セブンスターが世界の終わりの合図/夜王子と月の姫
煙草を吸い始めたのは、
二十歳を越えてからだった。
煙草の銘柄で覚えているひとが何人もいる。私も、私が吸う煙草を見て思い出されるようなひとになりたかったけれど、数年で既に何回も煙草が変わっているから、きっと無理だね。
私はあの頃、まだ煙草を吸っていなかったから、セブンスターを吸っていた彼が煙草で私を思い出すことはないだろうが、きっと私のことは、今でも忘れていないと思う。16歳か17歳の頃に、Twitterで知り合った人だった。確か、音楽の趣味が合うとかでメッセージをくれたのだと思う。歳は20後半くらいで、名古屋に住んでいるらしかった。それからたまにやり取りをした。あまり自分のことを話さないひとだった。
もっと他の話もしたんだろうけど、音楽の話ばかり覚えている。真赤を出す前のマイヘアも、月までを出したばかりのHumpBackも、彼が教えてくれた。2017年になってすぐには、今年はこれが絶対売れるからって、SIX LOUNGEのメリールーのMVのURLが送られてきた。そのひとが教えてくれた音楽はみんな大切になった。
初めてのフェス遠征、2017年 JAPAN JAM
19になったばかりの5月だった。仙台の実家に住んでいて高校を卒業するまで親が厳しく、遠征を許してもらえたことがなかったし、ましてやインターネットで知り合った人と行こうとしてるなんて言える訳もなく、最初は無理だと断った私に彼は繰り返しこれだけ言った。
千葉まで来い。
どうしてその一言で行動出来たんだろうね。今日は友達の家に泊まるから帰らないね、と母親に伝えて、新幹線に乗った。高揚している、と思ったけどそう思いたかっただけで、不思議と落ち着いていた気がする。
その日のことは場面場面で鮮明に覚えている。欲しかったグッズが売り切れてたこと。半端ない砂ぼこり。忘れらんねえよはひとりで見たな。終わったあとLINEしたのに返信なくて困り果ててたら後ろの方で寝転んでるのを見付けた。ロッキンの宣伝の看板があって、また一緒に行こうよって言われて、曖昧な返事をした。ここまでいい人っぽく(?)書いてきたけれど、癖が強くてちょっと面倒臭いひとだったから。それから、メビウス提供の喫煙所で煙草を吸っていた。外の囲われたスペースで、広かった気がする。初めに書いた通り私は当時煙草を吸っていなかったから、というか19歳だったから当たり前なのだけれど、入り口で年齢確認があって、椅子もあって、メビウスの恰好(どんなだったか忘れちゃった)した綺麗なお姉さんがメビウスの煙草を勧める、みたいな、あれ。私は喫煙所の外側で、お姉さんと嬉しそうに話している彼を見ていた。女ったらし。
戻ってきて、日本で一番売れてる煙草が何か知ってるか?って私に聞いた。セブンスターだ、俺が吸ってる煙草だって、ドヤ顔してた。メビウスのお姉さんとニマニマ話した直後に言うから、なんだか滑稽だった。夜までライブを見て、一泊して、往復の新幹線代をくれた。私と一緒に聴く音楽に価値があるのだと彼は言った。ほんとうに不思議なひとだった。
そのひととは何度か会った気がするけれど、それがフェスの前だったか後だったかも忘れてしまった。TwitterやLINEが急に消えたり、半年連絡が取れなくなったり、かと思ったらまたふと連絡が来る。ある日、またしばらく連絡を取っていなかったときだと思う。ビジネスホテルのテレビに仙台の地方番組が映っている写真だけが送られてきた日があった。いるの?どうしているの?何を聞いても、「千葉まで来い」って言ったときみたいに一言。あの場所で待ってる。正直まっっっったく分からなかった。仙台に会いに来てくれたことはあったけど、思い出の場所なんてなくない?マジで分かんない。どうやって合流したんだっけ。ロフト側のペデストリアンデッキ、TSUTAYAが見えるところで、私に「お前、月の姫に似てる」って言ってゴイステのCD渡して、あっけなく帰って、それきり、連絡が取れない。
忘れられないでいる。元気だったらいいなと思う。いつかどこかのライブハウスで気付かないまますれ違って、なんてことを何度も考えたけれど、そんな奇跡みたいなことも起こらないと思う。ただ、元気だったらいいなってたまに思い出す。
私はもうすぐ24歳になります。煙草を吸うようになったよ。世界の終わりはまだまだ来ない様だけれど、貴方がまだセブンスターを吸っていたら、少し、嬉しいかもしれない。
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