板と板の隙間に宿る嫌悪感

実家の床が大好きである。
言いたい事はそれだけである。

大学生のころ、病院実習をするために、はじめて一人暮らしをした。
成績が乏しかったので、人気の県内の病院は成績の良い人から優先して選ぶということを考えると、落ちて全く聞いたことのない遠方の場所になるのなら、知っている県外の病院を最初から選んでおくべきだと思い、初手から県内はあきらめて、先輩おすすめの県外の実習先を選んだ。

入居日。部屋に清掃が入ったということであったが、お風呂の排水溝が流れない。すぐに管理業者に電話すると、すぐに業者が駆けつけてくれて対応してくれた。それは解決したので良かった。
一応床をウェットシートで拭いてみる。すると1cmくらいの短毛が何本もウェットシートについていた。ひげであろうか。鳥肌がたった。今まで入居した何人もの人間の一部がフローリングの板と板の隙間に蓄積していると思うと、自分は裸足で歩くことができなくなった。
どうしても裸足で床を歩くのに抵抗があり、絶対スリッパか、靴下をはいて歩いた。約一か月半そこの部屋で一人暮らしをしたのだが、フローリングに素足で触れたのは、お風呂あがりの為に風呂のちかくにスリッパを用意しておくのを忘れて、しょうがなくスリッパまで、かかとで歩いたくらいである。つま先立ちよりも踵で立った方が床との接触面積が少ないであろうという考えで、どうしてもというときは踵歩きをしていた。
床にはぜったい座れないし、ましては寝っ転がるなんてもってのほか。
床に寝っ転がるのなら、大嫌いな虫を退治する方がマシとすら思っていた。

そんなことがあり、実家に帰ってきて、フローリングに寝っ転がったときは、何にも代えがたい幸せを感じるようになった。
実家のフローリングが特別きれいというわけでは決してない。床を拭いても、フローリングの板と板の間は掃除しないから、なんなら汚いとは思う。だけれども、溜まっているのは家の人の生体の一部だけという事実に安堵するのである。(わたしの家族は、普段人を家に呼ばないので、来客もほとんどいない。入れるのは玄関までである。)

自分と身内の身体の組織が落ちているのは良いけれども、全く知らない人を構成する生体の一部が落ちている。
自分の領域にあるのが許せないのである。

この話を友達に話したところ、潔癖症だと言われた。

しかし、わたしが実家で生活をすると、いわゆる汚部屋にしてしまう。自分や身内が汚くするのは許せる。

他人が自分の領域に入り込むの許せないだけだと思っているのだが、どうなんでしょう。気になる。


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