『デューン/砂の惑星2』DVDボックス解説

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 2003年にアメリカのSF専門ケーブルテレビ局SCI FIチャンネルが製作したミニシリーズドラマ『デューン/砂の惑星2』の日本版DVDボックスの付録小冊子に書いたもの。

 テレビの予算や、当時の特撮レベル、それに凡庸な演出など、いろいろ問題は抱えているものの、『デューン』の映像化として、SCI FIチャンネルのミニシリーズは、けっこうなものだったと個人的には思ってます。特に、原作の二部、三部を映像化したこの『デューン/砂の惑星2』は、『デューン』が単純な異世界英雄譚じゃないことをきちんを表現していて、そこを貫き通しただけでも、スタッフに拍手を送りたい思いです。

 結局このあとSCI FIチャンネルは、原作つきミニシリーズ路線から、オリジナルの一時間ドラマ路線へと切り替え、『バトルスター・ギャラクティカ』や『ユーリカ ?事件です!カーター保安官?』などを生み出しつつも、基本的には低予算の苦しさがわかるドラマ作りで、昨今、ケーブル局の多くが豪華なオリジナルドラマを製作しているブームの中で、残念ながら埋没中。

 原作のほうは、完結編がついに二部作として刊行され、あっと驚くエンディングを迎えたものの、作家コンビはまだまだデューン世界を舞台にした番外編を書き継いでたりして。たぶん翻訳はされないんだろーなー。(^_^;)

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『デューン/砂の惑星2』は、好評だった前作に続いて、アメリカのSF専門ケーブルテレビ局SCI-FIチャンネルが大予算を投じて製作したテレビ用ミニシリーズだ。

 近年、アメリカのケーブルテレビ局は、積極的に自社のオリジナル作品製作に乗りだしている。
 老舗かつ最大手のHBOは、『ソプラノズ』、『セックス・アンド・シティ』といった、通常の地上波では放送がはばかられる過激な内容のテレビシリーズを抱え、『人類、月に立つ』や『バンド・オブ・ブラザーズ』といった大作ミニシリーズを製作しているし、スティーヴン・キングのホラー小説『デッド・ゾーン』をテレビシリーズとして再映像化してみせたUSAネットワークは、同じキングの『呪われた町』や、ニール・サイモン脚本の都会派コメディ『グッバイ・ガール』のリメイクを製作中だ。

 こうした状況下にあって、今やもっとも数多く新作を企画・製作中のケーブルテレビ局が、SCI-FIチャンネルなのである。もともとSCI-FIチャンネルは、過去のSFやファンタジー系のテレビ番組だけを専門に再放送するケーブルテレビ局(日本のCS放送で言えば、時代劇だけを放送する時代劇チャンネルや、外国ドラマだけを放送するスーパーチャンネル、外国ドラマの中でもミステリだけを放送するミステリチャンネルのようなものだ)だった。それが90年代後半に入って自社製作に乗りだし、『ファースケープ』や『ファーストウェーブ』といった比較的低予算のオリジナルシリーズを作り始め、さらに近年では映画並みの予算を投じて大作ミニシリーズを製作するようになった。スピルバーグのドリームワークスと共同製作し、日本のBS放送でも放送された『テイクン』は、その中でも最大規模のものだ。

 SCI-FIチャンネル製作のミニシリーズの特徴は、SF専門チャンネルという局の特色を前面に押し出したコンセプトにある。それは、過去の著名なSF小説を、充分な尺を使って原作に忠実に映像化するというものだ。長編小説を映像化するとき、通常の映画(2~3時間)では時間が足りず、テレビシリーズ(1時間×20話以上)では逆にあいだを埋める必要があり、いずれにしても大幅な脚色が必要となる。テレビのミニシリーズ(4~10時間)という形式は、そういう問題を解消するためにはぴったりのスタイルなのだ。

 SCI-FIチャンネルでは、アーシュラ・K・ル・グインの『天のろくろ』、フィリップ・ホセ・ファーマーの《リバー・ワールド》シリーズを元にしたミニシリーズを放送、さらにジョー・ホールドマンの『果てしなき戦い』、キム・スタンリー・ロビンスンの『レッド・マーズ』、アーシュラ・K・ル・グインの《ゲド戦記》といった名作SFやファンタジーのミニシリーズ化を進めている。
 2000年に放送された『デューン/砂の惑星』は、フランク・ハーバートによる同題のSF小説を映像化したものであり、これらのSCI-FIチャンネル製ミニシリーズの評価を決定づけた大作だった。今回DVD化された『デューン/砂の惑星2』は、ハーバートによる《デューン》シリーズの第2作『デューン 砂漠の救世主』と第3作『デューン 砂丘の子供たち』を初めて映像化したものである(上巻が『砂漠の救世主』、中・下巻が『砂丘の子供たち』)。

 今回のスタッフは、製作のデヴィッド・R・カッペス、製作総指揮のリチャード・P・ルビンスタイン、脚本のジョン・ハリソンといった企画のトップは変わらないものの、前回は監督も兼任していたハリソンに代わってグレッグ・ヤイタネスが監督に、前作の撮影を担当したヴィットリオ・ストラーロに代わってアーサー・リーンハートが撮影監督に就き、現場のトップは大幅に若返った。ヤイタネスとリーンハートは、映画の経験こそ少ないものの、ここ数年、さまざまなテレビシリーズの各話演出や撮影で活躍している俊英である。

 キャストの方は、ポウル・アトレイデ役のアレック・ニューマン、ポウルの愛妾チャニ役のバーバラ・コディトヴァ、ポウルの正妻イルーラン姫役のジュリー・コックス、ガーニイ・ハレック役のP・H・モリアーティ、ハルコンネン男爵役のイアン・マクニースら、前作の主要登場人物たちが再び顔をそろえている他、前作ではサスキア・リーヴスが演じたポウルの母ジェシカにアリス・クリーグ、ポウルの部下で親友のダンカン・アイダホにジェームズ・ワトスンに代わってエドワード・アタートン、やはりポウルを支える腹心のスティルガーにウーベ・オクセンエヒトに代わってスティーヴン・バーコフ、さらには新たな登場人物としてイルーランの姉で皇位の奪還を狙うウェンシシアにアカデミー女優のスーザン・サランドン、ポウルの子供であるレト二世とガニマにジェームズ・マカヴォイとジェシカ・ブルックス、成長したポウルの妹アリャにダニエラ・アマヴィアといった俳優陣が加わっている。

 もともと原作の《デューン》シリーズは、1960年代半ばに発表された第1作『砂の惑星』が大学生を中心に人気を呼び、全米で大々的なベストセラーとなった作品である。当時、大学生のあいだから人気が出たベストセラーには、この『デューン 砂の惑星』以外にも、ロバート・A・ハインラインのSF長篇『異星の客』、そしてJ・R・R・トールキンの異世界ファンタジー『指輪物語』がある。いずれの作品も、未来社会や他の惑星、遠過去といった異世界を舞台にしたSFもしくはファンタジーであること、その異世界の構築が非常に緻密であること、重厚長大な大作長篇であること、現代的な価値観に対する異議申し立てを含んでいること等といった共通点を持っている。

 特に『デューン 砂の惑星』は、中東を思わせるエキゾチックな砂の惑星アラキスの世界背景、砂漠とそこに住む砂虫、さらにそこから得られるスパイスとそれに依存している人類が均衡を保っているといった環境学的(エコロジカル)なSF設定、高貴な生まれの主人公が追放された末に復讐を果たして地位を回復するという貴種流離譚的でドラマチックな物語などが、反権力・反近代を指向していた60年代アメリカの大学生たちに見事にマッチしていたと言えるだろう。期せずして《デューン》と『指輪物語』が相次いで映像化され、それぞれに好評を博しているという事実に、この21世紀初頭という時代が抱えている問題が見えると言うと、少し大げさだろうか。

 とはいえ(まだ本篇をご覧になっていない方には少々ネタをばらしてしまうことになるが)、『指輪物語』が単純な勧善懲悪の物語ではないのと同様、《デューン》の物語もまた単なる貴種流離譚で終わってはいない。今回映像化された第2作と第3作の物語は、「王子様は悪者を倒してお姫様と一緒に王国を治めることになりました。めでたしめでたし」のあと、おとぎ話ではない現実の世界では物事は往々にしてどうなってしまうのかを、リアルに追求していくのだ。

 いや、それどころか、原作小説では、常に前作の結論をひっくり返す形で、物語が展開していく。すなわち、第1作『砂の惑星』でヒーローとして世界を救ったポウルの活躍は、第2作『砂漠の救世主』では無惨な失敗に終わり、第3作『砂丘の子供たち』ではポウルの息子であるレト2世が新たな方法で世界の安定を勝ち取るが、それも第4作『砂漠の神皇帝』で終わりを告げる。さらに、第5作『砂漠の異端者』に始まる後半三部作では、ポウルともレト2世とも違う方法で、人類が世界と共存していく道を最終的に見いだす物語になるはずだった。《デューン》シリーズとは、誰もが幸福に暮らすことができる理想郷の実現を真摯に追求した、一種の長大な「ユートピア小説」なのだ。

 もっとも、原作の《デューン》シリーズは、作者のフランク・ハーバートの死によって、1985年に第6部『砂丘の大聖堂』までが発表されたところで未完となってしまっていた。ところが近年になって、息子のブライアン・ハーバートが父のあとを継ぎ、《スター・ウォーズ》や《X-ファイル》のノベライズなどでも活躍しているケヴィン・J・アンダースンと組んで、新たな作品を書き始め、現在ではシリーズの全体像は以下のようになっている(かっこ内は本国アメリカでの発行年。タイトルが英字表記されているものは未訳)。

1.デューン 砂の惑星 (1965)
2.デューン 砂漠の救世主 (1969)
3.デューン 砂丘の子供たち (1976)
4.デューン 砂漠の神皇帝 (1981)
5.デューン 砂漠の異端者 (1984)
6.デューン 砂丘の大聖堂 (1985)
7.デューンへの道 公家アトレイデ (1999)
8.デューンへの道 公家ハルコンネン (2000)
9.PRELUDE TO DUNE House Corrino(デューンへの道 公家コリノ)(2001)
10.LEGENDS OF DUNE The Butlerian Jihad(デューンの伝説 ブトレリアン・ジハド) (2002)
11.LEGENDS OF DUNE The Machine Crusade(デューンの伝説 マシン・クルセイド) (2003)
12.LEGENDS OF DUNE The Battle of Corrin(デューンの伝説 コリンの戦い) (2004予定)
13.Dune 7 (《デューン》シリーズ完結編 タイトル未定) (発表年未定)

 このうち、1~6はフランク・ハーバート作で、7以降がブライアン・ハーバート&ケヴィン・J・アンダースン作である。7~9の《デューンへの道》三部作は、ポウルの父レト・アトレイデを主人公に、アトレイデ家が砂の惑星にやってくるまで、すなわち第一作である『砂の惑星』の前日譚となっており、9~11の《デューンの伝説》三部作では、『砂の惑星』の時代より数千年前、人類と機械生命とが戦って人間がコンピュータを捨て去った事件のいきさつが描かれている。さらにブライアン・ハーバートとケヴィン・J・アンダースンは、フランク・ハーバートが書き遺したメモを元に『砂丘の大聖堂』に続くシリーズ全体の完結編執筆も構想中だという。

 このように、まだまだ原作には続きが存在しているし、これまでの2作もアメリカでは大変好評だったようだから、もしかしたらさらなる続編が映像化される可能性もあるかもしれない。いや、ぜひとも製作してほしいではないか。

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