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フィリップスコレクション

(間が空いてしまいましたがこの記事の続き、3月3日の記録です。)

ワシントンDCはデュポンサークルの住宅街を歩いているとフィリップスコレクションが現れた。スミソニアンを擁するワシントンDCの美術館なかではおそらく小規模の美術館。ここは予約が必要と知り、朝ホテルを出る前にとりあえず13時半枠を申し込んでいた。それがファーマーズマーケットを抜けて少し歩くとすぐに目の前に現れた。こんなに近かったとは。まだ12時過ぎだったが、問題なく入れてくれる。住宅街の中にポツンという立地もいいが、小規模なのもまた魅力。混んでなさそうと思い、いざ入館。

住宅街の中に立つフィリップコレクション

個人の邸宅だった美術館

フィリップスコレクション(美術館)は、Duncan Philippsが1918年に創設。製鉄会社の創設者を祖父に持つDuncanは、学生時代より美術に関心が強かった。契機は、父と兄を1917年~18年に亡くしたこと。兄弟仲はとてもよく、家族二人を相次いで失ったDuncan は深い哀しみと喪失感に襲われた。そこからたどり着い彼の決意は「これからは愛してやまない美術を生きる糧としたい!」。母と二人で、それまでフィリップ家が収集していた美術品を一堂に集めての公開に踏み切る。兄を亡くした同じ年に美術館としてスタートを切っているスピード感もすごい。開館前に結婚した妻もよき理解者・伴奏者となり、美術のフィリップスコレクションを徐々に充実させ、邸宅も増築していった。

小規模の美術館というより広い邸内に程よい間隔で絵が展示

印象派から日本の画家まで

美術館の展示作品はセザンヌ、ゴッホ、モネなど網羅範囲も広い。日本人画家の絵も数枚あった。歩きながら廊下に無造作にかかっている絵がよくみるとセザンヌ。日本ならロープとか張られていそうな環境を想像してしまう。

ふとみたらセザンヌの絵がありビックリ
ゴッホの絵も、色遣いがゴッホだ

やはり見逃せないのはルノワールの「舟遊びの朝食」。テーブルを囲みながら語らう男女の表情や姿勢がひとりずつ生き生きと描かれており、楽しそうな若者の会話が聞こえてくるようだ。この絵のためにひと部屋設けられているので、至近距離で心ゆくまで鑑賞できる。何でもこの絵は印象派どころかフランス絵画史の傑作だったとか。1923年にフィリップ夫妻が競売で購入後、ロンドンのナショナルギャラリーから遣いの紳士が夫妻を訪問、値段が空白の小切手を渡そうとした。小切手を受け取らなかったフィリップス夫妻の、そしてナショナルギャラリーの見識の深さが伺えるエピソードだ。

ルノワール「船遊びの昼食」


フィリップス家の関心は美術品にとどまらず音楽にも向けられた。夫妻の息子が大学を卒業し、数年働いてからDCの家に戻るとき、夫妻は息子のために音楽ホールを作ったという。それにしても息子のために自宅に音楽ホールを作るって、発想も邸宅の広さもスケールが大きすぎてピンと来ない。アメリカの富豪ならではの話なのだろう。その後、夫妻は邸美術館として明け渡し別の場所に移り住んだが、夫妻の息子も後を継ぎ美術館の発展に尽力した。

コンサートホール

音楽ホールでは、現在も日曜コンサートが開かれている。私の行った日も、「今日は午後にコンサートがあるから、ホールを観るなら2時までね」と先にホールに行くよう薦められた。ホールに向かう通路にも、野球好きのフィリップス親子で集めたという野球場の絵も展示されていたのは何ともアメリカらしい。コンサートホールの両側にも収集した絵画が展示されていた。

日曜コンサートが開かれる

音楽ホールに行く手前にも、またホールの奥にも絵が展示されている。何度か小規模と書いてしまったが、ゆっくり廻りながら様々な絵を楽しめる、音楽ホールも含めて、スミソニアンの美術館とはまたひと味もふた味も違った見応えのある美術館だと思う。

館内カフェでのひととき

話は前後するが、フィリップスコレクションに入館して最初に向かったのはカフェだった。朝食もとっていなかったしとりあえずスープを注文。前日の雨で水たまりもみられるテラス席だったが、ふと外の空気に触れたくなった。天気の良い日曜の昼、テラス席は割と埋まっていたが残り2テーブルのうち1席にたどり着いた。3月にしては肌寒いながらも心地よい風。隣席にはおしゃべりに興じている老婦人二人組、大学生(男子)3人組。近所に住んでいるのだろうか、いかにも美術館目的ではなさそう。総じて声が大きいアメリカ人のおしゃべりは、否が応でも聞こえてくる。

通常スープにもパンがついてくるので軽食としてちょうどいい

会話から地元ジョージタウン大学の学生のようだ。レポートの課題とか授業の話、夏のインターン(バイト?)の話などで盛り上がっていた。そういえば、昨今の米国の大学生は就職活動どころか夏のインターンを決めるのも、ここ数年かなり厳しくなっていると、米国の大学に息子がいる同僚が話していたっけ。

婦人二人組は70代半ばと推測。(とかく外国人の年齢は難しい。いかにも50代半ばかと思しき同僚の白人男性が40代前半だったり。彼らもアジア人にそう思っているからそこはお互い様だが。)その二人の会話が、健康や老後の過ごし方の話に花が咲いていた。「姉はロンドンに住んでいて帰ってこないし、子どもも遠くにいて仕事しているからあてにならない。去年、心臓の手術をして持ちこたえたけれど私ひとりで何かあったらと思うと」と続く。もう一人の女性も、病気の夫の面倒を一人でみていてきついなどなど。世の中、時間だけは平等に与えられているものの、人は年齢を重ねると健康な生活が必ずしも当たり前ではなくなる。健康や老後に向けた過ごし方は、洋の東西を問わず共通の関心事であり話題なのだろう。職場の友人も、「この頃、久しぶりにキャッチアップで友達に会っても仕事の話はそこそこで、プライベートといっても家族の病気、薬、病院の話がやたら増えるよね」と苦笑していたことを思い出した。

ともあれこのカフェは、一休みもできるしほっとできる空間だ。ちなみにデュポンサークル付近はあまりカフェがないので、フィリップスコレクションのカフェは一休みするにはいいロケーションと思われる。

美術館内から見たカフェ

もう一軒、よかったカフェはDupon circle駅近くのLe Pain Quotidien (2000 P Street NW)。パンもおいしく軽めの食事にもなるメニューが多かった。ただワシントンDCのカフェは18時に閉まるお店が多い。DCでの食については改めて書きたい。