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銭湯でしか流せない気持ち

こうも家にばかりいると、いつまで経っても身体中の水分が入れ替わらないし、芯の部分が暖まらない。

銭湯に行きたい。
これまで当たり前だった暮らしに思いを馳せる。


SNSで同級生たちが結婚したり出産したりしているのを知る。


完成させられなかった夏休みの宿題みたいだと思う。


みんながコツコツ作りあげたものを得意げに提出して
先生が受け取って丸をつけてあげているのを
私だけ立ち上がらないで、教室の椅子に座ったまま見ている。

そういった類の今までの悲しかった事悔しかった事恥ずかしかった事を
いとも簡単に思い返して臆病になる。

何かの本で読んだ
幸せとはそこにある桜を綺麗だねって
ただ隣の人と分かり合える事。

私は靴の中に入った小石だったり
冬の清潔な空気がだんだん熟れて
そこらじゅうの命が存在感を増して行くことが気になって
君に何かを悟られるのが怖かった。

銭湯は大好きだ。
どこの誰かもわからない
シワシワのおばあちゃんとか
騒がしい小学生とか
タトゥーが入った外国人とか
同じ液体に混ざってひとり溶け出していると
信じられないくらい暖かくて柔らかい気持ちに遠慮なくなることができて
こんな中途半端な私でも世界の一部でいられる気がする。
簡単な宿題なら、みんなみたいに次はちゃんと提出できそうな気がしてくる。
そしたら宿題を忘れたから学校にいかない なんて選択を、
取らなくてもいいような気がする。

得体の知れない殺人ウイルスの猛威が落ち着いたら、近所の銭湯にいちばんに向かう。思う存分楽しんだら、湯冷めする前に家に帰ろう。寄り道して、缶ビールとコロッケを買っていくのもいいかもしれない。

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