【UFC激戦区バンタム級へ】中村倫也「修斗、レスリング、PRIDEがUFCに連れて行ってくれた」
――今日はまだどうして品川なんですか?
中村 このあとメンタルコーチングの方との食事会が品川であって……品川は今後の拠点になりそうなんです。いまは東大宮に住んでるんですけど。
――いまは実家のある東大宮から通ってるんですね。
中村 品川だと練習先のひとつのグレイジービーも近いですし。
――中村選手のメンタルトレーナー、めちゃくちゃ興味あります! 日本のMMAであんまり聞いたことないですね。
中村 あー、たしかにそうですね。聞いてるかぎりというか、あんまりいないですよね。
――そのへんはあとでたっぷり伺うとして、まずはUFCとの契約おめでとうございます!
中村 ありがとうございます!
――MMAデビューして1年9ヵ月ですが、中村選手は現在27歳。小さい頃からMMAが夢だった中村選手からすると、契約まで早かったですか?
中村 ……レスリングから転向して最短かなって感じですかね。でも、なんだろうな。早いといえば早いんですけどね。
――MMAファイターになるためにレスリングをやってきたわけですし、それに短期間だけど濃密というか。いろんなことがあったから大変だったってことですかね。
中村 いやあー、思っていたよりも心労はありますねぇ。やっぱりMMAは小さい頃からずっとやりたかったことではあるので。
――中村選手のお父さんは修斗のオーナーだった時期があり、そして日本の総合格闘技の震源地と言われるPUREBRED大宮(シューティングジム大宮)も経営されていて。中村選手は幼少の頃から国内外からやってくる格闘家と触れ合う機会が多かったですよね。
中村 MMAのイメージはずっとしてたんですけど、実際にやってみると予想よりも何倍もつらかったし。「俺がずっと憧れていた職業はこんなにしんどいのか……」って。でも、それは自分が思い詰めすぎていただけってことに途中で気づいて。1試合1試合、ここで負けたら、ずっと夢見てきてた少年時代のすべてが消え去る、今後の人生もダメになっちゃじゃないか……ぐらいの気持ちだったので。内側は1回ぶっ壊れましたねぇ。
――思いが強すぎたってことですね。
中村 「なりたい」って思いが自分で自分の首をし苦しめてたというか。
――デビュー以来、圧勝劇を続けてるんですけど、内面は本当に苦しかった。試合で追い込まれたのは(アリアンドロ・)カエタノ戦で出血したことくらいで。
中村 ああ、そうかもしれないですね。
――もしかしたら自分自身がいちばんの敵だったぐらいの……。
中村 本当にそうですね。契約できてよかったですよ……(しみじみと)。めっちゃ、ほっとしてますね。緊張の糸は1回切れちゃいましたね。もう入れ直しましたけど。ついさっきのことなんですけど、トレーナーの方にも「何、休んでんの?スタートラインに立ったばっかやろ」と(笑)。
――たしかにここからが真の戦いですもんね。
中村 契約できたことでリラックスして眠れるのかなと思ったら、ずっと浅くて。今日もパーソナルの体幹トレーニングを受けている夢を見てて(笑)。
――睡眠中もトレーニングですか(笑)。
中村 内側に新しい緊張感みたいなものが芽生えてるみたいですね。もう早く次の準備をしなきゃなって、心を入れ替えました。
――Road to UFC決勝戦の風間敏臣戦は理想の試合というか、戦略どおりという感じですか。
中村 まあ、結果的にはそうですね。起こりうるかなって予想したことが近いかたちで実現した感じですかね。風間選手は1試合1試合人生を懸けてやってくるタイプだと思ってて。前日計量が終わってフェイスオフで顔を見たとき、最初から意を決して来るなって感じました。不用意なジャブを出したら、それさえ掴んでくるだろうみたいな。
――早い勝負を仕掛けて来るんじゃないかと。
中村 すぐに組みに来るんだろうなと。2~3回切って、相手が困って崩れたところで仕留めに行くのか、その前に決まるのかっていうところでした。自分がいかに集中力を高くして、精度の高い打撃をスピード感の中で出せるかっていうのがテーマだったので。まさにそのような決着になったかなと。
――風間選手は最初から詰めてきましたもんね。
中村 そうですね。そこは自分がされていちばんイヤなことだったので、そのへんの準備はめちゃくちゃしてきましたね。そこはどう心構えしてるというか。
――頭の中で想像していても、実際に起きたときって心は乱れてもおかしくないですよね。
中村 そこは冷静でしたね。最初は外を取ろうとしても、たぶん風間選手は金網を詰めてくるから、内側を取って……という入りのプランもあったんですけど、それすらないような近づき方で。
――想像以上の詰め方。
中村 でも、そこで「うわっ!!」と驚かずに頭の中はリラックスしている感があって
――詰めてくる風間選手に対して左のハイキックの連打で応戦しましたね。あそこの対応がすごいなって。
中村 あそこは1回じゃなくて、2回出せたのがよかったと思います。ちょっと近寄りにくくなるというか、組みづらくなったと思うんで。結果論ですけど、1回だけだと間を置いて、もっと早い段階で組みに来たんじゃないかって。2回連続で出すことで「いつやってくるかわからない」って警戒する。自分もタックラーなのですごい気持ちがわかって。
――1回と2回では相手に与える心理的ダメージが違うわけですね。
中村 そこまで考えて出してたわけじゃないですけど、自然と準備してる中で出てたんで。それが結果よかったのかなと思いますね。
――あの間合いとスピード感の中でよくあそこまでスムーズに出せるなと思って。
中村 たしかに(笑)。詰められながらですからね。
――バランスを崩してもおかしくないから、そこはオリンピッククラスのレスラーなんだなってその身体能力を再認識しました!
中村 そのへんの身体の作り方とか、どんな体勢でも綺麗に倒せる打撃を出せる身体を作ろうと。そこに注力してきた玉物なのかなと思いますね。やっぱり深掘れば深掘るほど、どの世界もきりがないというか。「あ、こんな次元もあるんだ」と。Road to UFCの準決勝が終わってから今回の決勝のあいだまで、さらに深い次元に連れてってくれる方と出会えて。そこにうまくアジャストしていけたなと思います。
――そのあとは打撃戦の中でフラッシュダウンを奪いました。
中村 右で倒せたことが大きいですね。風間選手は左、奥手を意識してる感覚はあって、「奥手に気をつけろ」という声もちらっと聞こえたのかな。相手が奥を意識する中で、前手でダウンを取った。あそこで絶対に崩れたと思うんですよ。ボクはいままで右の打撃で倒したことはなかったんで、風間選手は「右もあるんだ」と。心の隙の立て直しを図れる前に崩せるか。注意を払いながら、打撃を交わしてる中で、風間選手はちょっと力が入ってないなって。あとボクはリラックスできていたから、パンチをもらっても、そこまで脳は振動しないというか。いまだったら、よく見て斬り合えば上回れるという自信があって……それで1回行き過ぎたっすね(苦笑)。
――ハハハハハ。相手に力が入ってないからカウンターをもらってもなんとかなる。そこは勝負を懸けたんですね。
中村 そうですね。そのへんの勘にはめちゃめちゃ自信あるんで。この試合のポイントはハイキックとあの右のパンチ、あそこですね。
――秒殺決着でしたけど深いですねぇ。
中村 30秒の中でもいろいろありますよね、駆け引きみたいなものが。
――そこまで考えてることも驚きです。
中村 考えてないと思ってもらったほうがいいですけど(笑)。ひとまず国内争いは抜けられたとは思うし、自分の中の企業秘密みたいなものは話してもいいのかなって。レスリング時代にいっぱいケガして、いっぱい考えるクセがついたことが活きているのは間違いないですね。
――風間選手もUFCと契約できるそうですね。
中村 風間選手は肉体を限界まで追い込むという意味ではボクより頑張ってきた選手だなと思っています。だからこそ、ああいう戦い方になったと思うし。日本人として力を合わせていきたいなって。
――今回のUFCは日本人が4名出場したことで、日本の格闘技の底力を見せるような大会でしたもんね。
中村 日本人が熱いっていうところをとにかく見せたかったんですよね。みんなが勝ち続ければUFCの日本大会も夢じゃないですし。
・UFCバンタム級は60人超の最難関
・美憂先生、聖子先生、KIDさんのレスリング教室
・アーセンは強い
・レスリングはMMAのため
・大晦日PRIDEのテーマは泣いた……1万字インタビューの続きはこのあとつづく!
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