大艦巨砲主義の夢(『G20』記事)

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1999年、ガンダム20周年記念誌『G20』Vol.8に書いたもの。「機動戦士ガンダム」の世界における地球連邦軍の宇宙戦力のありかたについて、妄想を逞しくしてみたもの。これぞバカSF設定の極みではないかと自画自賛しております。ただまあ、ファーストガンダムからVガンダムまで、いわゆる「富野ガンダム」を一通り見てるメカおたくじゃないと、何の話なんだかさっぱりわからんかも……。(^_^;)


(宇宙暦0085年7月、ジャブローにて。サム・サンポー設計技官(工学博士:当時連邦軍中尉)定例開発会議の発言を録音したテープから)
 連邦軍は危機に瀕している。
 一年戦争の終結からまだまもないというのに、一昨年のデラーズ・フリートによる再度のコロニー落としによって、地球はさらに疲弊の度を増し、各コロニーには再び見境のないジオン信奉と自決主義が台頭し始めている。
 この状況になぜ連邦軍が対応できないでいるのか? それは、連邦軍宇宙艦隊の戦闘教義【ウォー・ドクトリン】が、過去に類を見ない混乱の中にあるからである。
 よろしいか。まず、この見地に立ってこれからの私の提言に耳を傾けていただきたい。
 では、いったい何がこの混乱を招いているのか。答は簡単、悪しき模倣主義によって、今は亡きジオン公国のモビルスーツによる戦闘教義を自軍の戦闘教義に取り込み、宇宙戦艦の価値を軽んじ、ペガサス級強襲揚陸艦などという愚にもつかぬ中途半端な宇宙船の設計・改良にうつつを抜かすことによって、伝統ある宇宙艦隊の作戦行動規範を、矛盾に次ぐ矛盾で埋め尽くそうとしていることがいかんのである。だいたい宇宙船の何が強襲揚陸艦足り得るのか。いい加減なネーミングもここに極まれりと言えよう。ましてや、GMの生産ラインを差し置いて、こともあろうに旧ジオンのザクの改良型を採用しようなどという動きは、正気の沙汰とは思えぬ愚行であろう。
 いや、そんな話はどうでもよろしい。話を本題である宇宙戦艦とその戦闘教義についてに戻そう。
 もともと、宇宙空間における戦闘は、大気がないため、慣性の法則を妨げる摩擦や、光の散乱が生じないため、武器の射程距離が格段に長く、また艦の軌道を変えるには大量の推進剤と大きな推力が必要となるはずであった。
 このため、モビルスーツ開発以前においては、宇宙戦艦とは大推力・大火力を持つものが有利であるとする、いわゆる『大艦巨砲主義』が主流であった。
 すなわち、この時期の宇宙空間での戦闘教義では、大推力によって高速で移動する戦艦が、絶えず細かい摂動を繰り返して敵の攻撃を避けつつ、アクティブ・レーダーやレーザー探査による索敵を行い、数100万キロの彼方から敵艦に大火力を集中的に浴びせるという、一撃離脱戦法が基本とされていたのである。
 もっとも、現行の連邦軍主力艦であるマゼラン級戦艦とサラミス級巡洋艦に関しては、大量に生産するため、地上のジャブローで建造して宇宙に打ち上げる方式をとったことから、ペイロードに限界があり、設計時点からさほど大型化できなかったことは大いに悔やまれた点ではある。しかし、その制約の中で、連邦軍は大艦巨砲主義を貫くために最大限の努力を行ったのだ。
 確かに、一年戦争によってこの教義はぐらついた。ミノフスキー粒子の発見による電子戦の無効化と、モビルスーツによる近接高機動戦闘によって、宇宙空間のみならず、地上においても、戦争は有視界による局地戦へと後退してしまった。また、それと同時に、巨大で小回りの利かない宇宙戦艦は、小型軽量で高機動性を有するモビルスーツの格好の的となってしまった。これらの歴史的事実については、皆さんも充分ご承知のところだろう。それは、ちょうど第二次世界大戦において、巨大戦艦同士の艦隊戦から、空母と艦載機を中心とした航空戦へと戦術が変化していったのとよく似ている。
 だが、だからといってモビルスーツに全面的に頼った艦隊構成が本当に正しい宇宙空間での戦闘教義なのだろうか。
 私は断じて否と言いたい。
 その証拠は、現在、連邦軍の主流艦となりつつあるペガサス級強襲揚陸艦の持つ問題点にすべて表れている。
 ペガサス級艦の有効性を信じる将官諸氏は、その初期型であるホワイトベースが一年戦争時にあげた驚異的な戦績をすぐ持ち出すが、あれはまさに希有な乗組員たちがもたらした奇跡にすぎない。艦の基本性能の善し悪しと、運用者の能力を混同し、真の問題を見誤っているだけなのだ。
 ペガサス級艦の持つ問題点は、艦のほとんどの機能が、モビルスーツの運用のためだけにあり、あまりに武装が貧弱なところだ。特に艦の両舷部に備えられたモビルスーツ用のフライトデッキ兼格納庫には何も武装がなく、敵に的にしてくれといわんばかりだ。
 また、その割に図体がデカイのも問題だ。現行艦種である発展型のトロイホースやアルビオンといった艦は、全長が300メートルを越える。これは全長200メートル足らずのサラミス級艦を優に凌ぎ、マゼラン級艦に迫るほどのサイズだ。そのくせ、対空砲以外の火器が主砲2門だけというのは、いかにモビルスーツ運用艦といえども心許ない。全長400メートル足らずの艦隊旗艦バーミンガムが主砲だけで12門を持つことを考えてみればいい。
 かといって艦を小型化すればよいというものでもない。確かに、現在ペガサス級の後継艦として設計が進んでいるアーガマ級は、フライトデッキと格納庫を分離、格納庫を艦中央部にまとめ、カタパルトをむき出しにした。さらに、遠心居住区を外部に出し、大気圏離脱能力を無くしてまでミノフスキークラフトの出力を最小限度を抑えるなど、ペガサス級が持っていた機能を、必要なものに絞り込み、サラミス級や新型のアレキサンドリア級といった巡洋艦クラスまで艦の大きさを小型化している。だが、それでは単に、武装が貧弱で防御も弱い小型艦を作り出しただけなのだ。
 ペガサス級艦がまがりなりにも連邦軍の艦船の中で優位を保っているのは、実はモビルスーツの可搬性ではない。そんなものは今はどの艦だって持っている。ペガサス級艦の利点とは、強力なエンジンとミノフスキークラフトによって得られる行動範囲の広さ、そして装甲の厚さとやはりミノフスキー粒子の持つ防護効果による高い防御能力なのだ。
 だからこそ、ホワイトベースは宇宙だけでなく地上各地を転戦し、その被弾率の高さにもかかわらず、ア・バオア・クーの最終決戦まで生き残れたのである。
 そろそろ、モビルスーツ戦を生き抜く戦艦の持つべき機能を理解いただけただろうか。それはすなわち、武装と防御能力双方の更なる強化に他ならない。そしてそれこそ、新たなる大艦巨砲主義の復活を意味しているのである。
 モビルスーツの運動性能に戦艦が勝てる方策はない。絶対質量が違いすぎる。だとすれば、いっそがっちり防御を固め、大火力を要して、敵モビルスーツを蹴散らすような艦を建造するべきなのだ。
 そのためにまずすべきことは、CICすなわち戦闘指揮所の復活である。ミノフスキー粒子の発見によって有視界戦闘が基本となったため、すべての宇宙艦は第二次世界大戦以前の海上艦のように、見晴らしの良い艦橋に指揮系統を集中させるようになってしまったが、それは艦の最大の弱点をむき出しにしているようなものだ。現に、連邦軍の艦船のみならず、モビルスーツ戦を先に開始し、その利点を知り尽くしていたはずの旧ジオン軍でさえ、ムサイ級、ザンジバル級、グワジン級といった多くの戦艦が、連邦のモビルスーツにむきだしの艦橋部を直撃されてむなしく撃沈している。こうした自体に対応するためにも、戦闘指揮所と索敵艦橋を分離することが望ましいだろう。
 そして、さらに重要なのは、ミノフスキークラフトとIフィールドの強化である。強力なミノフスキークラフトさえあれば、巨大戦艦を宇宙空間のみならず、コロニー内部や地上においても自由に運用できるし、ビーム兵器はもちろんミサイルなどにも有効なIフィールドの出力を上げれば、モビルスーツがいかに雲霞のごとくまとわりついても、艦に致命的な損害を与えるのは難しくなるだろう。
 もちろん、そのためには現行の戦艦とは比較にならないくらい大出力の機関部が必要となる。それはつまり戦艦のサイズを大きくする必要があるということだ。
 そして、この巨大な戦艦にハリネズミのように砲塔を取りつけ、近づいてくるモビルスーツどもを当たるを幸いなぎ倒してやればよいのである。
 いや、それだけ巨大な艦ともなれば、その質量自体が武器となり得るだろう。ミノフスキークラフトで地表を進み、敵基地の上空でそれを切って着地してしまえば、艦の底面とその周囲に張ったIフィールドが、敵をぺちゃんこにしてくれるというものだ。
 考えてもみたまえ。車輪をつけた巨大戦艦が、群がるモビルスーツどもをバタバタと撃ち落としながら、地上を蹂躙していく様を。
 このような万能戦艦を中心にした艦隊があれば、敵がどれほど多数のモビルスーツを繰り出してこようと恐れることはない。
 連邦万歳。宇宙艦隊に栄光あれ。
 あ、おい、何をする。講演時間超過だと。まだ私の話は終わっていないぞ。はなせ、はなさんか……(揉み合う音と場内のざわめきが聞こえたあと、テープは途切れている)

付記:サンポー技官は本発言ののち、命令不服従のかどで少尉に降格。その後、退役して、現在はアーカム精神病院に収監中。現時点(UC0087)において、彼の提言が採用される徴候はない。

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