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参政党の規約改正に関する考察 ~「非民主的ボトムアップ」から「非民主的トップダウン」へ~

はじめに

2022年9月16日、参政党が党規約(以下「規約」)を改正したことが確認された。
 実は9月11日に臨時党大会が開催されたとの噂があり、その時に党員以外には極秘で改正されたと思われる。
 だがその改正内容は、民主政治のアクターたる政党としてあり得ないものであった。

 本稿では、規約の改正前後の比較を中心に、この規約が如何に問題を秘めたものであるかを考察する。

 なお、改正後の現行規約の条文は下記の通りである。適宜参照されたい。

 また改正前の条文については最早インターネット上に残っていない。そのため、改正前の条文は筆者が保存したものをもとにしている。
 信頼性の高いソースを示すことができないことをお許しいただきたい。

1.党内民主主義の欠如

 規約の改正内容の検討の前に、まずは改正以前から継続している問題について考察する。

 有名な話だが、そもそも参政党は「参加型民主主義」を謳いながらその実、組織としては党内民主主義が根本的に欠如している。

 党の日常的な運営を行うのは常任役員会(以下、「ボード」)であり(規約第12条第1項)、規則等の制定(同条第3項)、代表・事務局長の任命(第14条及び第15条)といった、強大な権力を有する。
 だが、第12条第3項によれば「ボードの構成員たるボードメンバーの選任は、ボードが決定する」。つまり党員は(たとえ運営党員であっても)ボードメンバーの選任には一切関われないのである

参政党員には「指導者の選挙」という基本的な権利すら、形式的にさえ認められていない。

 人選に不満があった場合、党員は彼を党大会で解任させることも可能である(同条第5項)。だがその要件は「党大会の構成員の5分の4以上の賛成」とハードルが極めて高い。 しかも誰を構成員とするかは規則で定めるため(第8条第2項)、ボードメンバーが構成員を作為的に選び、自らの解任を阻止することは容易である。

 つまり党員には、党の指導者を選び彼に運営の責任を取らせるという、民主的組織には当然与えられるべき権利すら奪われているのである

 また党員の日常の活動の中心である支部のトップ・支部長。
 これも事務局長が自由に任命することになっており(第16条第3項)、やはり党員は人選に関われない上に、こちらは解任することもできない。

 参政党は「政策形成への参加」や「候補者の予備選挙の実施」を掲げて自らを「参加型民主主義」の党と主張するが、そもそも組織自体が非民主的な代物なのである。

2.党員の権限の縮小

 次に、規約の改正内容を検討する。

 今回の改正の問題点の第一は、党員の権利・権限が明らかに縮小したことである。
 そしてその最たるものは、党員に「政策の提案」等を行う権利を認める規定(改正前第5条第3項)が全面的に削除されたことである。

削除された条文。党員は「無権利状態」に。

 改正前の規約の下では、党員には党に対し、例えば「政策形成に参加させろ!」等と要求する際、第5条第3項をその根拠とできた。
 それ故、彼らの主張には規約によって「正当性」が与えられることになるため、党も彼らを無視することは難しかったであろう。

 だがこの条文が削除されたことで、こういった要求の正当性を担保するものがなくなった
 党員が同様の主張をして、党中央から「そんな権利ありませんけど?」と撥ねつけられても、何ら規約違反にはならないのである。

 また党の特徴とされる、公認候補予定者への予備選(以下「党内選挙」)についても、実施のハードルが上がった。

党内選挙の要件が追加。

 改正前の時点ですら実施の要件は「同選挙区に定員以上の候補予定者がいる」場合(改正前第18条第1項)であるため、定数の多い選挙区(国政選挙の比例区や市区町村議選等)では党内選挙が実施されるとは限らなかった。

 そして改正によって要件に「当該同一の選挙区から複数の候補者を擁立することが適当でないとボードが判断した場合」(第21条第1項)が加わったため、(定数1の選挙区への擁立においてすら)ボードの判断だけで党内選挙を回避できるようになったのである。

 他にも、党員が参加できる数少ない機関「党大会」についても、下記の通りボードのイニシアティブが強化されている。

これらの改正は明らかに、党員の党運営への参加の抑制につながる改正である。

党大会の規定の改正。
「議長指名による議事コントロール」「欠席による開催阻止」
「議案の重要事項への指定による特別多数の要求」によって
ボードは党大会を意のままに操れる。

3.党中央の党員への統制の強化

 第二の問題点は、党中央の党員への統制が強化されたことである。

神谷氏が過去に「党員によるボトムアップ」として挙げた支部の運営も、
彼の裁量でいつでもトップダウンに早変わり。

 今回追加された第19条第2項によれば、事務局長は支部等の廃止や支部長等を解任する「など」必要な措置を講ずることができるようになった。
 要するに事務局長はこれを根拠に、支部に対し何でもできるようになったのである。

 これで彼は、本来ボトムアップで運営されるべき支部に、上からの圧力をかけ放題だろう。支部活動への事務局長による統制が強まることは容易に想像できる 

 また第17条第4項によって、支部長の党大会への参加が保証された。これは要するに、「党大会には(前述の通り)事務局長が任命権を握る構成員が数百名参加する」ということ。

さり気なく書かれた条文4つ。
組み合わせるととんでもなく非民主的な党大会が生まれる。

 この多数の子飼いの構成員を使って、事務局長は議事を有利に進められるだろう。
 また党大会議事規則によって構成員を調整し(第8条第2項)、支部長が構成員の過半数を占めるようにすれば、事実上ボードが議案の可否を決めることにすらなる。

 要するに、党大会は平党員が直接意思決定に参加できる数少ない機関であるにも関わらず、「事務局長による党員の意思の操作」が容易になってしまったのである。

 さらに党議拘束を原則禁止する規定も、改正によって明らかに骨抜きにされている(第21条)。
 参政党はもともと党員の自由な活動を宣伝の一つとしていたはずだが、改正によって党員は党中央によって強く統制されるようになったのである。

党議拘束の強化。「『理念』という曖昧極まりないものの追加」
「『従うよう促す』」という事実上の拘束」という、「骨抜き」の典型例である。


むすび

https://www.youtube.com/watch?v=dEbQ8K-SehAより、党がトップダウンの組織だと明言する
神谷氏。 参政党はまさに彼が考える通りの「トップダウン政党」に成り下がった。
※画像自体はhttps://twitter.com/aradnekopon/status/1610198650612813825より

 最後に若干の付言を行って結論にかえたい。

 参政党は当初から「ボトムアップ型政党」を謳い、党員の自由な活動や運営への参加を党の特徴と説明していた。
 他方組織としては、党員をボードメンバー、支部長といった要職への選任過程から排除するという、いわば「非民主的ボトムアップ型政党」であった。

 そして今回の改正によって、党員の権利・権限の制限、党中央の党員への統制強化がなされ、党中央のトップダウンが強化された。
 しかも組織の非民主性は残っており、改正によって党はいわば「非民主的トップダウン型政党」に生まれ変わったのである。

 「非民主的トップダウン型政党」。これは果たして、民主主義の担い手の一つである政党が取るべき形態なのか。
 我々有権者はこの組織政党が日本の民主政治にふさわしいのか、引き続き慎重に検討しなくてはならない。

補足

 筆者は改正が確認された直後から、各条文の改正の有無とその内容を検討した。
 その結果「事務局長の権限のボード等への移管」「同一議員職の四選禁止規定の削除」等が確認された。
 本稿で取り上げられなかった、より細かい改正箇所を確認されたい場合は、下記の一連のツイートを参照されたい

追記(2023/1/17)

 本稿公開後、改正以前の規約のアーカイブを発見した。

 信頼性は高いと思われるため、適宜参照されたい。
 また、このアーカイブをご紹介いただいた「フラットムーン山本」様(@bm1d4b6)に、この場を借りてお礼申し上げたい。

追記2(2023/1/19)

 本稿公開後、党員の権利等について規定している「党員規約」に触れなかったことについて、「意図的に触れずにミスリードしている」「敢えて触れずに歪んだ参政党批判をしている」等のご批判をいただいた。

 これを受けて、Twitterでの引用リツイートの形式で、このご批判に回答している。
 こちらも参照されたい。

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