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2010年代のK-1とは何だったのか■現地観戦の鬼サーバル

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――今回は「現地観戦の鬼」サーバルさんをお呼びしまして、K-1および最近のキック界についてお話をお伺いしようと思います。サーバルさん、よろしくお願いいたします。

サーバル こんばんは。よろしくお願いします。

――ここ最近K-1の主力ファイターたちが契約満了ということでK-1を離脱していますが、彼らが支えていた2010年代のK-1の勢いって、ものすごいものがありましたね。

サーバル そうですね。私はK-1というよりも、その基盤となった一時期までのKrushが面白くて。要は全日本キックが潰れたあと、最初はイベント名だったKrushが団体名となり。あの時期は宮田(充)さんが中心にやってましたね。

――元新生K-1プロデューサーで、現KNOCK OUTのプロデューサーの宮田さんですね。

サーバル 私的にはヒジなしのキックっていうことで、ナメていたとは言わないんですけど、ボクシングの亜流というか、「ぶんぶんパンチを振り回すキックはどうなの?」って思ってたんですけど。実際に選手もたくさん育ってきて、あの時期に後楽園ホールを毎回満員にしていたのはKrushだけだったんです。最終的には兜を脱ぐという言い方は変ですけど、新生K-1が始まるぐらいまでは、けっこうKrushファンだったんですよね。私の中でのKrushのピークは、山崎(秀晃)選手が木村“フィリップ”ミノルを迎えてのタイトルマッチです。あのときの後楽園の熱狂を含めて「これは普通のキック団体は勝てないな……」と思いました。そのあとKrushを基盤としてK-1が復活していく流れには、私なりにいろいろ考えることもあったんですけど……キックファンとして「Krushすごい!!」と諸手を挙げる時期は確実にありましたね。

――Krushが熱狂的な空間を生んだ理由として、どこが従来の立ち技と違ったんですか?

サーバル 先ほど言った2010年代半ばぐらいのKrushというのは、間違いなく“団体ファン”がいたんですよ。

――格闘技って選手個人のファンは多いけど、“団体ファン”は少ないんですよね。

サーバル はい。いわゆる昔の亀田兄弟フィーバーのときの亀ギャルなんかもいましたけど(笑)。Krushには“団体ファン”がいたんですね。他のキック団体と比べたときに、いわゆるヤンママというか、ギャル風のお母さんがすごくおしゃれをして子供を連れて応援に来たり。月に1回ぐらいのペースでみんな会場に来るわけなんで、いろんなところで顔見知りができて、声を掛け合ったりして。会話に耳を傾けると、いまはもうベテランになりましたけど、あの当時はまだ若かった大沢文也選手を「文也くん」って呼び、デビューしたての武居由樹を「由樹くん」と呼ぶ。他のキック団体は、その人の親御さんを含めた関係者がチケットを買って来てるだけだったんで。Krushの中に広がってるコミュニティーを見たときは、恐れをなすって言ったら変ですけど「これは他の団体、勝てないわ」と。

――RIZINクラスの万人興行だったら“団体ファン”がいないと成立しないんですが、後楽園クラスでその世界観はホントに勢いがあった証ですね。

サーバル みんなメインまで見て楽しむ。あの当時は年間シートは販売してなかったんですけど、そういう人たちが毎回のように会場に集ってたんです。あれはすごいなと思いました。その当時は武尊選手がどんどん上がってくる頃でKrushにいる選手はちょっとやんちゃでかわいいし、かっこ良かったんじゃないですかね。

――K-1 MAXが世間に受けた要素を受け継いだところがあったわけですね。

サーバル いま思えば、Krushの選手たちが育って、K-1につながる役者がそろった時期があったわけですね。

――当時はいまほどSNSが発達していたわけでもなく、ABEMAで配信があったわけでもないのに強力な磁場があったわけですよね。当時の日本ではメジャーイベントが不在の中、Krushが後楽園を中心に異常な熱を帯びて、そして新生K-1に昇華するとなれば、ファンとしては応援のしがいがあったんでしょうね。

サーバル そうですね。それはこのあと出てくる話かもしれないんですけど、RIZINがある時期から伸びてくることで、徐々にMMAなりRIZINのほうにみんなの視点が移った、というのが私の大まかな感想ではあるんですけど。

――RIZINも「メジャー復権」の物語ですもんね。それでいえば新日本プロレスの復権も、00年代に暗黒時代に堕ちて、テン年代にカムバックしていくストーリーに乗れたファンが多いと思うんです。他のキックには、団体自体を応援していくような流れは……。

サーバル そこがちょっとなかったんですよね。それはもう選手個人の応援団がチケットを買って見に行く世界。Krushには若いお母さんなり、ちびっ子なり、若い層なんかがKrushを応援するために集まってましたから。当時のRISEもそういう雰囲気ではなかったです。それは宮田さんの功績なのかなって。潰れた全日本キックにも、全日本キックという場が好きなファンがいたんですよ。もしかすると、全日本キックやKrush、新生K-1に宮田さんがいるのは、偶然じゃない可能性があるかなと。

――そこは宮田さんがプロレス団体からこの業界に入ったところがポイントかもしれないですね。場としての格闘技が自然とできる。

サーバル いまRISEの代表の伊藤隆さんが現役のときに、MAキックでジョン・ウェイン・パーという世界のトップ級と試合をしたんですけど。ホントにびっくりするくらい会場はガラガラだったんですよ。この試合だけじゃないですよ。一流タイ人を呼んでもお客は入らない。

――それは伊藤隆vsジョン・ウェイン・パーに魅力がないというより、キックという興行の構造的な問題だったんでしょうね。

サーバル ただ、そのとき全日本キックはヤングファイトから育ってきた3回戦、5回戦の日本人中心のマッチメークでも、ちゃんとお客は入ってるんですよね。こんなことを言うのは、当時のMAキックの関係者の方には申し訳ないですけど、全日本キックはしっかり団体を売り出すことを考えている。でも、MAキックはたくさん試合が並んでるだけで、応援団は来るけど目当ての試合が終われば帰る。メインに向けて乗ってかないって感じがありましたよね。

――そんなKrushが昇華するかたちで新生K-1となり、KrushはK-1の登竜門的イベントとしてリスタートするわけですけど。サーバルさんのテンションは下がってくっていうことですよね。

サーバル 下がりはしてないです(笑)。

――あ、失礼しました(笑)。

サーバル ただ難しいのは、これはあくまで個人的な感覚だと思うんですけど、新生K-1になった頃も15試合くらい組まれていたと思うんですけど。とはいえ、いまほど長さを感じなかったのはきら星のごとくスターがそろっていたからです。次から次へとスターが試合をしていた。それこそ武居由樹が前座のほうにいて、うしろには野杁正明や卜部兄弟なんかがいて、さらに武尊や木村ミノルが控えている。試合数の多さに納得感があったと思うんですね。

――メイン主義じゃなくて「オールスター興行」だったわけですよね。

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