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「肉が本来持っている味と香り」を超えない手当てと超える手当て。

味が短調な肉はあっさりしているが変化がないので食べ飽きる。なのでフレンチの技法でもあるソースに向いている。このあたりはラフィナージュの高良シェフが上手だ。ある日のジビーフは赤ワインとカルバドスのソースを選ばせてくれた。泣けるほどうまかった。最後の一切れが名残惜しくてなかなか口に運べない。

ヒレの手当ては難しいのでやらないという選択もある。肉が持っている香りと味をそのままにして水分調整のみ行う。なので届け先のシェフをどうしても選んでしまう。一方、ロースやモモは個体差はあるもののしっかり手当てを施す。ただし、シェフが何で焼くのか、どういう料理にするのか、いつお客様に提供するのかで手当てが変わる。

以前、友人のために和牛経産のサーロインを手当てしたことがあった。BBQで炭で焼くとのことだったので3センチのLボーンにカットして何枚か送った。友人から絶賛の感想が届いた。そりゃそうだろう、ちょうどいい感じに仕上げたのだから。友人は何枚か余ったLボーンをイルジョットに持ち込んだ。

後日、高橋シェフから「あんなに焼きやすい肉は初めて!うちもこれからあれがいいと」(笑)

その日に合わせて手当てした肉と、1ヶ月くらいかけてゆっくり使っていただく肉とでは手当が異なる。高橋シェフには「ちょうどいい肉」はお届けできないので、これからも難儀か肉(笑)をお届けさせていただきますが、肉の香りと味はコントロールできるのです。そのために重要なのが「保存」です。

香りの話をしますと、和牛には「和牛香」と呼ばれる香りがあります。これは海外の肉では感じることができない日本和牛の特徴です。ここに熟成による香りをつけると、香り同士がケンカしてしまいます。なので、赤身の肉には香りつける手当てを、サシが多い肉には香りをつけずに、肉本来が持っている味と香りを極力つけない手当てをしています。

いま、新潟のUOZENさんの井上シェフからガンジー牛のロースをお預かりしています。どうしても納得いく味に仕上がらないからと僕に託されたのですが、いかんせん初めての牛肉なので着地点が分からないのです。届けていただいたその日に食べた感想は、ピュアな味がしてとってもおいしかったのです。ここからどういう方向へ持っていけば答えが見つかるのか、いや、答えなんてないのかも知れないが、なんらかの結果をださなければいけないので毎日悩んでいます。もちろん苦悩ではなく、ワクワクするほうです。

14日目に試食したとき、あきらかに味も香りも違う方向へ行きだしていると感じました。10日目に試食したときのほうが、おそらくガンジー牛らしさがでていたように感じました。30日目を一区切りとしているので、期待より不安がよぎります。という感じで検証を繰り返しながら、その肉に最適な手当てをしていきます。すべて自然まかせなのでタイミングが大事です。

牛は屠畜で命を絶たれるが、僕の仕事は絶たれた命をいかにおいしさとして繋げるかだと思っています。

間もなく虎ノ門でのポップアップが終わります。なんのためにポップアップを引き受けたのか。滋賀を1ヶ月閉めたわけですから儲かるどころか大赤字です。そのあたりのことはまた別の機会に。

さて、9月に奈良の銘酒「春鹿」さんとのコラボ勉強会があります。日本酒とのコラボは過去に3回経験がありますが、今回は春鹿数種類に肉を合わせていくという試みです。ワインでは何度もやっていますが日本酒は初めてです。ペアリングは合う肉、合わない肉の2種類を参加者のみなさんにお試しいただくというもの。肉と日本酒の香りがここでも大きな課題となります。

同級生の知人は来年定年退職だと嘆いています。この年になってもチャレンジさせていただける環境にありがたく感謝しております。

ありがとうございます!