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京わすれ

かの人詠ふ みやこ町なみや、なつかしき山あれ くびあらふ かも川とみし犀の川原の閑かさにくれ くるはせ給へ かへらせ給へ 匂ひおぼふる道ながら わが家わすれじ 郷に梅は散りぬるらんこそ ちどりのわかれ 酒によひまし つぎのよに

    • 若草山

      かづさふく 茂原三ケ谷の風は澄澄たる ふるくさ燃したれば、うきたつ貝城の緑こうごう じじばばが丘に垂るるよ、夕べに陳ずる首塚となれ 春がまねきし羽黒の茅姫、地蔵背おふ蓑となれ みるめ流るる 潮目あさひき から枕

      • 虫だしの

        かみとよむ 大鼓うつなる宇都宮 鞍掛ゆ見し故郷の、新里街道に憶へる母子草 契を忘れぬるか、と、雨乞いの涙ふるべし 春なき春を喰ふ鬼虫の頭に、いかづち落とし賜ふ  星にげかくれ ひと波しらね 来ぬ風も

        • りんご咲く

          青き森と冷泉うつくし、北上六ケ所の 雪の墨しごと 京わするる丘と知らしめど くぐひ白し輝かし あとを濁さじ掟にて 春にさり ゆきどかす熾火たつや 命つづりて やかた屋根そら 雲をしけとや 明けくらせ

        京わすれ

          すぐろ

          かがやかし加賀沢川の森、鳥の初音うつくし 石わたる雲あれ風の、雷神ごろ打出し 一陣 牛首洗ひて待ち申せば、末はいかにとふらん さきざき転がり落ちてなりぬ 宝達の山山 やどりまちぬよ かさなしななし 月なし夜

          まんさく

          はや健かなる宮川の、清水石まき しぶき上がりて虹ね、風ふく伊勢へ参らば 鬼 度会田間をわたらひて 泣くよ 泣くよ 喰ひ忘れしし肉団子、禿山の月なりぬる、と うすけぶる香の となりのぬくみ 花つれて

          まんさく

          竹秋

          夢前新庄の竹林は、薫風春色に明けすみて 空に汚れた雲ひとつなし ただ姫にまごう鳥の声 山に帰依する錫杖 明剣するどく風と訊ぬれば ささ 五郎がしわざ、とみな云ひ靡き かすみとけゆく 月のあけまで つれゆきね

          葛飾北斎

          ゆふつつみ さだまりぬる旅心見ゆ、白河の関 大萩ヶ山みどり野辺、夢に馳せたる草枕のことも 浮世の絵とならず、かきつけ杏花村の花ちりて 枝かかるは枯れ雲のみ、あとにおきたる墨黒し うき舟のたれ ゆる波のしず しずしずと

          葛飾北斎

          徳川家康

          ひかり稔る 赤穂楠の森の緑し麗しく 酒もる飛龍の神杯、晩秋ハレヒをあらたむも かへす瀬の波は銀とたちうちて 浪士四十七ごと 今ぞ無念の首の勝鬨 討ち果たされし候 あまだれみだれ うつなみかれり うらめの火

          徳川家康

          川端康成

          風わたり波うつ 亘理吉田の浜の砂の城 消えて忘るる人の影はただ燃ゆる石となりて かげらう さまやう 海神に釣らるる太陽が季節 美しい日本と云ふ人らの、私、ならべみて かぜつ剛なれ かさ飛ばす人 にげかぐる

          川端康成

          初蝶

          しらつゆの珠あふるるや、山都高森が緑守人 中坂にみゆる、はるけし阿蘇のけぶり仁王だつ 青雲こえ憶ふは、清瀬小川に結んだ末の架け橋のこと 油菜すべるよ 水車く石臼が紅ひかり垂るる 浪はしずしず 千鳥さわかし 明けの海

          十返りの花

          そにどりの 青ぶな愛でる軽米折爪が森 鉤つめのこしし月の輪、神々憑り代よ あてなる御祭が枝なおりそ ゆく末の守りなりと 鈴きよらかく風がうつ 民田山の春は深暮れね ふと朝ぼらけ 霞たつぎり たびまくら

          十返りの花

          のっこみ

          うちなびく 草津あしはら 清水し麗はしけるを みやこ洗ふ宇治の川瀬の淀なりて 花いかだ 鮎の子 鮒の子 松ふく大み浜の子、なみ立てず しずむ月あらば、陽もおちやう 鬼の帰帆島やばせ  夢うつゆるる 潮や風やと 舟がゆる

          のっこみ

          花うぐひ

          おおもりの 中秋間ふく風の森ぞし美しく 馬ぜりの路、雲うく高崎の駒が黄色き、跨ぎゆく 緑あらふ九十九の水の、豊に末代まで澄み流るれば 小俣の丘は晴れてなほ、つまごいの鬼つむじまく 夕べをしずみ あげる火のなし あしの風

          花うぐひ

          野がけ

          うそ姫ゆきわり渡る 那須白河の西郷ふるさと なきまつ雛の巣がけ高も、森の緑につるべなし 春くれば土筆野かける瓜のひとつ、ふたつ みは何くに忘れおきぬるや 母ごころ残して 花ちりてなほ しずく散る葉の にほひ立ち

          野地坊主

          かむいすむ 釧路トリトウシ原野は澄みすみて 八千代わたる丹頂が原の夕は、水を青にそむ はるけし、ゆく雲の波うきうつす 蝦夷のものら 夫婦となるや 岩保木が祝ふよ、とのと盃け ゆきちらし春 おだやぐ波よ 夜をわする

          野地坊主