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一晩

君が理由にしているものが何か分からない
と言われた。
一晩中、彼の’酔い’に付き合い、
一晩で、何人もの見知らぬ人に喧嘩を売って歩いた。
彼の演奏にはちゃんと彼が居たし、
急ぐ指からは緊張が伝わり、
私は3回目が合った。

前夜、配信とはレベルが違うと言う言葉に、
私はがっかりしたと返した。
当日彼を邪魔したのは彼自身の震えだった。

世間から見て自分がどれだけクズ野郎で惨めでも自分に誠実ならそれが正義だ。
表現者たるなら殴って黙らせるくらいで、
そうあるべきで、
私の発する愛してるの言葉や選ぶもの全てに誠実であるようにしていて、
だからがっかりしたと言った。

誰かが死にたいと言ったら私は止めることはしてはいけないと思う。
それが自分にとって誠実で、自分の正義なら。
だから彼の街への暴言や地面を蹴り飛ばす仕草を黙ってずっと見ていた。
そしたら俺はそのうち人を殺すかもしれない
と彼は言った。

私の部屋へと引っ張る電車の中で私はずっと彼の鞄の紐を握っていて、
自分の世界を守るためならそれ以外は滅んでしまっても構わない私は彼よりもずっと冷徹な人間だと思った。
私が信じてさえいれば彼は
裏、切、ら、な、い、でいられる。
そうでなければあなたが辛いでしょう。
私は此処に居るから、そうである限り大丈夫で、何も心配は要らない。
私がちゃんと見ていて、紐を握っているから空の誰にも見えない所に飛んで行ったりはしないし、そこでしゃぼん玉みたいに割れたりもしない。
正義、私が理由にしているものなんてこんなものである。

2020.10.31

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