見出し画像

"トリエンナーレ全体の評価を下げていた!?" 「表現の不自由展・その後」の問題点③ ~あいちトリエンナーレ~

「『表現の不自由展・その後』に関する調査報告書」に関して、問題点や疑問に思った事等を述べたいと思います。
愛知県が組織したあいちトリエンナーレあり方検討委員会が作成している所為か、やけに「表現の不自由展・その後」を擁護しようとし、無理が出ている様に思われます。

なお、出典は基本的に「『表現の不自由展・その後』に関する調査報告書」に依り、同報告書から引用する際は「(報告書p〇)」と表記します。

あいちトリエンナーレのあり方検討委員会とは…
あいちトリエンナーレについて、県及び実行委員会等の関係団体における企画、準備、実行の体制、公金を使った芸術作品の展示、芸術活動への支援、開催時の危機管理体制、対外コミュニケーション等のあり方を、客観的・専門的見地から総合的に検証するとともに、今後の類似イベントの充実・改善に向けた意見を聴取し、あいちトリエンナーレ及び今後の類似イベントの開催に関する改善策をとりまとめ、その結果を知事に提言するために設置されたものです。(愛知県HPより)


全体所見2.に関して(3) ~アンケート結果の恣意的利用~

**前回を踏まえた内容がありますので、宜しければ先にそちらをご一読いただけますと幸いです。

前回から、"「表現の不自由展・その後」に関する調査報告書" の検証が誠実且つ妥当であったかどうかの確認として、
「表現の不自由展・その後」に係る問題についての4つのアンケート結果が、「表現の不自由展・その後」について肯定的結論を導出するために恣意的に利用されているのではないかという検証を行っています。

アンケート結果を誠実に反映するならば、どのような結論が導出されるかという視点から検証を行った結果、アンケートの設問Ⅰの段階で既に

〇あいちトリエンナーレ2019は、多くの悪い評価を得ていたと言える。

〇「表現の不自由展・その後」及びその問題への対応は、あいちトリエンナーレ2019全体の評価に悪影響を与えたと言える。

 という結論が導出されてしまい、
"来場者アンケート以外の調査は肯定的結果が得られた部分だけを抽出し、「表現の不自由展・その後」を正当化するためだけに実施された"
のではないか、という報告書の"アンケート結果の恣意的利用" が疑われる事態となってしまいました。
しかし引き続き、報告書 別冊資料7 p34~95 を根拠に検証を行いたいと思います。

(2)-1. 広聴及びインターネットリサーチ結果2

〇設問Ⅱ: 「表現の不自由展・その後」の感想

設問Ⅱでは、「表現の不自由展・その後」を見た人に対して、その感想を5段階評価で質問しています(当然見ていない人は回答対象ではありません)。

**
~あいちトリエンナーレ2019に関する広聴~(9/10~10/7)
回答数(不自由展・その後を見た人):95人
 ※来場者回答数:211人
  〇とても良い    :17.9%(17人)
  〇良い       :13.7%(13人)
  〇どちらとも言えない:  6.3%(  6人)
  〇悪い       :  4.2%(  4人)
  〇とても悪い    :51.6%(49人)

~インターネットリサーチ~(9/13~9/16)
回答数(不自由展・その後を見た人):32人
 ※来場者回答数:54人
  〇とても良い    :21.9%(  7人)
  〇良い       :43.8%(14人)
  〇どちらとも言えない:  9.4%( 3人)
  〇悪い       :12.5%( 4人)
  〇とても悪い    :12.5%( 4人)

…「表現の不自由展・その後」を見た人の感想は「悪い」が多いと言わざるを得ないかと思います。
インターネットリサーチで25%、広聴に至っては55.8%と「表現の不自由展・その後」を見た人の実に半数以上の人が感想を「悪い」と回答しているのです。

「表現の不自由展・その後」はあいちトリエンナーレの一部でしかありませんが、見た人の約25~60%もの人が悪評価をつけるというのは大変な異常事態です。
前回、前々回(あいちトリエンナーレ2016、2013)の悪評価の割合が約2%だったことから考えても、どれだけ尋常ではない事態であるかがわかります。

前回の内容とも重複しますが、
あいちトリエンナーレ2016、2013に於ける来場者のトリエンナーレ全体への評価では、悪評価(良くなかった)は、大変低い割合(約2%)でした。

一方、あいちトリエンナーレ2019だけは、悪評価の割合が大変高い(34.2%、13%)のです。
当然、何の理由も無く悪評価が激増したとは思えませんから、「相応の理由」があると考えられます。


「相応の理由」…それは、

「表現の不自由展・その後」を見た人達の、これまででは考えられない程に大変高い割合の「悪い」という感想がほぼそのままあいちトリエンナーレ全体の悪評価に繋がっている

からではないか、と推測されます。


これは、人間には、
対象を評価する際に、対象の一部に抱いた強い悪印象がなかなか解消されず、全体に対してまでも悪印象を抱く性質(「ハロー効果」、所謂「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」的な現象)があるという性質があることからも説明できます。

そして、それに加えて、アンケート結果を分析すると、大変興味深い事実が浮かび上がってきます。
それは、
来場者全体に対するあいちトリエンナーレ2019への悪評価の割合(人数)と、「表現の不自由展・その後」を見て「悪い」と回答した人の割合(人数)が大変近似している
という事実です。

つまり
①あいちトリエンナーレ2019は、全体の評価がこれまでになかった程に悪かったこと
②「表現の不自由展・その後」が、見た人の約25~60%もの人が悪評価をつけるほどの異常事態であったこと
③人間は、一部の強い印象に全体の印象が影響を受ける性向(ハロー効果)があること
④来場者全体に対するあいちトリエンナーレ2019への悪評価の割合(人数)と、「表現の不自由展・その後」を見て「悪い」と回答した人の割合(人数)が大変近似**していること

**平均的評価の良かった従来のトリエンナーレでも約2%の人は悪評価をつけたことからも分かるように、「表現の不自由展・その後」に悪評価をつけた人以外は、トリエンナーレ全体に絶対に悪評価をつけないということはありませんので、
「表現の不自由展・その後」に悪評価をつけた人とトリエンナーレ全体に悪評価をつけた人とが完全に一致することは、まずあり得えません。

上記4点より、
「表現の不自由展・その後」を見た人達の大変多い悪評価が、ほぼそのままあいちトリエンナーレ全体の悪評価に繋がっている
ということに蓋然性があると思われます。

**
~あいちトリエンナーレ2019に関する広聴~(9/10~10/7)
〇来場回答数計:211人
  うち、不自由展・その後を見た人   :  95人(45%)
  うち、不自由展・その後を見ていない人:116人(55%)(=211人-95人)
〇不自由展・その後を見た人の悪評価
 悪評価(悪い・とても悪い)合計:53人(55.8%)
〇来場者全体に対する、不自由展・その後を見て悪評価をつけた人の割合(人数)
 45%×55.8%=25.1%
 (211人×25.1%=53人)
〇実際にトリエンナーレに悪評価をつけた来場者の割合(人数)
 34.2%(=8.1%+26.1%)
 (211人×34.2%=72人)
〇不自由展・その後を見て悪評価をつけた人とトリエンナーレに悪評価をつけた人の比較
 不自由展悪評価:25.1%(53人) < トリエン悪評価:34.2%(72人)
 (不自由展悪評価:25.1%(53人)  トリエン「とても悪い」:26.1%(55人))
 ※不自由展・その後を見て悪評価をつけた人と、トリエンナーレに「とても悪い」と評価をつけた人の割合(人数)が大変近似している点は注目に値します
 差の9.1ポイント(=34.2%-25.1%)分(19人)は、不自由展・その後を見ていないが悪評価をつけたと推測されます。

~インターネットリサーチ~(9/13~9/16)
〇来場回答数計:54人
  うち、不自由展・その後を見た人   :32人(59.3%)
  うち、不自由展・その後を見ていない人:22人(40.7%)(=54人-32人)
〇不自由展・その後を見た人の悪評価
 悪評価(悪い・とても悪い)合計:8人(25%)
〇来場者全体に対する、不自由展・その後を見て悪評価をつけた人の割合(人数)
 59.3%×25%=14.8%
 (54人×14.8%=8人)
〇実際にトリエンナーレに悪評価をつけた来場者の割合(人数)
 13%(=5.6%+7.4%)
 (54人×13%=7人)
〇不自由展・その後を見て悪評価をつけた人とトリエンナーレに悪評価をつけた人の比較
 不自由展悪評価:14.8%(8人)  トリエン悪評価:13%(7人)
 ※不自由展・その後を見て悪評価をつけた人と、トリエンナーレに悪評価(「悪い」「とても悪い」)をつけた人の割合(人数)が大変近似している点は注目に値します 
 差の1.8ポイント(=14.8%-13%)分(1人)は、不自由展・その後を見たが悪評価以外をつけたと推測されます。


今回の結論(アンケートの設問Ⅰ及びⅡの考察)

さて、内容が重複しますが、前回、アンケートの設問Ⅰの結果を考察した段階で既に
1.あいちトリエンナーレ2019は、多くの悪い評価を得ていたと言える。
2.「表現の不自由展・その後」及びその問題への対応は、あいちトリエンナーレ2019全体の評価に悪影響を与えたと言える。

という結論が導出されていました。


今回、設問Ⅱの結果と併せて検討することで、

〇「表現の不自由展・その後」は、その悪評価が直接あいちトリエンナーレ全体の悪評価に繋がってしまったと言える。
そのため、あいちトリエンナーレ2019の評価は、あいちトリエンナーレ2016、2013と比べ、突出して悪い結果となったと言える。


という結論が導出されることとなりました。前回の結論1.及び2.が今回の検証で結合され、悪評価の関係がより明確になりましたね。

さて、アンケートの設問Ⅰ及びⅡから上記結論が導かれるはずなのですが、報告書には一切記載がありません
全体所見としてアンケート結果を根拠に述べられているのは、全体所見2.のみです。

<全体所見1.>
「表現の不自由展・その後」については途中、中止する事態になり、またそのことで海外アーティスト等が作品展示を中止する等の事態にも発展したが、最終的にはその影響は部分的なものに止まったと言える。(報告書p3)

<全体所見2.>
このように、アンケートの多くのケースでは再開を望む声が中止を上回っており、また、中止が上回ったケースにおいてもその差はわずかであり、いったん中止した「表現の不自由展・その後」を再開したことに対しては、おおむね理解が得られていたと言える。(報告書p4)

アンケート結果から全体所見2.が導出されるのであれば、同じアンケートの設問Ⅰ及びⅡから導出される

「表現の不自由展・その後」は、その悪評価が直接あいちトリエンナーレ全体の悪評価に繋がってしまったと言える。
そのため、あいちトリエンナーレ2019の評価は、あいちトリエンナーレ2016、2013と比べ、突出して悪い結果となったと言える。


記載されてしかるべきでしょう。


むしろ、
〇全体所見1.の "影響は部分的なものに止まったと言える" という結論は
「表現の不自由展・その後」の悪評価が、あいちトリエンナーレ2019全体の評価を例年に比して著しく下げることとなった
というアンケート結果の分析と矛盾します
(その上、「表現の不自由展・その後」の規模が全体に比して著しく小さいという問題もあります(問題点① 「全体所見1.に関して」を参照ください))。

〇全体所見2.の「表現の不自由展・その後」の再開については、アンケート結果の分析から、"おおむね理解が得られていたと言える" かもしれませんが、
そもそも「表現の不自由展・その後」自体が良い評価を得られおらず、あいちトリエンナーレ2019の評価を下げている以上、
何の意味もない結論に過ぎないのではないでしょうか。

アンケート結果を「表現の不自由展・その後」の再開に係る肯定的根拠としていながら、言及されていない他の設問の結果を分析すると、
全体所見1.及び2.が矛盾、又は無意味化してしまう
ことになってしまいます。

よって
"来場者アンケート以外の調査は肯定的結果が得られた部分だけを抽出し、「表現の不自由展・その後」を正当化するためだけに実施された"
つまり、
報告書に於いては"アンケート結果が恣意的に利用"されていると結論することができるかと思います。

残念ながらここでもまた、「『表現の不自由展・その後』に関する調査報告書」の誠実さに疑義を抱かざるを得ない結果となってしまいました。


アンケート結果に関しては、「表現の不自由展・その後」を肯定するために恣意的に利用された、ということが明らかになりましたので、以降の設問の分析に関しては省略するか、軽く流す形にしたいと思います。

また時間のある時に、続きの記事を作っていきたいと思います。
事実誤認、誤り、不足等ございましたら、ご指摘くださいませ。追加、修正させていただきたく思います。