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今回お話を伺ったのは、株式会社髙丸食品 豆富工房仁徳の代表取締役社長 髙落翔平さんと、取締役の髙落留梨さんです。昔ながらの職人の手とこだわりの釜で製造しているさまざまな商品には、どのような想いが込められているのでしょうか。

祖父・父から想いを受け継ぎ、社長に就任

―まず御社のこれまでの道のりについて教えてください。

髙落翔平(以下、髙落):私の祖父にあたる髙落三次が堺区御陵通あたりの自宅で、油揚げを製造したのが、弊社のスタートです。当初は製造した油揚げを町のお豆腐屋さんに卸していました。2代目でも順調に売り上げを伸ばし、創業から20年ほど経ったとき木津市場に出店することに。油揚げだけじゃなく豆腐も販売しようという話になり、豆腐の製造を開始したと聞いています。


―髙落さんが入社されたのはいつ頃ですか?

髙落:私が弊社に入社したのは2015年です。はじめは現場で製造など主要工程を学んだり、営業社員に同行したりなど、会社全体の知識を深めました。入社して1年経った頃、ありがたいことに本社工場だけでは製造が追いつかないようになったんです。そこで中区土塔町にある同業他社の工場を取得し、売り上げをさらに伸ばしていこうと。そして当時の社長だった父に「土塔工場の工場長になりなさい」と任命されました。


―工場の立ち上げ、大変だったんじゃないですか?

髙落:大変でしたね(笑)。まず大変だったのが、人員の確保。本社工場も手一杯なので土塔工場に来てもらうことも難しいので、1から探す必要があったんです。土塔工場の前身である豆腐工場で働かれていた方にも勤務をお願いしました。人員の確保ができたら、次は教育。弊社は商品づくりに大きなこだわりを持っています。どんな想いで商品を作っているのか、どのようなこだわりを持って仕事に取り組んでほしいかを理解していただくことも大変だったなと思います。特に前身の工場とはカラーが全く違うので、その工場から引き継いで勤務される方は戸惑ったと思います。そんな中でも皆さんしっかり理解してくださって。弊社の想いを背負って仕事に取り組んでくれています。


―その後、社長に就任されたと。

髙落:まあ今も工場長と兼任なんですけど、2017年に社長に就任しました。現在の仕事内容としては、製造や配達、営業、機械の修理、品質管理、採用活動、育成、マネジメント、事務作業…全部していますね(笑)。もちろん大変に感じるときもありますが、私が社長になったとき叶えたいことがあったんです。だから今も頑張れていますし、さらに活動の幅を広げていきたいと思っています。




―御社のこだわりを教えてください。

髙落:手作りと機械のそれぞれの良さを融合させて商品をつくっていることですね。手作りのお豆腐って職人さんが肌で感じたものを微調整しながら作るんです。1人で作るため、1日100~200丁が限界量になります。また、後継ぎがいないと職人さんの味が途切れてしまいます。そこで弊社では、機械化できる部分は機械で、手で触って調整すべきところは手でという風に工程を分けながら豆腐づくりをしています。

髙落留梨(以下、高落留):機械と手作りのいいとこどりですよね。弊社の機械、豆腐を製造するための「釜」は2代目が設計しました。すごく凝り性で、機械・装置が大好きな人なんですよ。釜の完成後も、現場の釜を見に行って改善点を見つけて手直ししていくほど、釜には大きなこだわりを持っていました。

髙落:弊社のお豆腐は、メーカーさんの機械では実現できない味・質だと考えています。これまでの経験や技術、知識をつかってどんどん改良していくのがこだわりのひとつですね。また、どうすれば豆腐が美味しくなるかを科学的に把握して、システム化していることも特徴的かもしれません。気温や水温の変化に応じて大豆の様子を確認したり、臼の挽き方を調整したり、にがりの投入タイミングを調整したり…。科学的に把握できているからこそ、味・質が安定した豆腐をつくることができます。また、大量に製造できることも科学的なデータをもとに豆腐を生み出す弊社だからこそできるんだと思います。長い歴史に育まれた伝統産業・独自のサービスを保有している企業が認証される「堺技衆」に選ばれたのも、祖父や父がこだわりをもって豆腐づくりをしてきた結果ですね。

髙落留: 現在の会長(2代目の社長)は、「技術に人の心を込めて」というスローガンを考えました。ただただ量産するのではなく、釜はもちろん、素材にもこだわりを持って、心を込めてお客様に届けていきたいです。




お客様の顔が見える直売会を開催

―社長になって叶えたいことって、どんなことなんでしょうか。

髙落:組織を変化させることです。弊社はもともと業務用豆腐の製造がメインでした。病院や学校、飲食店が取引先なので、豆腐を食べるお客様の顔が見えないんですよね。従業員はお客様の「おいしい!」と言う笑顔を増やすことをめざして製造や営業活動をしているのに、お客様の声がなかなか届かない。そこに大きな違和感を覚えたんです。


―そこで直売会をスタートされたんですね。

髙落:はい。こんにゃくを製造する中尾食品工業株式会社さんが実施している直売会(NAKAO MARCHE)に出店しないかとお声がけいただき、直売会をスタートさせました。さまざまな商品が購入できることでお客様に喜んでもらいたいという中尾食品工業さんの想いもあり、現在も出店させていただいています。

髙落留:「自社独自の直売会もしたい!」と案を出してくれたのは、髙落なんです。南海本線 諏訪ノ森駅の旧駅舎内にあるイベントスペースを見つけて、月に1回出店できることになりました。そこから土塔工場でも販売できることになり、「できるなら早くスタートさせよう!」という髙落の声でスタートしました。

髙落:どの商品でどのようにアピールするのか、どんな宣伝方法を実施するのかなど、現在直売会に関することは彼女が担当しています。

高落留:きっかけは髙落や営業部長ですが、一応私が担当です(笑)。やっぱり直売会を行わないと、お店を出していない弊社のお豆腐はお客様に届きにくいんですよね。直売会を開催すれば、地域のお客様が足を運んでくださいます。スタートしてしばらく経ちましたが、ファンになって毎月買いにきてくれる方もいるんですよ。スーパーとは違って、豆腐や油揚げ、がんもなど弊社の商品しか置いていないのに、わざわざ来ていただけるのは本当に嬉しいです。スーパーに置いていただける商品数は限られているので、「これが欲しいから直売会に来た!」なんて方もいらっしゃいます。


―豆腐屋さんから直接買えたら、おすすめ商品も聞けるからいいですよね。

高落留:そうですね。最近はさまざまな影響でオンライン購入が増加していますが、やっぱり対面の良さってあるじゃないですか。それこそ「おすすめ商品ある?」とか、「これはどうやって料理したらいいの?」って聞いてくれるんです。私たちは豆腐のプロですから(笑)、どんな質問にも答えられます。そういう関わり合いを楽しんでくれる方や対面の良さを感じている方もファンになってくれたりしますね。毎月来ていただけると非常にうれしいですし、これまで感じられなかったお客様の声を聞ける直売会を開催できてよかったなと思います。「お姉さんまたおるやん!」ってお子さんに言われるのも楽しいです(笑)。

髙落:現在は中尾食品工業さんや土塔工場の直売会のほか、地域のイベントや催事で販売することもあります。直売会に来てくれたお客様にはチラシを渡し、「ここで買えます!」とご案内できるようになったのも直売会開催の良さですね。これまではどこで買えるのかわからない状態でしたから。


―ホームページのリニューアルやSNSの更新もされているんですよね。

髙落留:堺市のデジタル化促進補助金を活用して、BtoC向けのホームページをリニューアルしました。弊社に興味を持ってくれた方や直売会に来てくれた方がアクセスして、商品のこだわりや独自の技術が伝わればいいなと思います。Instagramでは商品紹介やレシピを発信しています。常連さんやスマホを使う方々は結構見てくれるんですよ。SNSはお客様との接触のチャンスですから、「どんな内容だと目に留まるかな」「どんな情報を求めているのかな」と考えながら、日々試行錯誤しながら取り組んでいます。



従業員の働きやすさが、働きたいにつながっているのかも

―直売会を通して、会社として変化したことはありますか?

髙落:従業員のポジティブな声が聞こえるようになりました。直売会開催前は従業員が豆腐を食べるお客様の顔が見えなかったじゃないですか。でも、直売会に従業員が参加することで、お客様が商品を手に取って購入していく姿が見られます。きっと何か感じるものがあると思うんですよね。次の日会社に行くと嬉しい声をかけてくれる従業員もいます。

髙落留:月替わりで従業員に参加をお願いしているんですが、直売会って基本的に会社がお休みの日なんですよ。お休みの日に…?という従業員もいると思うんですが、何かちょっとでも感じてもらって商品づくりにも影響があればうれしいなと声をかけています。100名以上のお客様が大量に購入してくれたりすると、参加した従業員によっては「また声かけてくださいね!」と言ってくれることもあるんです!また、見えなかったものが見えるようになって、商品づくりのモチベーションにもつながっていると思います。


―組織の変革も進めているそうですね。

髙落:もともと従業員は30人だったのですが、現在70人ほどになってきたので組織の変革も進めています。3年ほど前から組織の定義を変えたり、評価制度を一新したりしていますね。各部署・役職の方にどのような責任と権限を与えて業務を進めていくのかを定義して、評価制度の運用を開始しました。これまで先代の方たちが作り上げた考え方もあるので、結構大変でした。でも、一定の成果は出ているのかなと感じています。普段働く中で、従業員と深いコミュニケーションをとることってなかなかないじゃないですか。組織の定義づけももちろんですが、従業員としっかり話せたのもよかったですね。


―ほかにもなにか取り組まれていることはありますか?

髙落留:「子育て支援行動計画」にも取り組んでいます。産休・育休をとる方は多いですよ。1年程度お休みされて、復職される方も多くいらっしゃいます。子どもが生まれると子ども中心の生活になるじゃないですか。復職しやすい環境があるのだと感じています。

髙落:産休・育休といった特別休暇もそうですが、普段の働き方も柔軟に対応しています。弊社には老若男女問わず、そしてさまざまな国籍の方が働いているんです。皆さんいろんな事情がありますから、勤務曜日も時間も何でも対応します。

髙落留:会社の多くは9時17時といった固定勤務時間があるじゃないですか。でもそれだと、一人ひとりの事情に合わせられないんですよ。こちら側から勤務を依頼する場合もありますが、融通がきくように調整しています。タイムカードをチェックするのは大変ですけど(笑)、弊社の環境が働きやすさにつながっているならうれしいです。



「豆富工房仁徳」の商品を堺市の方々に届けたい

―最後に、今後のビジョンをお伺いしてもよろしいでしょうか。

髙落:地元堺での認知度を上げ、地域の方々にもっと届けていきたいです。私が入社した当初は、堺市の豆腐メーカーは弊社だけでした。でも、大体の方は弊社を知りません。お客様の「おいしい!」と言う笑顔を増やすことをめざしているのに、このままではダメだと。現在は直売会などで少しずつ認知度が上がり、さまざまな方が購入してくれるようになりました。今後もいろんなアイデアを出しながら、「豆富工房仁徳」の商品を広げていきたいです。そして食べてくれた方にもっと笑顔になってもらえるよう、がんばります!



さまざまなこだわりをもつ魅力的な商品を、堺市の方々に届けている高丸食品様。おいしい商品でお客様を笑顔にしているのは、先代の方々、お二人の想い、そして従業員の方々の想いが込もっているからだと感じました。今後も堺唯一の豆腐メーカーとして、おいしい商品を届けてくれることが楽しみですね。



株式会社高丸食品
豆富工房仁徳:大阪府堺市で豆腐、豆乳、油揚げを製造販売(高丸食品) › 豆富(豆腐)工房仁徳(高丸食品)は大阪府堺市で美味しい豆腐や豆乳、油揚げ製品を製造販売しています (tofu-kobo.co.jp)

堺市イノベーション公式Instagram
【堺市イノベーション】(@sakai_innovation) • Instagram写真と動画

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