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ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#81

佐佐木 政治

帆を張る白百合 提灯を灯すキツネ草 華やかに何かの渦を抱くバラは 
もはやぼくらの手には負えないのだ 神よ そのままで 
あなたが五十億年の歳月をかけて作り出したものたちを 
ぼくらは横目で眺めやるしかない

それらどれもが 時間の舌の先端に乗っている 
新しい風を切って まごう方なき翼を持つ
おゝ あなたとぼくら自身が 並列のおろかしさを ぼくらは錯覚し 
作物の背後を流れた時間を無視するのだ

試行錯誤の果てで 場所を得た これらの作物
もはや動くことのできない論理を持つ これらの作物
おゝ 神よ あなたが作り出すものは またもとの土にかえる

しかし さしだされた一本の山百合のなんと虚しい美しさ
あれは刻々の時間の頂点にとまる蝶だ 吹き上げる時間の水の穂先の幻影だ
あれはむしろ 遠い遠い過去の日の閃光の形を真似る
刻々の乱舞の中の姿は 神よ あまねくあなたの姿を映し重ねる


父・佐佐木政治
昭和6年長野県飯田市に生まれる。飯田高松高校卒業後、大学で仏文学を学ぶことを断念、木曽にて印刷業を営む。生涯、詩を詠み、本を作る。亡くなる二年前に脳梗塞で麻痺や認識障害を患うものの、動かない手を駆使して最後の詩集「神へ捧げるソネット」を手作りした。


>>>>>>>いつもフォトギャラリーから素敵な写真を使用させていただいています。感謝してます。ありがとうございます。<<<<<<  


 

亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。