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ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#97

佐佐木 政治

ぼくらは言葉の林で迷う 詩の中の扉を見失う
たとえ第一行の枝に稲妻が走るとしても
たちまち闇は その一本の枝を不在の渕に 沈めてしまう
思いもよらぬ ベクトルの中に 道が閉じ込められて

言葉が還ってくるのは 再び 闇が襲ってくるとき
稲妻の枝が ひかりをつれて 闇の支柱を照らしにくるとき
闇のシンタックスが もういちど十四本の居並ぶ柱を思い出すとき
そして時間の断崖が 光の目つぶしの中から身を引くときだ

言葉はいつまでも 稲妻をとどめることはできない
枯れ枝のように めらめらと燃え尽きてしまう
あの闇の中にとけ込む 十三本の柱に思いをたくすまでもなく

しかし闇の籠のゆれ具合によっては 最後の柱からでも 
稲妻が燃える そして扉は後から開かれながら 
どうやら 詩の玄関に 到達するのだ


父・佐佐木政治
昭和6年長野県飯田市に生まれる。飯田高松高校卒業後、大学で仏文学を学ぶことを断念、木曽にて印刷業を営む。生涯、詩を詠み、本を作る。亡くなる二年前に脳梗塞で麻痺や認識障害を患うものの、動かない手を駆使して最後の詩集「神へ捧げるソネット」を手作りした。



>>>>>>>いつもフォトギャラリーから素敵な写真を使用させていただいています。感謝してます。ありがとうございます。<<<<<




亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。