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M&A仲介手数料ってなに?企業買収/売却に係る手数料のカラクリをご説明 -河野大臣の利益相反発言を検証する-

こんにちは!
T&Aフィナンシャルマネジメント代表のさいとうです。

菅政権の中でも異彩を放つ河野大臣の年明けの発言でM&A業界がザワついています。

中堅中小企業M&Aの推進の立役者ともいえる「M&A仲介業者」が収受する、いわゆる「両手」の手数料は利益相反なのではないか?
というものです。

この「両手」の手数料体系と、「両手」ではない手数料体系についてご説明するとともに、なぜ「両手」が利益相反といわれてしまうのか?という点についてご説明してみたいと思います。

伝統的なM&Aアドバイザリー業務における手数料体系

M&Aは企業買収のことですから、当然、売り手と買い手が存在します。

個人にとって自宅購入が一世一代の一大イベントであるのと同じように、(最近は年に複数件のM&Aを実行する企業も存在しますが)企業にとってもM&Aというものはそんなに多く経験するものではないことが一般的です。

また、最近多い、事業承継に絡むようなM&A案件の場合、売り手となる中小企業オーナーにとっては、まさに一世一代の一大イベントとなります。

そんな一般的には稀なM&Aというアクションですが、社内にM&Aに精通している人材がいればその方が取り仕切ればよいのですが、なかなかそのような人材は存在しないのが一般的です。

そんなときに登場するのが、M&A助言業務を行う投資銀行と呼ばれる金融機関や、M&Aアドバイザーを名乗るコンサルティング会社となるわけですが、彼らアドバイザーは一般的に売り手、もしくは買い手に雇われ、相手側の交渉の窓口になってクライアントにとって好条件で案件を進められるようにアレンジしてゆくことを業務としています。

最近でこそM&Aは日本においても一般的となり、メディアで取り上げられるのが普通となってきましたが、以前(2000年以前)はM&Aというと「乗っ取り」と揶揄されるような、世間にとっても一大イベントとなることが多かったのが事実です。

彼らアドバイザーは一般的に案件サイズに応じて手数料をクライアントから収受することとなります。
よく使われるのは「レーマン方式」と呼ばれる方式で、案件金額に一定の割合を掛けた金額を手数料として収受するもので、数百億円や数千億円というような大規模案件においては、アドバイザーが収受する手数料も莫大となり、投資銀行(インベストメントバンク)に勤務する人々は垂涎の眼差しで見られることが多かったのも頷けます。

事業承継型M&Aで、M&Aが一般的になった

ただ、2000年以降、M&Aが一変します。

日本においては少子高齢化や団塊の世代の大量リタイアといった、戦後世代からの転換を前に、「事業承継」という文脈がクローズアップされるようになります。

上場企業における大規模な事業承継も存在しますが、事業承継というと一般的に非上場の中堅中小企業が中心となり、事業承継を考えるオーナー社長にとって、M&Aにより第三者に経営権を譲渡するといった手法が一般的になりました。

それらを推進したのが、

私自身も経験がありますが、M&Aは規模の大小により多少の実施事項の違いはあるかもしれませんが、基本的なプロセスは同じです。

先に書いたような数百億円にもなる案件であれば多額の手数料を収受することができますが、例えば案件規模が数億円や数千万円といった中小規模M&Aにおいては収受できる手数料はよくて数千万円、少ないものだと数十万円~数百万円程度となってしまい、なかなか懇切丁寧にじっくりと案件に向き合うこと自体が困難になってしまいました。

そこで、上記のような専門事業者は、M&Aを一定のパッケージにするとともに、売り手もしくは買い手からの「片手」の手数料ではなく、双方から「両手」で手数料を収受することで、案件の簡略化と、手数料収入の増大を図るようになりました。

結果、事業承継文脈のM&Aは加速し、現在においては年間で数多くのM&Aが成就し、後継者難などにより事業承継が阻害されていたような中小企業に大きな貢献をしているというポジティブな側面があるのも事実です。

本質的に「両手」の手数料収受は利益相反?

中小規模M&A案件の事業者の存在により、間違いなくM&A市場は活性化し、彼らが大きな貢献をしてきたことは間違いありません。

ただ、手数料体系が「両手」であることについてはやはり大きな疑問を残します。

すなわち、1円でも高く売りたい「売り手」と、1円でも安く買いたい「買い手」の「仲介」を、どちらに肩入れもせずに中立的に行うのは難しいのではないかということです。

一般的に売り手は自分の会社を売ってしまえばそれで終わりかもしれませんが、買い手は事業として存続するわけですから継続的にM&A事業者のクライアントとなることが想定されます。

また、売り手は一世一代の大仕事であることから、M&Aの経験は最初で最後となることが多いかと思いますが、買い手は複数回M&Aをこなしてきていることも多く、「こ慣れて」います。

そう考えると、どうしても中立的な仲介というスタンスを維持することは難しいと考えられ、利益相反と言われてしまっても仕方ないとも思えます。

今後の中小M&Aの行方は?

中小規模M&A仲介事業者は先に書いたように事業承継M&Aの活性化という大きな貢献があり、今後さらに深刻化する後継者不在による廃業等の回避の手段の一つとして不可欠だと思います。

一方で、やはり同一の会社が売り手と買い手のアドバイザーを務めるということ自体、問題もありそうです。

そう考えると、例えば同じ仲介事業者内で売り手担当と買い手担当を明確に分け、両者にファイアーウォールを敷く方法や、少額の手数料で苦しいかもしれませんが、やはりM&Aにおいては1社のアドバイザーは売り手か買い手のどちらかにしかつかない、といった慣行を徹底する必要があるかもしれません。

正直、売り手、買い手双方がこのような方式に同意して仲介事業者経由でM&Aを行っているので、行政がどうこう言うのはおかしい気もしますが、健全なM&A市場の構築のためには何らかの「工夫」が必要なのかもしれませんね。

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