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"無理やり正当化?" 「表現の不自由展・その後」の問題点① ~あいちトリエンナーレ~

「『表現の不自由展・その後』に関する調査報告書」に関して、問題点や疑問に思った事等を述べたいと思います。
愛知県が組織したあいちトリエンナーレあり方検討委員会が作成している所為か、やけに「表現の不自由展・その後」を擁護しようとし、無理が出ている様に思われます。

なお、出典は基本的に「『表現の不自由展・その後』に関する調査報告書」に依り、同報告書から引用する際は「(報告書p〇)」と表記します。

あいちトリエンナーレのあり方検討委員会とは…
あいちトリエンナーレについて、県及び実行委員会等の関係団体における企画、準備、実行の体制、公金を使った芸術作品の展示、芸術活動への支援、開催時の危機管理体制、対外コミュニケーション等のあり方を、客観的・専門的見地から総合的に検証するとともに、今後の類似イベントの充実・改善に向けた意見を聴取し、あいちトリエンナーレ及び今後の類似イベントの開催に関する改善策をとりまとめ、その結果を知事に提言するために設置されたものです。(愛知県HPより)

全体所見1.に関して

あいちトリエンナーレ2019は前回(あいちトリエンナーレ2016)を10%以上上回る総数67万人以上の来場者があり、チケット収入は前回の1.5倍程だった模様です。
前回に比して、あいちトリエンナーレ全体としては成功裡に終わったという評価がなされています。

ですが、この報告書は「表現の不自由展・その後」の調査報告。あいちトリエンナーレ全体の評価は関係ありません
では、肝心の「表現の不自由展・その後」についてはどの様な評価でしょうか?

「表現の不自由展・その後」については途中、中止する事態になり、またそのことで海外アーティスト等が作品展示を中止する等の事態にも発展したが、最終的にはその影響は部分的なものに止まったと言える。(報告書p3)

…全体所見の「全体」ってあいちトリエンナーレ2019全体ということですか?「表現の不自由展・その後」に関する調査報告書なのでは…?

"「表現の不自由展・その後」に係る問題があいちトリエンナーレ2019全体に及ぼした悪影響は限定的である"
という意図で述べられたであろうとは思われるものの、いきなり然程の根拠無く、「表現の不自由展・その後」の肯定から入っている印象は否めません。

国際現代美術展に占める割合が『事業費で0.57%、展示面積で0.83%』(報告書p50)という規模でしかない「表現の不自由展・その後」が与えた影響を、残りの99%以上の無関係な展示等と合算した事業全体の成果から推測する

という大変な力業によって「表現の不自由展・その後」の肯定がなされており、
『最終的にはその影響は部分的なものに止まったと言える』(報告書p3)
と締めくくられる「表現の不自由展・その後」に関する調査報告書の
全体所見1.は、大変苦しい印象があることは否めません。

1%にも満たない事業規模で、残り99%に対し明らかな悪影響を与える様な真似でもしない限り『影響は部分的なものに止まったと言』えてしまいますから、この全体所見1.に意味を見出すならば、「表現の不自由展・その後」を無理やり肯定しようとしたと言う他ありません。

全体所見2.に関して(1)

「表現の不自由展・その後」の中止後の再開判断の是非について述べられています。

このように、アンケートの多くのケースでは再開を望む声が中止を上回っており、また、中止が上回ったケースにおいてもその差はわずかであり、いったん中止した「表現の不自由展・その後」を再開したことに対しては、おおむね理解が得られていたと言える。(報告書p4)

<来場者・非来場者に対するアンケート>
~あいちトリエンナーレ2019に関する広聴~(9/10~10/7)
「表現の不自由展・その後」を見た人
  〇再開した方が良い:46.3%
  〇中止のままで良い:46.3%
「表現の不自由展・その後」を見ていない人
  〇再開した方が良い:56.7%
  〇中止のままで良い:36.5%

~インターネットリサーチ~(9/13~9/16)
「表現の不自由展・その後」を見た人
  〇再開した方が良い:53.1%
  〇中止のままで良い:31.3%
「表現の不自由展・その後」を見ていない人
  〇再開した方が良い:22.3%
  〇中止のままで良い:28.2%

一見、複数の調査によって「表現の不自由展・その後」を見た人、見ていない人両方の場合に於いて再開を望む声が多い…かの様に思える数値です。

詳細を見ていきましょう。調査報告書の別冊資料7 p44~68 にその詳細が掲載されています。

~あいちトリエンナーレ2019に関する広聴~
県庁Webサイトにアンケート様式を掲載し、メールまたはファックスにより回答受付を行う
~インターネットリサーチ~
民間調査会社に調査を依頼し、モニタ会員を対象にアンケートを実施 (インターネットリサーチの調査期間が非常に短い(9/13~9/16)のは、会員対象であるため、各必要回答数がすぐに集まったからではないかと思われます)。

予め言っておくと、県の広聴も、民間アンケートも、回答者が実際にあいちトリエンナーレ2019に参加していた割合は大変低いです(県:16.8%・民:4.3%)

不思議なのは、
あいちトリエンナーレ2019参加者(来場者)のうち、「表現の不自由展・その後」を見た人、見ていない人の回答ではなく、
来場者・非来場者全員のうち、「表現の不自由展・その後」を見た人、見ていない人の回答になっている
という点でしょう。

前述の通り回答者全体に対する参加者割合が低いわけですから、当然、あいちトリエンナーレ2019に来場し、且つ「表現の不自由展・その後」を見た人は割合的に非常に低くなり、非来場者も含めた「表現の不自由展・その後」を見ていない人は割合的に非常に高くなります。

実際の参加者のうち、あいちトリエンナーレ2019に対する感想の人数ベースでの数値は以下の通りです。
<来場者限定内容>
~あいちトリエンナーレ2019に関する広聴~(9/10~10/7)
  〇とても良い    :42人
  〇良い       :67人
  〇どちらとも言えない:21人
  〇悪い       :17人
  〇とても悪い    :55人

~インターネットリサーチ~(9/13~9/16)
  〇とても良い    :14人
  〇良い       :27人
  〇どちらとも言えない:  6人
  〇悪い       :  3人
  〇とても悪い    :  4人

また、非参加者も含めた「表現の不自由展・その後」の今後に対する意見は以下になります。
<来場者・非来場者共通>
~あいちトリエンナーレ2019に関する広聴~(9/10~10/7)
「表現の不自由展・その後」を見た人(95人)
  〇再開した方が良い:44人
  〇中止のままで良い:44人
「表現の不自由展・その後」を見ていない人(1033人)
  〇再開した方が良い:657人
  〇中止のままで良い:423人

~インターネットリサーチ~(9/13~9/16)
「表現の不自由展・その後」を見た人(32人)
  〇再開した方が良い:17人
  〇中止のままで良い:10人
「表現の不自由展・その後」を見ていない人(1224人)
  〇再開した方が良い:273人
  〇中止のままで良い:345人

つまり、あいちトリエナーレ2019に来場し且つ「表現の不自由展・その後」を見たという人の中で、
「再開した方が良いと回答」した人と「中止のままで良いと回答」した人の人数差はインターネットリサーチによる回答者のたった7人だけです。

統計はある程度の回答(標本)数があれば誤差は少なくなりますので、たとえ7人差であっても、理論上は日本全国でアンケートしてもほぼ同様の割合になる…筈だと言いたいのですが
民間のインターネットリサーチは特定のモニタ会員という属性を持った集団からの抽出であって無作為抽出ではなく
県の広聴は県Webページを見た上でメールまたはFAXで回答した者であって、やはり無作為抽出ではありません

回答したい者が回答する、という調査では当然、回答することで何かが得られる(物理的なものとは限らず、心理的な満足感等も含まれる)層の参加が多くなる傾向にあります。
インターネット調査サービスのモニタ会員であれば、調査協力に対するインセンティヴが目的になることが多いでしょう。
また、組織票で結果を操作できてしまう恐れもあります。フラットな結果を期待できないのです。
つまり、自由回答調査は重要な決定を下す、またはその是非を判断する場合には使用できないと言えます。

ここまで述べてきて何が言いたのかというと、
この統計(の様な何か)の資料は何の役に立つのか?ということに尽きます。

〇母集団に対する標本の設定に問題がある(無作為抽出ではない)
〇「表現の不自由展・その後」の再開の是非に対する設問の対象が
 ・あいちトリエンナーレ来場者且つ「表現の不自由展・その後」を見た者
 ・それ以外全員
 と非常に偏っており、前者は極僅かな差が大きな割合の差として現れる
 (何故、来場者と非来場者で設問を分けなかったのか謎)

無作為抽出では無い時点で、統計としての価値はほぼ失われているのではないかと思いますが、設問にも、もっと工夫の余地があったように思われます。

『『表現の不自由展・その後』を再開したことに対しては、おおむね理解が得られていたと言える』(報告書P4)という結論の為に
統計的に意味の無いデータ群を、あたかも有意な統計結果であるかのように扱っているのであれば、大変問題であるかと思います。
(報告書だけだと如何にも正確な統計データの様に思われる表記である点、別冊資料7を見れば分かる話ではあるのですが、誠実とは言いかねる姿勢かと思います)。


長くなりますので、(時間のある時に)徐々に②、③と記事を作っていきたいと思います。
事実誤認、誤り、不足等ございましたら、ご指摘賜りましたら追加、修正させていただきたく思います。