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タルタルやユッケの生食について

①タルタルの提供は法律で禁じられています

あまりにもタルタルやユッケを堂々と提供しているので、僕でさえ「あれ?大丈夫になったのかな」と勘違いしてしまうことがあります。タルタルやユッケ、カルパッチョ、牛刺しなど、牛肉の生食は法令で禁止されています。プロの料理人でも知らない人が多すぎて驚きます。個人的に食べる程度なら自己責任で良いと思いますが(本当はダメなんですよ)店で提供したら違法になります。

あと、同業者が堂々とタタキを販売しているのを見て、確信犯なのかまさか知らないのか、どちらにしても国として取り締まらないと最悪の事態だけは避けたい。

②飲食店が許可をとっただけでは提供できないんです

ここを勘違いしている方がほとんどです。飲食店の生食許可は講習を受ければ証明書が交付されます。これで生食がだせると勘違いする方がほとんど。じつは仕入れる肉も「規格基準」と「表示基準」に合格した牛肉を用いなければいけないのです。

生食用の牛肉(内臓を除く)には、法律に基づき、「規格基準」と「表示基準」が定められています。「規格基準」では、牛肉の塊(ブロック状の肉)の表面から 1 cm以上の深さまで 60 ℃で2分間以上加熱殺菌をして表面を切り取る、といった加工・調理の基準や、腸内細菌科菌群(腸管出血性大腸菌、サルモネラなど)が陰性であること、などの成分規格が定められています。

「表示基準」では、生食用である旨、と畜場の名称及び所在する都道府県名(輸入品にあっては原産国名)、生食用食肉の加工を行った施設の名称・所在地などを表示することが定められています。生食用として加工された食肉であっても、腸管出血性大腸菌などの食中毒菌を完全になくすことはできないので、食中毒のリスクは「0(ゼロ)」ではありません。そのため、「表示基準」では、1.一般的に食肉の生食は食中毒のリスクがある旨、2.子供、高齢者その他食中毒に対する抵抗力の弱い方は食肉の生食を控えるべきである旨、の表示が義務付けられています。これは、生食用の牛肉をメニューとして提供する飲食店でも店内に表示しなければなりません。

③生食を提供するには投資が必要

保健所の検査がかなり厳しい。既存の店舗で許可をとるのは至難の業です。どれだけ大変かというと生食専用の作業場が必要になります。となると既存の店舗ではスペースがない。スペースを作るには改装を余儀なくされます。そこまで投資して生食をやる意味があるのかと・・・ほとんどの方がここで断念します。新築の場合やスケルトンの状態から作り上げていくならまだやりやすいかも知れません。あとは保健所の担当さんが優しい方だといいのですが細かい人だとさらに大変。

④サカエヤでは許可はとっていても販売していません

サカエヤでは店頭でも生食を販売できるのですが(いまは販売していません)この許可こそ大変でした。店からお客さんが外に持ち出すということをそもそも認めてくれなくて、最終的には消費期限が製造から8時間、専用の隔離した場所でしか作業しない、包丁もまな板も生食専用のものを使う等々でようやく許可されたのです。だから安全ということではなく、作業する人の意識のほうが大事だと思います。日々バタバタしていて万が一のことを考えるといくら許可をとっているからといって安易には販売できないのです。

⑤生食を提供するまで

屠畜から7日以内に菌検査から処理までを終わらせなければいけません。菌検査に出している間に熱処理をするのですが、これがめちゃくちゃ手間なんです。枝肉から抜いたモモ4部位(40~50kg)を90~95℃のお湯に30分浸けて、取り出したモモ肉の断面1~1.5㎝を60度で2分間キープ。そして3時間30分冷やして芯温8~12℃をキープ。この行程の間に検査結果の連絡がくるのですが、万が一陽性なら処理した肉は生食として販売できないのです。

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検査に合格した肉は2kg程度のブロックにして真空パックにします。法令に基づき、「子供、高齢者その他食中毒に対する抵抗力の弱い方は食肉の生食を控えるべき」である旨の表示シールを貼ります。

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約2.0kgのブロック

熱処理した肉はトリミングが必要なので歩留まりはよくないです。だからタルタルやユッケで販売するとなると売価が高くなるのです。

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約2.0kgのブロックをトリミングすると約800gは目減りします。

トリミング後

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セジール(2023/9閉店)のタルタル

SNSでタルタルやユッケの写真、投稿を見かけますがあきらかに違法と思えるものばかり。店側もよくないですが、それを擁護するお客さんもよくないと思います。なにか問題が起こってからでは手遅れですからね。まじめにやっているところが巻き込まれるのは勘弁してほしい。


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