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放牧系の牛について

「放牧系」という言葉がちょいちょい(ときどき)聞こえてくる。牛舎で飼わずに、山の中や林間、耕作放棄地を利用して牛を飼うことを指すのだが、ヨーロッパを旅すると、当たり前のようにこういった光景が見られる。

簡単に言えば「放牧=放し飼い」なので、管理下におかない飼い方が放牧だと認識しています。牛舎の横に日光浴できるようなスペースを作っている牧場も見かけますが、以前、なんちゃって放牧ですか、と言って嫌な顔されたことがあります。

20年前、年に2回ほど北海道の豊富町へ行っていたことがある。稚内空港から豊富町までレンタカーで50分程度。当時はすれ違う車もほどどなくて、牧場があれば車を停めて放牧された牛を見ていた。夕方になると牛は牛舎へ帰っていくのだが、牛舎で飼われている和牛を見慣れている僕にとって、こういう育ち方をしている牛たちは、どのような肉質してるのだろうと、興味は自然や環境ではなく、肉そのものだったことを今でも覚えている。

その後、北海道様似で飼われているアンガス牛を僕が輸入することになるのだが、そのままでは売れないので、gibier×beefの造語で「ジビーフ」と名付けた。当初は鹿肉と間違うような肉で赤々としていた。

僕はジビーフに関しては「輸入」という言葉を使う。いまでこそおいしいとか好みだと言ってくれる人が増えてきたけど、当時(8年前)は散々だった。

このあたりはナチュラルワインのインポーターに似ているかも知れない。和牛なら、セリで枝肉を目利きして購買するのだが、そこに生産者はあまり関係ない。親しい生産者が出品したものであっても、モノありきなので、見るのは人ではなく肉なのです。僕の場合は、人も見ますがそれも肉の仕上がりによりけりです。

僕はワインのインポーターに知人が多く、毎月のように食事を共にする友人もいます。彼らに共通しているのは、ワインだけを輸入しているのではなく、造り手の思いや哲学、理念に共感し、自然環境に敬意を払いながら一緒に取り組んでいる姿が、僕と生産者の関係と似ているのです。

それと、ジビーフにしろブラウンスイス(岡山吉田牧場さんから出荷の経産牛)にしろ、僕が扱う肉は返品という選択肢がありません。それは、僕しか扱っていない肉であり、人工的に作られた肉ではないからです。

牛を育てるには放牧といえども人間が関わる瞬間があるので、もしかしたら自然という言葉は当てはまらないかも知れません。なので、自然に近いところにいる牛と表現するほうがしっくりくるかも。

でも、わかりやすいので自然という言葉をあえて使うと、肉が締まってなくても、水分が多くても、自然のものだから仕方がないという考え方です。ワインと違うところは、輸入後に加工というひと手間が入ります。

さらに僕は「手当て」をするので、ある程度の質のリカバリーができます。ただ、それはリレーする人たちが、顔が分かる生産者であり、顔が分かる料理人の存在があるからなのです。だれが育てた牛なのか、どこの料理人に納めるのか、見えないものに対しての仕事は僕にとって恐怖しかないのです。

今年から、ジビーフやブラウンスイスを一般のお客様向けとして店頭販売しています。

ジビーフは、当初散々でした。臭いとか、不味いとか、そこまで言うかと。でも、僕が逆の立場でもお金を払う以上、断る理由に容赦ないかも知れません。

サスティナブルとかエシカルとか、最近だとSDGsとか、モードに乗っかったビジネスは芯が浅いと透けて見えます。ジビーフは、そいいう世界とはまた別の次元で、そして応援買いではなく、あくまでも僕はおいしさを追求してますので、そのあたりも見ていただければ嬉しいです。

あれから8年、なにかが変わったということはありませんが、牛は10倍に増え、土地は活性し、僕の技術も少しはジビーフに寄り添えるようになってきたかなと思っています。長くかかりましたが、ようやく自信を持って一般販売することができるようになりました。

ありがとうございます!