マジック:ザ・ギャザリングで人種差別的として禁止された7枚のカードの解説

日本時間の6月11日、マジック公式サイトより、人種差別な描写やテキストを含む7枚のカードの使用禁止が発表されました。

これらのカードはあらゆるトーナメントにおいて禁止され、公式サイトのデータベースからも画像が削除されることとなりました。

《Invoke Prejudice》
《Cleanse》
《Stone-Throwing Devils》
《Pradesh Gypsies》
《Jihad》
《Imprison》
《Crusade》

諸外国と異なり人種差別の感覚が理解しづらい日本では、なぜこれら7枚のカードが禁止となり、そして他のカードが禁止ではないのか、いまいちわかりづらいかと思います。本記事ではこれら7枚のカードがどうして差別的とされたのかを解説したいと思います。

なお禁止にされた理由は公式には明言されていませんので、すべての解説は、海外のプレイヤーコミュニティの反応を元に、私が推察したものとなります。

《Invoke Prejudice》

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このカード以外の他のカードは、あくまで差別を"連想"させるカードたちですが、本カードは明確に差別を"テーマ"にデザインされたカードでした。

《Invoke Prejudice》は日本語に訳すると「偏見の煽動」というカード名です。イラストに描かれた人物の衣装が白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン」に類似しており、「共通する色を持たないクリーチャーを打ち消す」能力( = 異なる色のクリーチャーを迫害する能力)を持っています。

カード名、イラスト、カードの効果それぞれが差別をテーマとしており、このカードが差別をゲームプレイ上に持ち込むために生み出されたことが伺えます。これは Wizards of the Coast の声明における「本来、このカードは印刷されるべきでもGathererに記録されるべきでもなかった」という文言からも伺えます。

また偶然ではありますが、Gathererと呼ばれる公式サイトのカードデータベースでは、このカードの個別番号が「1488」となっています。14は14 Words(人種差別的スローガン)を、88はハイル・ヒトラーを指す隠語です。合わせて「1488」で白人至上主義+ヒトラーへの忠誠=ネオナチを意味する符丁として白人至上主義者の間で使われているという背景があります。

そしてイラストを手がけたアーティスト Harold McNeill 氏がネオナチ的主張を公言していたというのもあり、今回の件以前からプレイヤーコミュニティの間でもよく槍玉に上げられるカードでした。初めて印刷されたのが1994年だったというのもあり、今よりおおらかな時代だったのでしょう。

 《Cleanse》

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カード名とカードの効果の組み合わせが差別を連想させることから《Cleanse》は恐らく禁止されました。

カード名の Cleanse は日本語で「浄化」という意味です。民族浄化の意味である Ethnic cleansing というワードで使われており、民族浄化を連想させます。

これだけであれば、Cleanse というワードを使うカードはマジックでは他にもあります。(《次元の浄化/Planar Cleansing》や《浄化の輝き/Cleansing Nova》など)

このカードはそれに加えて「すべての黒のクリーチャーを破壊する」という効果を持っていました。マジックはカードごとにそれぞれ白・青・黒・赤・緑の色を持ちます。遊戯王でいうところの火属性・水属性などの属性、デュエルマスターズでいうところの火文明・水文明などの文明です。マジックには黒という色が存在し、このカードはその黒のクリーチャーをすべて破壊するカードです。

これだけであればいわゆる「黒への対策カード」であり、マジックにはある特定の色への対策カードは他にもたくさん存在します。本カードも元々そうした対策カードの一種でした。

しかし前述のカード名とカードの効果が組み合わさり「黒人への民族浄化」を連想させてしまうことから、恐らく数あるカードの中でもこのカードが禁止されてしまったのだと伺えます。

《Stone-Throwing Devils》

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《Stone-Throwing Devils》は日本語に翻訳すると「投石の悪魔」です。元ネタはイスラム教の Stoning of the Devil (悪魔への投石)と呼ばれる宗教的儀式でしょう。聖地メッカで行われており、悪魔に見立てた石柱に石を投げて悪魔の誘惑を退ける儀式です。イラストでは逆に悪魔が石を投擲する姿がモスクを背景に描かれており、イスラム教およびこの儀式への揶揄と取れるものでした。

《Pradesh Gypsies》

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カード名にGypsy(ジプシー)を含んでいます。ジプシーとは欧州で生活している移動型民族(ロマ等)を指す語ですが、この呼称は現在では蔑称として使われています。

《Jihad》

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Jihad (ジハード) は、ファンタジー世界では単に戦いとか苦闘という意味で使われることが多かった単語です。それはマジックにおいても同様で、このカードではJihad (ジハード)を軍事的な戦争と解釈し、戦闘に赴く人々が描かれたイラストや、カードの効果(特定の色のパーマネントを滅ぼすまで戦い続ける)で表していました。これは本来のイスラム教のジハードへの誤った認識を助長していました。

《Imprison》

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カード名の Imprison とは、日本語で「刑務所に入れる」「収監する」という意味です。イラストでは、マスクを付け拘束されている肌の黒い人物が描かれています。このような金属製のマスクは、奴隷制時代の米国南部で、黒人奴隷の拘束・拷問に使われていた背景があり、カード名と相まって、奴隷制や人種差別を想起させていました。

《Crusade》

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Crusade は「十字軍」という意味です。Magic にはこのカード以外にも《ミラディンの十字軍/Mirran Crusader》や《アクロスの十字軍/Akroan Crusader》など、十字軍がカード名に含まれるカードがたくさんあります。その中でこのカードは、イラストが史実の十字軍をモチーフとしており、またカードの効果が「白のクリーチャー強化する」という点も、史実の方との連想を強めることから、このカードのみが禁止されました。

最後に
今回の禁止は、日本以外の国でも賛成多数というわけではなく、反対している人もいます。特にマジックでは前述したようにカードごとに色が存在します。黒のカードや白のカードが存在し、他のカードゲームとは異なったマジックのゲームプレイにおける特徴を大きく占めています。今回のように差別を連想させるからといって禁止対応が進んでいくと、そもそも黒のカードや白のカード自体が差別になってしまうのでは、という懸念を持つ人もいます。

一方で、人種差別は多くの国において重要な問題の一つであり、それはいかなる場所においても存在が許されるものではありません。今回の Wizards of the Coast の声明は、社会問題とカードゲームとの関係における1つの転換点と言えるのかもしれません。

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