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"アンケート結果の恣意的利用?" 「表現の不自由展・その後」の問題点② ~あいちトリエンナーレ~

「『表現の不自由展・その後』に関する調査報告書」に関して、問題点や疑問に思った事等を述べたいと思います。
愛知県が組織したあいちトリエンナーレあり方検討委員会が作成している所為か、やけに「表現の不自由展・その後」を擁護しようとし、無理が出ている様に思われます。

なお、出典は基本的に「『表現の不自由展・その後』に関する調査報告書」に依り、同報告書から引用する際は「(報告書p〇)」と表記します。

あいちトリエンナーレのあり方検討委員会とは…
あいちトリエンナーレについて、県及び実行委員会等の関係団体における企画、準備、実行の体制、公金を使った芸術作品の展示、芸術活動への支援、開催時の危機管理体制、対外コミュニケーション等のあり方を、客観的・専門的見地から総合的に検証するとともに、今後の類似イベントの充実・改善に向けた意見を聴取し、あいちトリエンナーレ及び今後の類似イベントの開催に関する改善策をとりまとめ、その結果を知事に提言するために設置されたものです。(愛知県HPより)

全体所見2.に関して(2) ~アンケート結果利用先の謎~

**前回を踏まえた内容がありますので、宜しければ先にそちらをご一読いただけますと幸いです。

前回「表現の不自由展・その後」の問題点① で全体所見2.に関して、
一見、統計調査のような資料を用いて、

「表現の不自由展・その後」を再開したことに対しては、おおむね理解が得られていたと言える。(報告書p4)

という結論を導出していた報告書に対し、誠実とは言いかねる姿勢かと思うと述べましたが、
今回は全体所見2.に記載されていない部分を見ていきたいと思います。

来場者・非来場者に対するアンケートは、一体何のために実施されたのか?
ということです。

上記の通り、「表現の不自由展・その後」の再開決定に対する無理やりな肯定のためであったことは理解できるとしても、

それ以外の設問に何の意味があったのか? 何に使用されたのか? が理解できません。
報告書 別冊資料7 p34~95 を見ると、大別して2種、全部で5つものアンケートが実施されていたことが分かります。

<一般向け>
 〇来場者アンケート
 〇あいちトリエンナーレ2019に関する広聴**
 〇インターネットリサーチ**

 **全体所見2.で結果の一部が使用されたアンケート

<アーティスト向け>
 〇国内アーティストアンケート
 〇海外アーティストアンケート

来場者アンケートに関しては、「表現の不自由展・その後」に係る設問も無く
「あいちトリエンナーレ参加回数」「来場動機」「印象的な作品等」「今後のあいちトリエンナーレに期待すること」
を問うものですので、あいちトリエンナーレ全体に関する意見を今後に活かすためのものであろうと推察されます。
前回、前々回(あいちトリエンナーレ2016、2013)も内容は異なりますが来場者アンケート実施がされていました(詳細後述)。

さて、問題は残り4つのアンケートです。これらには共通点があります。

・実施時期が同じ(9/10~10/7)**
・「表現の不自由展・その後」に係る設問が大半を占め、設問がほぼ同じ

**インターネットリサーチだけは 9/13~9/16と実施時期が異なります。これは恐らく調査を外部委託したことに加え、前回述べましたが、モニタ会員対象の調査であるため必要回答数がすぐに集まったことが原因ではないかと思われます。

実施時期が同じで、「表現の不自由展・その後」に係る設問が大半を占め、その設問はほぼ同じであることからも、
主に「表現の不自由展・その後」の是非を問う目的のアンケートであっただろうと推測されます。

実際、そのうちの2つ(広聴とインターネットリサーチ)は、結果の一部
全体所見2.の「表現の不自由展・その後」再開に対する肯定意見の根拠として取り上げられています(前回述べましたが、個人的に肯定の根拠としては大変弱いとは思いますが…)。

残りはどうなったのでしょうか? 肯定意見として役に立たないから捨象されたのでしょうか?
そんな筈はありません。「表現の不自由展・その後」の為に行ったアンケートの結果は、「表現の不自由展・その後」の調査報告書でこそ活かさなくては、アンケートを実施した意味も、集計した意味もありません

たとえ統計的には無意味と思われるアンケート結果であろうと、その一部を肯定意見として根拠にした以上、他の結果も同じレベルで扱われなくてはなりません。
肯定意見だけが欲しかった、他は不要、というアンケート結果の恣意的利用などということは断じてあってはならないのです。

"「表現の不自由展・その後」に関する調査報告書" の検証が誠実且つ妥当であったということを確認するため、早速、順に見ていきたいと思います。

(2)-1. 広聴及びインターネットリサーチ結果1

〇設問Ⅰ: あいちトリエンナーレ2019全体についての印象(=来場者評価)

広聴及びインターネットリサーチでは、あいちトリエンナーレ2019全体についての来場者の印象(評価)も調査しています。
しかし、この項目は前回、前々回(あいちトリエンナーレ2016、2013)は来場者アンケートで調査されていました**。
あいちトリエンナーレ全体に対する来場者の印象(評価)を調査するのですから、来場者アンケートで調査を行うことはある意味当然でしょう。

**厳密には、あいちトリエンナーレ2013、2016の結果概要にアンケートの調査項目は記載されていません。
但し、
①来場者アンケートが実施されており、それにより参加者の属性を集計していることが明記されている。
②上記属性集計の続きに、別のアンケート結果であるという明示無しに、「来場理由」、「来場者の反応(評価)」が記載されている。
③来場者の属性を集計している来場者アンケートの回答数と、「来場理由」、「来場者の反応」の回答数がほぼ同じ(項目により多少の誤差あり)。
 開催年   属性集計回答数   来場理由/反応回答数
 2013年    3,424人      3,428人/3,404人
 2016年    3,173人      3,198人/3,034人
④来場者アンケートで属性の調査だけを行い、それとほぼ同じ回答数になるように来場理由や反応(評価)を、態々別のアンケートを使用して確認する合理的理由があるとは考えにくい
⑤上記①~⑤より、あいちトリエンナーレ2013、2016では来場者アンケートで「来場理由」と「来場者の反応(評価)」の確認を行っていた可能性が非常に高い
※なお、あいちトリエンナーレ2010の結果概要は愛知県HPから発見することができませんでしたが、当時の知事の発言(平成22年11月1日)から、2013、2016年とほぼ同じような設問であったことがわかります。

そして、前述したとおり、来場者アンケート以外の4種のアンケートは、実施時期、設問内容からして、「表現の不自由展・その後」に係る問題発生後に、その再開の是非等も含めて確認するためのアンケートであると思われますから、「表現の不自由展・その後」の問題が発生しなければ行われていなかったであろうと推察されます。

傍証的ですが、広聴は来場者・非来場者を対象にしているため、来場者限定の質問することは効率が非常に悪く**、本気で来場者の印象(評価)を確認するつもりがあったとは言い難いと思われます。

**実際、広聴回答者のうち、来場者は16.8%と大変低い割合になっています。

換言すると、何故かあいちトリエンナーレ2019だけ、「来場者に対して、トリエンナーレの評価を確認する」という、これまでずっと行ってきた行為を行うつもりがなかったのです。
あいちトリエンナーレ2019には、過去3回のあいちトリエンナーレと異なる点があり、それが来場者アンケートから来場者の印象(評価)の設問を消すという事態に発展したということでしょうか?

従来との違いと言えば…
警察からも事前に指摘を受け、予期できていた安全上、又、その他の懸念があったにも関わらず、十分な対策を行わず、
そのことを文化庁に報告もせず(結果的に補助金のうち、関係事業費が約1200万円も減額になり)、
また出品作品について住民理解を得るための記者会見を予定していたにも関わらず、敢えて記者会見を行わずに住民理解を得ようともしないまま実施し、
案の定問題化すると、鑑賞者や批判者に責任を転嫁し、また表現の自由や検閲といった該当しない表現で正当化を行い、
しかも公施設である愛知県美術館に「検閲」の汚名まで着せ、世界中から批判を受けることとなった
という「表現の不自由展・その後」がありましたね

「表現の不自由展・その後」による問題が事前に予期されていたことと、来場者アンケートの印象(評価)項目が2019年だけ抹消されたこととの間には、少なからず関係がありそうに思われます。

何しろ、従来(あいちトリエンナーレ2013、2016)の結果概要に於いて、来場者アンケートの結果は資料として常に同じ形式で発表されているため、
仮にあいちトリエンナーレ2019の来場者アンケートに評価の項目が入っていると、同じ形式で公表せざるを得なくなりますので、従来と評価がどのように変化したかを白日の下に晒さざるを得なくなります。

そして、あいちトリエンナーレ2019だけ評価が低いかもしれないという懸念は当たっていた可能性が比較的高いと思われます。
過去2回の来場者アンケートに於ける評価と、2019年の広聴及びインターネットリサーチに於ける評価を比較してみましょう。

過去2回のマイナス評価(良くなかった)は 2.3%、1.8%(平均 2%)に対し、
2019年のマイナス評価(悪い、とても悪い)は 34.2%、13% です。仮に広聴とインターネットリサーチを平均しても、平均 23.6% と過去2回の平均を10倍以上上回ります。

報告書で「表現の不自由展・その後」の再開に関し、『おおむね理解が得られていたと言える』という結論を導出していたのと同様の理屈で、

『あいちトリエンナーレ2019は、多くの悪い評価を得ていたと言える』

と結論できそうですね。

**
~あいちトリエンナーレ2019に関する広聴~(9/10~10/7)
来場者回答数:211人
  〇とても良い    :19.9%(42人)
  〇良い       :31.8%(67人)
  〇どちらとも言えない:10.0%(21人)
  〇悪い       :  8.1%(17人)
  〇とても悪い    :26.1%(55人)

~インターネットリサーチ~(9/13~9/16)
来場者回答数:54人
  〇とても良い    :25.9%(14人)
  〇良い       :50.0%(27人)
  〇どちらとも言えない:11.1%(  6人)
  〇悪い       :  5.6%(  3人)
  〇とても悪い    :  7.4%(  4人)


あいちトリエンナーレ2016 来場者アンケート結果
回答数:3,034人
  〇大変良かった   :24.2%
  〇良かった     :56.2%
  〇普通       :17.3%
  〇良くなかった   :  2.3%

あいちトリエンナーレ2013 来場者アンケート結果
回答数:3,404人
  〇大変良かった   :27.3%
  〇良かった     :57.5%
  〇普通       :13.4%
  〇良くなかった   :  1.8%

来場者の悪評価が何によるものかについては推測するしかないのですが、
主な意見として紹介されているものが、
「表現の不自由展・その後」の展示作品、キュレーション、運営体制等についての不満意見が数多く見られることから、「表現の不自由展・その後」の影響は決して少なくないように思われます。

全体所見1.で、『その影響は部分的なものに止まったと言える』と結論されていますが、来場者の悪評価が最大19倍、最低でも約6倍になったという事実を『部分的影響』と呼ぶことが果たして妥当なのか、甚だ疑問です。

「表現の不自由展・その後」及びその後の対応が、あいちトリエンナーレ2019全体の評価に少なからず悪影響を与えていることを示しているかのような調査結果ですが、何故か調査報告書には採用されていないですね。

因みに、広聴及びインターネットリサーチが統計的には意味がないと思われるデータであることは承知の上です(前回述べております)。
ですが、その結果を用いて、

「表現の不自由展・その後」を再開したことに対しては、おおむね理解が得られていたと言える。(報告書p4)

と結論しているのですから、同様に

「表現の不自由展・その後」及びその問題への対応は、あいちトリエンナーレ2019全体の評価に悪影響を与えたと言える。

と結論されなかった理由は一体何なのでしょうか?

今回の結論(アンケート設問Ⅰの考察)

今回、アンケートの設問Ⅰの結果分析で判明した様に、

〇あいちトリエンナーレ2019は、多くの悪い評価を得ていたと言える。

〇「表現の不自由展・その後」及びその問題への対応は、あいちトリエンナーレ2019全体の評価に悪影響を与えたと言える。

という結論が、何故か採用されていなかったことがわかりました。

これではまるで
"来場者アンケート以外の調査は肯定的結果が得られた部分だけを抽出し、「表現の不自由展・その後」を正当化するためだけに実施された"
と思われかねない恐れがあります。

広聴の設問Ⅰへの疑問が既に
"「表現の不自由展・その後」に関する調査報告書" の検証が誠実且つ妥当であった
という前提を揺るがしつつあるような気がしますが、気を取り直して次回以降、他の項目についても述べさせていただきたいと思います。


長くなりますので、(時間のある時に)徐々に③、④と続きの記事を作っていきたいと思います。
事実誤認、誤り、不足等ございましたら、ご指摘賜りましたら追加、修正させていただきたく思います。