見出し画像

坂の上

佐佐木政治  1956年10月1日からのノート「詩集 青い枯れ葉」より

坂の上でネオンを見ていると 
夜空はあたりの樹木や街灯を連れて足許に沈んでくる。
闇のなかのかすかに青い抜け道の中に 
ぼくの死が小さな光を残す。夜空に浮いたネオンの枝に 
青と赤の光が絡み合い雨となる。

ネオンは小さな足跡を残し 
その花首のあたりにぼくの音の恋がまつわり 
あそんでいた恋人とぼくの脚が離れる。
あちこちからさしこんでくる光の中に死は失われずにある。
完璧なものが沈んでいくよ。

「あの時も雨だったっけ」
ひとりごちるぼくの中は虚に明るく
白蛾の死屍がひとつ
汚れた壁から落ちた

画像1


昭和31年、当時25歳の文学青年が書いた詩です。
A5サイズの大学ノートはすっかり色褪せ、日に焼けています。
彼の文字とともに紹介していきます。



亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。