【学参の名著1】中谷臣『センター世界史B 各駅停車』

 茂木誠『経済は世界史から学べ!』とか、出口治明『仕事に効く教養としての「世界史」』とか、ここ最近、ビジネスマン向けの世界史教養本がヒットしている。それに乗っかって、今回は世界史学参の隠れた名著を紹介しよう。

 ご登場願うのは、中谷臣氏の『センター世界史B 各駅停車』。この本の最大の特徴は、各国史の構成を取っている点にある。世界史通史モノの学参は、古代→中世→近世→近代→現代と、時代区分ごとに構成しているものが多い(教科書がそうだから)。でも本書は、あえて次のような章構成を取っている。

1:先史時代
2:中国史
3:朝鮮・日本・琉球史
4:インド史
5:東南アジア史
6:西アジア史
7:アフリカ史
8:ギリシア史
9:ローマ史
10:中世西欧とビサンツ
11:近世西欧
12:近代西欧
13:西欧現代史
14:東欧史
15:アメリカ大陸史

 じつはこの構成は、上原専禄の『日本国民の世界史』(岩波書店・1960年)を下敷きにしているように思うが、それはおいておこう。
 たしかに、世界史の教科書って、時代ごとに扱う地域が行ったり来たりしていて、地域の連続性が追いにくい。ほとんどの学参がそうした教科書的な構成を踏襲しているなか、上記のような各国史を構成の軸にしているところは大いに評価できるし、実際そのほうが初学者にとっては読みやすいのだ。書名の「各駅停車」も、各国の歴史を一つずつ学んでいくところにちなんでいる。
 解説がこれまた絶品で、ところどころで披露される豆知識も面白い。たとえば「ハプスブルク家のひとたちの特徴は面長の顔、というより異常に顎が突きでた顔をもっていたことで、歯と歯がうまくかみ合わないので、上手く物をかむことができなかったり、しゃべることができませんでした」なんていうチャーミングな記述もある。
 扱う用語や事象もセンター試験に照準を合わせているため、難関私大で出題されるような瑣末な用語はカットされ、その分、歴史の流れを重視した説明になっているのもいい。
 地図も豊富で、自筆の人物イラストもいい具合のアクセントになっている。読みにくい山川の教科書よりも、だんぜんこちらのほうが挫折率は低いはずだ。


 著者の中谷氏は、駿台で講師をするかたわら、「受験生のための世界史教室」というサイトも運営している。このサイトでは、多くの参考書や問題集をメッタ斬りにしている「参考書批評」がおもしろい。世界史に対する著者の強烈な自負をうかがい知ることができる。

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