スター・トレックとアメリカの半世紀

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 昨年、『PEN+』誌のスタトレ特集のために書いたもの。

 実は、スタトレに関しては長年のファンであるだけでなく、『S-Fマガジン』を初めとする各種雑誌の記事や、早川書房版翻訳小説の巻末解説などで、大量に原稿を書いてきていて、アメコミと並ぶ専門分野中の専門分野の一つだったりもするのですが、なにせとっちらかってるし、時評も多いので、noteにどれからアップしたらいいのかもわからない状態なのでした。

 というか、本稿は昔からずっと書きたいと思っている『スター・トレックの政治学』という本の、核心テーマをまとめたもの。
 ほんとは、スタトレ全作品の解説を盛り込みつつ、スタトレ製作史とアメリカ史とを絡めて書き、一冊の本にまとめてみたいと思っているのでした。
 なかなか連載する場もないし、書き下ろしする気力も時間もなくて、そのままになってるんですが、いっそnoteで有料連載してみっかなー。読みたい人いるー?

(ちなみにこの『PEN+』誌のスタトレ特集号はamazonなどで今でも買えます。興味のある方はぜひ>http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00DMYBREE/ref=as_li_ss_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=7399&creativeASIN=B00DMYBREE&linkCode=as2&tag=fiawol-22)

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『スター・トレック』シリーズは、60年代のテレビドラマ『宇宙大作戦』から、新作映画『スター・トレック イントゥ・ダークネス』まで、テレビドラマ5シリーズ、劇場映画12作という、膨大な量の作品群から成り立っている。
 つまり、『スター・トレック』という作品は、1966年から2013年までおおよそ半世紀にわたって、米国民に親しまれ、愛されてきた、他に類を見ない作品なのである。そしてその作品内容は、その時々のアメリカの世相を反映し、時には先取りさえしている。『スター・トレック』の持つ膨大な作品世界の移り変わりを追っていくことは、アメリカ社会の変遷を追っていくことでもあるのだ。
 第一作『宇宙大作戦』が放送された60年代半ばは、まさにアメリカ社会を変革の嵐が吹き荒れた時代であった。米ソ冷戦の最中、激化するベトナム戦争とそれに対する反戦運動の高まり、ヒッピー・ムーブメントに代表されるカウンターカルチャーの台頭、ウーマンリブ運動などの社会改革運動、そして、米ソの宇宙開発競争の果ての月面有人探査成功等々、良きにしろ悪しきにしろ、それまでアメリカの一般庶民が抱えてきた世界観を一変させる出来事が一斉に起こったのである。
『宇宙大作戦』は、基本的にはSF版『ローハイド』(主人公たちが旅をしながら毎回行き着いた町で事件に遭遇するスタイルのアクションドラマ)ではありながらも、脚本家にSF作家も起用、本格的なSF的アイデアを盛り込むと共に、当時の世相に合わせて、冷戦やカウンターカルチャーといった問題を取り上げた画期的な作品だった。その先見性の一つとして、テレビ番組のレギュラーとして初めて黒人女優を女性士官としてキャスティングしたことでも知られている。
 残念なことに『宇宙大作戦』は全79話と短命に終わるが、ジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』(1977年)が突如巻き起こしたSF映画ブームが、劇場用映画としてシリーズを復活させることとなる。そしてこの劇場版シリーズの成功が、新たなテレビシリーズを生み出すこととなった。
 1987年、時代設定を100年未来に移し、登場人物を一新した『新スター・トレック』の放送を開始してから、さらにそのスピンオフ2作品を経て、今度は逆にオリジナル版から時代を100年過去に移動した『エンタープライズ』の放送が終了した2005年まで、全4シリーズ計622話という超ロングランを記録、黄金時代を迎えることとなる。80年代後半といえば、東西冷戦の終結期だった。東西ドイツの併合、東欧諸国の民主化、ソ連の崩壊と、資本主義対社会主義の政治思想対立が一応の終結をみたことで、(湾岸戦争の暗い影もあったものの)90年代、アメリカの人々は平和な新時代の到来を夢見たといえるだろう。
 それに合わせるかのように、この時期の『スター・トレック』は、オリジナル版以上に「大人」のドラマを目指していた。人種問題や領土問題といった政治的・社会的問題について、安易な結論を出すことを避け、地道かつ理性的な解決を図る主人公たちの姿を、じっくり描こうとしたのである。主人公である司令官が、シリーズごとにフランス人、黒人、女性といった、ある種のマイノリティであったことも、進歩的な作品性を表していた。しかし、2001年の9.11同時多発テロ事件以降、平和の夢は潰え、世界は人種、宗教、経済格差などによる混沌に満ちた対立の時代へと揺り戻してしまう。
 この時代の変化に対応できなかったのか、『エンタープライズ』は視聴率に苦しんだ末に4シーズンで終了してしまい、『スター・トレック』シリーズは05年をもって一旦幕を下ろすことになった。
 09年のリブート版『スター・トレック』、その続編である『イントゥ・ダークネス』は、休止していたシリーズを時代に合わせて一新し、新たな観客を獲得するため、『LOST』などで知られるヒットメーカー、J・J・エイブラムズを招いて作られたものだ。
 ここで新たに描き直された登場人物たちは、オリジナル版よりも若く、未熟ではあるが、その分生気に満ちあふれている。09年といえば、ちょうどバラク・オバマが「チェンジ(変革)」を合い言葉に、黒人初のアメリカ大統領に選出された年でもある。リブート版は、そんな若き革新的リーダーの出現に歩調を合わせたかのように、若々しいキャスティングと大胆なストーリーで、大ヒットを記録した。
 そして、最新作『イントゥ・ダークネス』は、同時多発テロ以降の世界情勢を踏まえたかのように、今、考えなければならない「正義」の在り方を、主人公であるカークに、そして観客に問いかけてくる内容となっている。
 まさに、『スター・トレック』は今もなお、アメリカ人にとっての最良の精神を映し出そうとし続けている稀有な作品なのである。

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