『プロメテウス』が食い足りなかった人に薦める10冊のSF

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 2012年、洋泉社の『別冊映画秘宝 大宇宙映画超読本「エイリアン」「プロメテウス」驚異の世界 (洋泉社MOOK) 』に書いたモノ。

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 いったい何がしたかったんだろう?
『プロメテウス』を見終わったあと、筆者はちょっと呆然としてしまいました。
 人類発祥の謎を探る進化SF? 惑星調査隊が怪物に襲われるモンスターSF? アンドロイドの意識を描いた人工知能SF? それとも、かの傑作SFホラー『エイリアン』の前日譚?
 どの要素も中途半端に投げ出されてしまうとは。全部とは言わないまでも、どれか一つくらいはきちんと風呂敷畳んでくださいよ。
 というわけで本稿は、そんな『プロメテウス』を見て気持ちがもにょもにょしてしまった人に捧げるブックガイドであります。
 テーマ別に全部で十作、古今東西の傑作SFを集めたつもりですので、未読作品のある方はこれを機にぜひともご一読ください。

《古代宇宙人飛来仮説SF》
1.『2001年宇宙の旅』アーサー・C・クラーク
『プロメテウス』に出てくるような、太古の地球に異星人が訪れ、人類文明と接触していたという仮説を「古代宇宙人飛来説」というます。これを扱ったSFの中でもすでに古典の域に入りつつあり、今も最高傑作の一つとされているのが、言わずと知れたクラークの『2001年』です。
 まだ人類の祖先が猿同様の姿をしていた時代、謎の黒い石版(モノリス)によって知性を与えられる冒頭から、一気に二十一世紀へと時代が跳び、月面で発見された新たなモノリスからの信号に導かれるように土星(映画版では木星)へと宇宙船が向かう未来SFに切り替わる鮮やかさが素晴らしいです。そして、宇宙船内で起こる人工知能HALの反乱、さらには結末に待ち受ける石版の目的など、映画版では最小限の説明しか語られなかったさまざまな事件を、クラークらしい論理的かつ冷静な筆致できちんと描かれているところが、本格SFらしい充実感に満ちあふれているところも読みどころです。

2.『星を継ぐもの』ジェイムズ・P・ホーガン
 月の裏側で真っ赤な宇宙服を着た人間の遺体が見つかったが、なんとそれは五万年前のものだったという、衝撃的な場面から始まるのが、ホーガンを一躍有名にしたデビュー作である本書です。
 この遺体は何者なのか、という発端から、人類の起源についての真実、さらには月の起源に関する驚嘆すべき真実へと、読者は誘われていきます。
 実はよくよく考えると、本作でホーガンが展開している理屈にはけっこう大穴があるんですけど、読んでるあいだはそれをあまり感じさせないのは、なんといっても登場人物である科学者たちが試行錯誤しつつも一歩ずつ推論と証明を繰り返しつつ、真実に近づいていく姿を丁寧に描いているからでしょう。科学的研究というのはこうでないと、と思わせてくれる論理性が、ミステリに近い読み心地と満足感を与えてくれます。

3.『妖星伝』半村良
 半村良と言えば伝奇SF『石の血脈』や『産霊山秘録』が有名ですが、その集大成とも言える作品がこの『妖星伝』です。
 日本史の裏側に蠢く異能集団「鬼道衆」の暗躍を、エログロ満載の強烈な超能力対決てんこ盛りで描いた、山田風太郎の忍法帳もののごとき時代伝奇小説としてスタートしつつも、話のスケールがどんどん拡大していくところが読みどころ。
 中盤から、地球こそが、全宇宙でも唯一、あらゆる種が互いに喰らいあう食物連鎖の地獄図を展開している「妖星」であることが明かされ、果たして地球の生命はなぜこのような生態系を有しているのか、誰がいったい何のためにそれを生み出したのか、そして、それは最終的に何を目指すのか、といった生命の存在理由を巡る壮大なSFへと発展していく風呂敷の広げ方は、とにかく呆然とすること請け合いです。

《宇宙怪獣SF》
4.『宇宙船ビーグル号』A・E・ヴァン・ヴォクト
『エイリアン』シリーズと言えば、なんといっても凶悪な怪物が暴れまくる宇宙怪獣SFでもあり、『プロメテウス』にも新たな怪物が登場します。
 さて、宇宙怪獣SFといえば、何と言っても有名なSFの古典が本作です。地球最高の科学者たちを乗せ、深宇宙探査に乗り出した宇宙船ビーグル号が、行く先々で恐るべき怪物たちと遭遇、対決するという物語です。
 本作に登場する四体の異星種族の一つ、イクストルの生態が、『エイリアン』に登場するあの怪物とあまりにも酷似しているということで、映画公開後に元ネタとして認定されてしまったというくらい、『エイリアン』とは縁のある作品でもあります。
 本作の読みどころはなんといっても主人公の天才科学者と彼が駆使する情報総合学(ネクシャリズム)。優秀な科学者を満載しているはずなのに、結局はそれら科学者同士の派閥争いでぎくしゃくしている船内にあって、ただ一人、その明晰なる知性で怪物と対峙する主人公の姿は、科学者ヒーローの在り方の一つの頂点でしょう。

5.『影が行く』ジョン・W・キャンベル
 もう一本、人間に寄生する地球外生命体が登場する古典的傑作が、この『影が行く』です。『遊星よりの物体X』、『遊星からの物体X』、『遊星からの物体X ファーストコンタクト』と、三度も映画化されている有名作品でもあります。
 本作は、極地探検中の科学者たちが、氷の下から太古に地球に飛来したと思われる宇宙船と、氷づけの異星人らしき死体を発見、死体を基地に持ち帰るが、なんと解凍された遺体は蘇り、不気味な活動を始めるという、ホラー要素満載なところが特徴です。
 この作品に登場する怪物が恐ろしいのは、寄生した人間を乗っ取ってしまうこと。自分の友人がいつのまにか怪物にすり替わっている恐怖、さらには、自分もまたいつそうなるかわからない恐怖は、越冬中の極冠基地という密室状況と相まって、いやがうえにもサスペンスを高めてくれます。

6.『アヴァロンの闇』ニーヴン&パーネル&バーンズ
 SF的なリアリティを持って、異星生物の恐るべき生態をがっちり作り込み、人類との凄まじい攻防戦を描いた傑作が本書です。
 舞台は、地球から遠く離れた植民惑星アヴァロン。凶暴な生き物などまるでいないように見えたこの星に、人類は植民を果たすのですが、ある日突然、植民地の動物たちが次々に惨殺され始めます。そしてついに姿を現す巨大かつ凶暴な現住生物。しかも、これが実に手強い。なんせ、体内に加速用の酸化剤を蓄えていて、いざとなるとその巨体を猛烈な速度で加速、突進してくるというんだからたまりません。
 はたして、この怪物はどうして今まで発見されなかったのか。なぜ急に大量発生したのか。その謎が解き明かされるとき、この星の生態系のおぞましい食物連鎖の正体も明かされ、読者を驚かせてくれます。
 異形の異星生物の生態系にきちんとした設定をつけるならここまでやれるんだよ、というSF的発想の好例のような作品です。

《異星探査&ファーストコンタクトSF》
7.『遺跡の声』堀晃
『プロメテウス』はまた、異星探査と、それによる異星文明とのファースト・コンタクトを描いたSFでもあります。
 本作は、そんな異星探査の数々を淡々とした筆致でリアリティ豊かに描いたハードSFの傑作短編集です。
 主人公の職業は遺跡調査員。すでに滅んでしまった異星文明の残骸である遺跡を調査する、ある種の閑職にある人物として設定されています。そして、彼が遭遇する遺跡も、それぞれに驚くべき秘密を秘めてはいるものの、いずれもがすでに滅んでしまった文明の残骸でしかありません。
 つまり、この物語には異星文明とのコンタクトの名誉や栄光はかけらもないのです。読者は、そこに描かれたさまざまな異形の文明の産物に驚きを覚え、ひたすら広大な宇宙と悠久の時間の流れに諸行無常を感じつつも、だからこそ時間と空間の雄大さに心を打たれるのです。

8.『ロシュワールド』ロバート・L・フォワード
 多くの小説や映画では、太陽系外の世界を旅するのに、「超光速航法」という大嘘を持ち込んでいます。そうやって物理法則をねじ曲げ、光の速度を超えられることにでもしないと、広大な宇宙を自在に行き来することは困難だからです。本作は、そこのところを逃げずに徹底的に科学的事実を元に設定し、リアルな有人太陽系外探査を描いているところがすばらしい作品です。
 本書の目的地となるバーナード星は太陽から五.九光年の距離にある、地球に最も近い恒星のひとつです。そこへ行くために必要な科学技術をこれでもかというボリュームで書き込んだ前半部のディティールとリアリティには、驚くべきものがあります。もちろん、後半部で目的の惑星にたどり着いた探検隊が目にする、非常に奇妙な連星系「ロシュワールド」の景観と、そこで彼らと遭遇する異星人たちの姿もまた、たいへん魅力的です。本書は頭の先から尻尾までぎっしりと、科学的なリアリティに基づいて生み出された空想が詰まっている、まさにハードSFの逸品です。

9.『天の声』スタニスワフ・レム
 果たして、異星人と遭遇したとして、彼らと意思の疎通を行えるのか。本書は、この問題を徹底的に突き放した筆致で描いた問題作であり、ハードSFの極北とも言える思索に満ちた作品でもあります。
 繰り返し地球に降り注ぐニュートリノのパルス。これはもしかしたら、意味のある信号なのか。そして、そうだとしたら、何者かが人類に対してメッセージを送っているのだろうか。そう考えた人類は、科学者を集め、ニュートリノ波の解析を始めます。ところが研究は何の成果も出せないまま、ひたすら時間だけが過ぎていってしまうのでした。
 本書で描かれているのは、科学的研究の本質について、そして、人類とは異なる知性とのコンタクトについての、ある種の透徹した意見表明です。本物の科学的研究が、どれほど大変なものであり、解答がそう簡単には見いだせないものであるか。安易な物語を拒絶した、リアルな世界の見つめ方を読者に厳しく迫る問題作です。

《人工知能&ロボットSF》
10.『デカルトの密室』瀬名秀明
『エイリアン』シリーズといえば、毎回個性的なアンドロイドたちが登場することでもお馴染みです。今回も、『アラビアのロレンス』を愛するアンドロイドをマイケル・ファンビンダーが熱演していて、彼とヒロインとの会話の数々も見どころの一つとなっています。
 さて、では、アンドロイドが意識を持つというのは、どういうことなのでしょうか? そしてそれは科学技術的に可能なことなのでしょうか? いや、そもそも「意識」とはいったい何なのでしょう?
 本作は、そんな根源的な問いかけに真っ向から挑んだ意欲的な人工知能SFであると同時に、アンドロイドによる殺人事件を解決する本格ミステリでもあるという、最高に野心的な作品です。最新の科学知識が存分に盛り込まれ、なおかつミステリとしてのトリックも存分に仕掛けられた重厚長大な小説なので、難解に思えるかもしれませんが、だからこそ、最後まで読み通し作者の目論見に気づいたとき、読者は強烈な感動を覚えるはずです。

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