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ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#93

佐佐木 政治  

ぼくらが生まれる以前を 
すでにあなたは耕していた

あの無の耕地の中で 二筋の血の流れが 交わるなんて
ぼくらのあの稀有の予感が 未来から呼びもどされるなんて
ぼくらがあの天文学的数字の中から選ばれて落ちた 一つの星だったなんて

こうして 舞台に引き戻されたものたちだけが
かけがえのない衣をきせられ 
存在の罠におののいている

おゝ なにも卑下することのない 真昼の荒野よ
すべては 他者たちの間で あなたの手に触れるための背伸びだ

やがて 夕暮れはやってくるだろう
舞台の上に血の幕を垂らしながら
朝とひきかえの あのカオスの霧が
神経の枝を麻痺させながら


父・佐佐木政治
昭和6年長野県飯田市に生まれる。飯田高松高校卒業後、大学で仏文学を学ぶことを断念、木曽にて印刷業を営む。生涯、詩を詠み、本を作る。亡くなる二年前に脳梗塞で麻痺や認識障害を患うものの、動かない手を駆使して最後の詩集「神へ捧げるソネット」を手作りした。



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亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。