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ちょっと待って!そのテイクアウトの仕方、大丈夫?

          取材・記事 / 西海みずき信用組合 河口憲一郎

テイクアウト販売に潜むリスク

今回のコロナ禍で、イートインだけでなくテイクアウトのサービスを始めた(もしくはこれから参入しようと考えている)飲食店の方も多いと思います。

ですが、今までお店で出していたメニューをそのまま「お持ち帰り」にしても問題はないのでしょうか?

飲食店には「食品衛生責任者」と呼ばれる人がいると思いますが、講習会(自治体の保健所などが実施してます)で教わった内容や、貰った資料をどれだけの「責任者」の方が理解し、実践しているのでしょうか?

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私もかつて、飲食店の責任者を任されていました時期がありましたが、その当時、講習会の内容や資料の中身を隅々まで理解できていたとは到底思えません。そりゃそうです。わずか半日の講習(これでも結構な負担なんですが)で衛生についての知識が全て身に付くハズないんですから。

お客様がいつどこで食べるかわからない

さて、イートインとテイクアウトの話になりますが、この両者では提供するお料理がお客様の口に入るまでの時間が異なって来ます。つまりテイクアウトにおけるリスクは「お客さんが何時間後に食べるのかわからない」ということに尽きます。

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人によっては、商品を受け取ってからすぐに食べてくれるかも知れないし、またある人は5時間後かも知れない。そこはお客さんの自由であって、お店側としてはどうしようもないところです。ただその「何時間かの違い」で、品目によっては食中毒リスクが何倍にも跳ね上がるケースも出てくる。ここに怖さが潜んでいる訳です。

「すぐに食べてくださいね」と言って渡しても、お客様がそれを守ってくれるかどうかは解らないし、結構な時間が経過したものを食べてお腹こわしても「あたったじゃないか!」とお客さんが怒って、お店側が責任を問われるケースだってあります。

テイクアウトはそういうリスクと背中合わせである、ということだけでも意識しておいて貰えると、少なくとも「集団食中毒」みたいな大惨事に至る可能性は随分減らせるのではないでしょうか。


テイクアウトの大ベテランに聞いてみました

今回はテイクアウトに関する長年のノウハウを持つ佐世保市に本社を置く「(株)大野水産」代表取締役の藤永一郎氏に取材をさせて頂きました。先代社長から受け継いだ今年で66周年を迎える「ふじなが本店」、回転寿司の「ふじ若丸」といった店舗経営をしながら、出前やテイクアウト事業も行っておられます。

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ー 藤永さんがテイクアウト事業へ至られた経緯を教えて下さい

藤永「元々父が鮮魚店として『ふじなが本店』を営業しておりまして、私は関西で和食を修行し帰省、30年前に和食寿司店として改装しました。その中で、配達(いわゆる出前)や仕出しといったニーズもありましたから、今で言うテイクアウトの機能も盛り込んでいったんです」

   テイクアウトにはどういう許可が必要?


ー テイクアウトを始めるにあたって、必要な資格や設備はあるのですか?

藤永「飲食店として営業許可を得ている場合は、調理場で作ったものを、お客様に店内で渡すだけなら基本的に特別な許可はいりません。店内で器で料理を提供するか、テイクアウト用容器に、盛り付けて渡すかの違いになります。しかし、テイクアウト専門のお店を新しく開店したり、移動販売や、工場で調理したテイクアウト弁当をオフィス街で販売したりする場合は、新たな許可が必要となりますので、所轄の保健所に相談してください」

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ー ふるさと納税の返礼品でも特別な許可が要ると聞きましたが・・・

藤永「私どもの会社では”ふるさと納税”の返礼品(食品)の提供業務も行っているのですが、食品を製造して販売するとなると、飲食店とは別に食品衛生法の定める、『製造・加工業』として営業許可が必要です。
主なものとして、菓子製造業、あん類製造業、アイスクリーム類製造業、乳製品製造業、食肉製品製造業、清涼飲料水製造業、乳酸菌飲料製造業、みそ製造業、醤油製造業、ソース類製造業、豆腐製造業、めん類製造業、そうざい製造業など多種あります。
当店は、『そうざい製造業』の許可を所得しましたが、飲食店とほぼ変わらない設備で大丈夫でした。ですからテイクアウトに限らず、新規事業を始めるときには、必要な許可や設備の有無をよく調べておく必要があると思います。まず所轄の保健所にご相談下さい」

   温かいお弁当は菌が爆増するリスクが!


ー 最近では新型コロナの影響もあってテイクアウトを始める店が増えました。それで作り置きをしたお弁当をお店の外で販売している光景をよく目にするようになりましたが、「常温で大丈夫なのかな?」と思うんですが、実際はどうなのでしょう?

藤永「食中毒を引き起こす菌が繁殖しやすい温度帯が10°c〜45°cと言われているんです。だから店頭で販売するにしても本来ならば冷蔵庫などで冷やしたり、発泡スチロールの箱に入れて保冷剤などを使って冷やしておいてお客様に提供する、という工夫をするべきではないでしょうか」

ー 10°c〜45°cというと、日本では冬以外の季節は常に食中毒の危険がある、と考えてたほうが良さそうです。一方で”味”の問題もあると思うのです。お寿司やざるそばなどを除くと、温かい方が美味しくいただけるメニューがほとんどだと思うのですが。

藤永「確かにお弁当などは温かい状態で出す方が美味しいとは思います。しかしお客様が買ってからすぐに食べてくださる、という保証はありませんよね。先ほど『10°cから45°cは菌が繁殖しやすい』と申し上げましたが、それはイエローゾーンであって、最も繁殖しやすいレッドゾーンは30°c〜37°cなのです。温かいお弁当は冷めていく過程で食中毒の危険が凄く増しているのだ、ということを理解して頂きたいですね」

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ー 藤永さんはそのあたり、どういう処理をされているのですか?

藤永「お弁当類の仕出しを行う際、ご飯やおかずを温かいままに容器に詰める、ということはまずありません」

ー お料理は一旦冷ます、ということですか?

藤永「そうです。調理時はしっかり温め、急いで冷やしてから器に入れる、ということを徹底しています。熱を加えないものは、できるだけ新鮮なものを冷たい状態で盛ること。あとは、配送や保管場所も、涼しい場所を確保することです。今でこそ”スチコンや真空パック機、ブラストチラー”という機械があるので、かなり温度管理が楽になりましたが、昔は、扇風機で冷ましたりしていました。当社は、イベント等で、500個、1000個のお弁当を受注していますが、そういう調理機械等のおかげで衛生管理が楽になりました。食中毒の事故を防いでします」

 3日に1件は起きている!テイクアウトの食中毒


ー なるほど。用心してもしすぎることはない、ということですね。ところでテイクアウトにおける食中毒は全国でどのくらいの頻度で起こっているのでしょう?

藤永「日本食品衛生協会の専門誌『食と健康』(月刊)によれば、全国でおおよそ10件(ひと月あたり)ほど、弁当や仕出しによる食中毒が報告されています」

ー 結構な頻度ですね。

藤永「この報告は、その店の弁当を食べた中の一人が腹痛を訴えた、というようなものは入ってなくて、保健所がきちんと追跡調査をして食中毒が確認されたデータだけなのです。患者がいつ、何を、どこで食べたか、の聞き取りを行って、同じ症状の患者の報告と照らし合わせて、店の特定をする、といった手順を踏むのです。これはテイクアウトだけの報告なので、イートインの食中毒も含めればもっと増えるだろうし、たまたま体調が悪くてお腹をこわした、という人も含めていくと膨大な数になると思いますよ」

ー 食中毒の危険は私たちの身近なところに潜んでいる、ということですか。食中毒で亡くなる人もおられますし、これからの季節は特に注意が必要ですね。テイクアウトがこれからの外食産業では加速していきそうですが、経験豊かな藤永さんから何かアドバイスはありますか?

藤永「作りたてが楽しめるイートインでは問題なかったメニューをテイクアウトにそのまま流用しても、案外美味しくなかったりするものです。ですからお客様に提供する前に試作と試食を十分に繰り返した方が良いと思います。安全性確保は当然としても、プロである以上は料理が冷えた状態であろうと美味しいものを提供するのは当たり前のことですから。これから、室温も上がってきますので、店内調理もテイクアウトも、やはりもう一度基本に返って、食中毒防止の三原則を守ることが必要です。


食中毒防止の三原則
(1)つけない=洗う!分ける!
(2)増やさない=低温で保存する!
(3)やっつける=加熱処理!

ですね」

ー 藤永さん、貴重なアドバイスをありがとうございました。今回の記事が、これからテイクアウトをしていく方のお役に立てれば幸いです。最後になりますが、『ふじなが本店』さんをはじめ、全国の飲食店さんのご多幸を祈念いたしております。

食中毒対策の詳細は、食品衛生協会のHPなども併せてご参照ください。




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