿ったあぜ道の曲線 これも想像以上の曲がり方 思った以上に山の中腹に作られた棚田の作る大変さが伝わる。

棚田のあぜ道の曲線

 既に刈り取りが始まっているところも有る 刈り取った稲の束はあぜ道に寝かせ、干してある 狭い棚田ならではの知恵なのか、はたまた作業性なのか?

刈り取られた稲穂の束 あぜ道に並べられている

  棚田の中腹に少数民族の家々が点在する そのわきを通り、更に上を目指す。
家の中庭で女性が機織(はたお)りをしている 他の人達も農作業の手を止める事も無く、黙々と働く姿が印象的。
 家の中を見学したいが流石に作業を止めさせ、依頼する状況で無い。彼らにとっては迷惑な観光客 特に収穫のこの時期は!

農家の庭先で昔ながらの機織り機で作業する女性
中腹にある家の間をぬう様に続く、細い石畳

 随分と登ってきたつもりがこれでも、まだ半分、これから先は更に勾配がきつくなる。
行き交う、人も中国人以外に欧米人、台湾、香港、韓国人など国際色豊か。
 ここの観光地では日本人に合わなかったが来る人も多いと聞く。
途中の休憩を含めて、やっとの思いで見晴らしの良いところまでたどり着けた。

 先ず高台に着いて感じるは、景色もさることながらカメラを持つ人の多さにびっくり!
しかも当時にしては高価なカメラを持っている、撮影旅行をする人がこれほどまでに多いとは想像できなかった。

思い思いのカメラを持ち、撮影場所を選定中

先ず登り切った達成感 小休止を取りながらも下からの場所までの所要時間は約2時間。

 PR誌の風景と一緒 いやそれ以上の展望 絶好の天候に恵まれ、棚田の美しさが更に魅力的!
山の日の入りは早い その直前で陽に輝く棚田は裾野全体に広がる。
時間的なタイミングも絶妙 絶景に言葉はいらない いろんな説明も無駄である!

山の頂上から棚田の中腹まで豊かな森が存在する
西日に輝く、棚田
四方それぞれに違う、棚田の景色

 登ってきた小道は棚田に隠れ、全く見えない 所々頭だけが動く人の列が道の有る事を想像できる。まだまだここに向かって登る人達もいる 早くしないと折角の絶景が日陰に隠れてしまう。日の当たるところ、日陰のコントラストも景色にアクセントをつけている。

 景色を堪能 この大きな棚田の水源の仕組みも上に森が有り、棚田と棚田の間を伝って水路の小川が流れている。
 その小川が枯れない限り、田んぼの水は確保できる 実際に見ると納得の棚田のシステム。
これからも棚田の収穫は森が有る限り、保証される。
 景色を見るだけでなく、環境面から眺めると如何に自然の力が大切であるか理解できる。
一時の欲望で自然を破壊する事が、人の生活に如何に影響するかがよく解る、自然の中では人間も一つの部品に過ぎない 他の行為も含めて、自分には何が出来るのだろうと考える事も必要である。
 
 刻々と日が西に沈もうとしている たくさんいた、観光客もそれぞれに下りはじめている。
自分たちも、今夜の宿を探すために下りなければならない。
 棚田の稲穂が風に揺れ『カサカサ、ザワザワ』と音を立てている。
もう一度下りる前に稲穂の写真を撮り、この場を離れよう!

 先ほどまであんなに輝いていた、山裾も、黒々とした部分がみるみる大きくなってきた。
名残惜しいが残念! 是非季節を変え、再び訪れたい場所で有る。

田植えの前、一面に水で満たされた春の棚田の風景も見て見たい
稲穂が出始める、緑一面の夏の棚田もさぞ魅力的であろう。
白一色の冬の棚田はどんな風景なのだろうか?
四季折々の風景がきっと違う意味で私を虜(とりこ)にしてくれるであろう!

ここには日本と同様 四季が有る 秋の棚田の風景はしっかりと記憶にとどめる事が出来た

流石にこの時間帯 登る人がいない 道を譲り合う事も無く 下りる足音が棚田に響く!

 


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