『アンメット』感想書き散らし

 話題の『アンメット』を観始めた。ひとまず2話まで。
 婚約…?正直続きが気になる終わり方だったが、時間的に観るのが厳しいのでまた後日。

 2話は静かに泣いた。この早いタイミングでミヤビが患者に自分の記憶障害のことを明かすのは、さすがにテンポが良すぎる。気持ちいい。
 主人公が記憶障害の連続ドラマなのに、各説明部分がスマートで(日記の重要箇所のみ映す、ミヤビの短いナレーションを挟むなど)、観ていてストレスがない。とにかく脚本と演出がいい。原作の漫画もこういうスピード感なんだろうか。

 杉咲花がすごい。若葉竜也が素晴らしい。
 2話中盤の二人きりのシーン。ミヤビが三瓶を見つめる。三瓶の「…なんですか?」に対するミヤビの「分かりません」の言い方と表情が見事。見事と言うほかなかった。最終回まで観た時に、もう一度このシーンを思い出したい。


  3・4話。

 津幡師長のトラウマ克服は泣ける。「ドアを壊す」という行為が、そのまま彼女の心の直喩になっていて分かりやすい。藤堂院長役の安井順平さんの温度感もとても素敵。

 岡山天音ってああいうナチュラル人たらしみたいな芝居できるんだ。すごい説得力。彼の扮する綾野は、カテーテル手術専門の脳外科医として一級品の腕を持っていて、ミヤビを巡る三瓶との対比が色濃くなってきた。ここには麻衣の嫉妬のみが絡んでくると思っていたが、祖父や大迫教授も(たぶん利権とかで?)大きく関わっているようで、複雑に絡み合ってきた。
 ていうか西島会長役の酒向芳さん、怪演すぎるだろ。井浦新は相変わらず独特の雰囲気があっていい。医療の権威としての佇まいが板に付くぐらい、年を重ねられたんだなあと思う。

 全体を通して、なにげに千葉雄大の存在感がいいアクセントになっている。この人も素敵に年を重ねた。コミカルもできるし、若葉竜也とBL未満みたいな雰囲気も醸し出せるし、有能医師っぽい説得力も感じる。

 あと最初から思ってたけど、オープニングかっこいいよな。
 毎回ミヤビのアップに「アンメット」の文字で終わるラストも素敵。

 5話。

 森ちゃんありがとう。君のおかげでミヤビは医師に戻れた。ミヤビ自身もナイス判断。
 目に焼きつける。ミヤビの「忘れたくないなあ」が沁みる。過去が明日に繋がる、人間とはそういう生き物なのに、それができないミヤビの現状を思うといたたまれない。脳と心は密接な関係にある。心が覚えていれば脳の障害も乗り越えられるのか、という話。
 ただ、毎日記憶がリセットされるのに、彼女なりに考えて次の日の行動を己に課した。これがめちゃくちゃすごい。記憶がなくても記録が彼女の存在を明日へと繋いでいる。また、「人間は忘れることもあるからいい」、という見方もできる。

 ミヤビが処方されている薬、怪しくない?大迫教授の思惑とは。ミヤビやミヤビの家族と話している時は可愛げがあるのに、一転、長い物に巻かれていそうな愚かな闇の部分が見えるあの描写は何なんだ。とても大きな渦の中に、ミヤビはいるのだろうか。

 6話。

 大迫教授(と西島会長)が行うミヤビへの抗てんかん薬の投与を観て、問い詰める三瓶と綾野。三瓶があそこまで鋭い目を人に向けたのは、劇中初めてではなかったか。

 院長!院長院長院長!!!かっこいいぜ院長!「穏便に」とミヤビに釘を刺したあなたが、患者の社会復帰に理解を示さない会社に、怒りの炎を見せてくれるなんてよ!それを見るミヤビの目。「この人は味方でいてくれる」という目。周囲に恵まれているからこそ、彼女は脳外科医として働いていけるんだよな。

 「アンメット」という言葉の意味が明かされる。直訳で、“満たされない”。あちらを立てればこちらが立たず。大迫教授や西島会長の言う「全体のため」とは何とも便利な言葉だと、三瓶は言う。全体が良ければ誰かが犠牲になってもいいのか、という問い。いや、もはや反発。これはこの6話や、作品全体に通じるテーマなんだろうな。
 またミヤビの言う、「障害も含めた自分の人生」という考え。障害に限らず、現在自分の置かれている状況を踏まえてどう生きるかが問われているし、そのためには自分一人の力ではどうにもできないことが多い――逆に言えば、力を合わせればできることが増えていく、ということが要所要所で言及される。つまりチームワーク。

 家で豚足。すげーなミヤビ。

 7話。

 大将にもスポットが当たる。このご夫婦を演じている二人の俳優さん、とてもいい。
 夫婦のやりとり、よすぎて泣いてしまう。サブキャスト二人だけのシーンなのに、こんなにも濃厚に見せてくれるなんて。贅沢だ。大将の手術うまくいってよかった。
 あと噛んだり台詞に詰まったりしてもそのまま使う心意気、好きだよ。前もそういうシーンあったよね。人間。人間なんだよ。

 ミヤビは記憶錯誤。回復のための過程というが、明らかに危険だ。でもミヤビが三瓶に言った「頼っていいですか?」はすごくいい。すごくいいぞ。
 そして印象的な出来事を少しずつ思い出すようになってきた。星前が鼻水を出して「日記に書かないでよ~」と言ったのをきっかけに、日記に書いてその後消した婚約のことを、ミヤビが思い出す。物語は、綾野と麻衣も含めた男女の関係性にスポットが当たっていく。この作品の軸のひとつであるこの恋愛模様が、どういう展開を迎えていくのか。記憶障害を描く時に、恋愛を絡めると一気に見やすくなる、というのはとても勉強になる。恋愛は人の心を最も動かす要素のひとつだから。

 8話は主に綾野と麻衣の話。無事にくっついてよかったし、家を守るため、また自分のやりたいことを貫くため、西島会長に楯突く選択をした綾野はかっこいいぞ。でも……大丈夫?あのジジイくそ怖そうだぞ。

 9話。

 い、池脇千鶴すげぇ……

 分かりやすー!大迫教授が三瓶を危険視する理由が。三瓶が医師として理想を求めるのも分かるし、大迫教授がなぜ利権や出世にこだわるのかも痛いほど分かる。
 同じ病気だとしても十人十色。治療法もそれぞれ。大勢を生かすために一人を犠牲にする。未来を生かすために現在を犠牲にする。それは善悪では計れない、個人の裁量や正義による。だから医療は難しい。

 これはいわゆる神回というやつだな。
 ミヤビと三瓶の会話。駄菓子から三瓶の兄の話、なおちゃんの話への流れが脚本的にきれい。
 観始めた時からちょいちょい思ってたけど、杉咲花のあいづちがナチュラルですごい。彼女自身が元々そうなのか、役作りなのか、監督が演出または推奨しているのか定かではないけど、劇中で何度か言われているようにミヤビが「落ち着く」人なのはこういうところに表れている気がする。彼女なりに真剣に人の話に耳を傾けてくれている、というのが話し手には伝わる聞き方。そして嘘のない真摯な受け答え。
 ミヤビがこういう人だからこそ、三瓶にとってはミヤビってどうしようもなく光なんだな、という彼の表情。それはでも、お互いにそうか。
 抱きしめるか?ん?どうだ?いやいやそんな安易な。だってミヤビはすでに言葉と存在で三瓶を抱きしめているじゃないか、それで十分だよと思っていたので、正直個人的に最後のハグは蛇足のような気がしたけど、その後のミヤビの「誰ですか?」を際立たせるための演出としては最適なんだろうな。あとまあ、三瓶が寄りかかりに行くという萌えポイントはひとつの見せ場だしな、というちょっと斜めな見方。
 そんで今回はミヤビではなく三瓶のアップでタイトル。憎い演出。



 10話。

 いや野呂佳代ォ……
 成増さん、旦那さん亡くされてたのかよ。普段から気丈に振る舞ってるの素敵すぎる。三瓶の話を聞いて「そりゃ(大切な人は自分の頭からは)追い出せないわ」は泣くって。その後の笑顔にも泣いちゃうって。

 いやしかし、ミヤビの一過性健忘しんどすぎる。どんどん忘れていってしまう。
 ノーマンズランドだから仕方のないことなのかもしれないけど、失敗したあとの三瓶の心情を慮って手術を受けない、って。逝く側、忘れる側ではなくて、残される側の方が覚えているからつらい。そりゃ誰もが救いたいと思うよ。本人のためでもあるし、自分のためでもある。ミヤビの選択はミヤビの選択だから何も言えないけど、やはり誰にとっても残酷な選択だよなあ。

 柏木夫妻のエピソードの挟み方、秀逸だなあ………
 「モデルになってもらえませんか」じゃないよ全く。素敵すぎるだろう。

 人には過去の記憶があって、それらが今のその人を作っている。特に、忘れないで残っていることがその人の核になっていく。柏木夫妻の様子を見て、忘れてしまうことへの恐れが和らいだミヤビだったけど、ついに倒れてしまった。



 最終話。愛。


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