恩師曰く少年よ純金に笑え

大学生の時分、

国際経済取引法か何かの講師だった教授が言っていた

「笑うぞ、純金は」


教授は齢にして50~60ほどだっただろうか、背の低い腰の曲がった男性で、容姿は例えるならば「家に勝手に住み着くタイプの妖怪」と言って差し支えなかった。

余談が好きな教授で、私は彼のそれが好きだった。毎回1つは名言を残していた。

「あの~、ノーベル経済学賞とった〇〇っているだろ。アイツ、××××(非常に差別的な用語)だぞ。会ったことあんだよ、アメリカのパーティーで。一言二言話してみれば分かる。アイツはどうしようもない××××(非常に差別的な用語)だ」


「NYでよ、脱税がバレるとよ、みんな捕まる前に自分の頭を銃で撃つんだ。捕まったら一生牢屋暮らしになるから。俺の友人もそんで死んじまってさ、俺、警察にその死体見せられて『本人に違いないか』って訊かれたけど、

顔、吹き飛んでんだもんな。

『アゴのあたりに面影があります』って言ったら解放されたよ。」


……どれだけ信憑性のある話かは置いといても面白かった。周りの学生はドン引きしていたが。


一番覚えている話が冒頭のものだ。


「いいか、お前ら。純金をよ、買えよ。

ポートフォリオとかじゃなくて、コレクションとして。

バイトして金貯めて、小さいのでいいから金の延べ棒をよ。

ソイツをな、家の机の引き出しにでもしまっておいて、時々引き出し開けてみろ。


笑うぞ。


人間ってのはよ、純金を見ると口角が上がるようにできてんだよ。

辛いことがあっても、悲しいことがあっても、カネがなくても、誰かが死んでも、

純金見たら忘れっから。『これがあんだよな、俺』って希望持てるから。

だから、買えよ。純金を」


――その時の教授の邪悪な笑みが忘れられない。住み着いた家の家主を食らう寸前の顔をしていた。


銀座の田中貴金属の前を通り、ふと思った。

本当にあのぬらりひょんの言っていることは正しいのだろうか。

お世辞にも明るいとは言えない時勢だ。俺は万能の精神薬、純金を買うことに決めた。

「一番小さい純金ってどれです?」

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このICチップほどの大きさしかない金、

4万した。



高ぇ~の、金って。

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