心の拠り所、秀明館での出来事

朝7時に最寄りを出て、小田急線に乗り換え小田原駅へと向かう。

箱根にある温泉保養施設、秀明館へは小田原駅からバスで1時間。午前中の大涌谷方面のバスは空いているので心地よい。

秀明館には食料がないので、バスへ乗る前に駅弁やお菓子を買っておく。前回は駅弁と水のみしか買っておらず読書への集中力が落ちてしまったので、今回は反省を生かして、空腹にならないようナッツや甘栗、どら焼きも併せて購入した。

お気に入りの音楽を聴きながら、移り変わる景色を堪能するこの時間が本当に楽しい。この日の天気は曇り予報だったが、山へ入ると強い雨が降ってきた。普段は外出時の天気を気にするほうだが、今日は雨が降ってくれてラッキー!と思った。緑と雨の相性がとても良く、静かな空気が流れる秀明館で聴く雨音が大好きだから。

秀明館へ到着すると、まるでジブリ作品に登場するような雰囲気のあるスタッフの方が出迎えてくれる。浴衣とタオルの入った籠を受け取ったら、あとは畳の個室と温泉を心ゆくまで堪能するだけ。古い建物ではあるけれど、椅子や照明など、インテリアがモダンでおしゃれなところも気に入っている。

個室のドアを開けると、時がゆっくり進み出すように感じた。雨水が滴る緑に鳥の囀り、昔ながらの縁側に優しいオレンジの照明。決して広くて充実しているとは言えない部屋だけど、家具が少なく無駄のないシンプルな作りがいっそう心を豊かにしてくれるようにも感じる。

部屋に荷物を置いたらすぐに温泉へ直行。ここへきたら1日に4回以上は温泉に入りたい。これほどまでに満足度の高い湯は今まで出会ったことがない。

タイミングが良かったのか他のお客さんと被ることがなかったため、美しくて神聖な空間を独り占めした気分だった。洗い場はなく、脱衣所と温泉に仕切りがないのも新鮮。地面をそのまま掘ったような昔ながらの温泉と、天井から吊るされているしめ縄が美しい。ごつごつとした赤黒い岩から源泉が湧き出ていて、思わずじっと眺めてしまった。

入浴後は小田原駅で買った駅弁を食べた。東華軒というところのらしいが、大好きな筍や椎茸に、醤油味の鶏肉、塩気の強い鮭と、秋の訪れを思わせる味だった。

食後は待望の読書タイム。電波が届きにくくスマホに手が伸びづらいのと、シンプルな部屋には集中力を遮るものがないので心置きなく読書を楽しむことができる。自然のBGMと備え付けのyogiboでリラックスするこの時間がこの上なく幸せだ。この日は4冊の本と記録用のノートを持参した。

なぜこんなにも秀明館を気に入っているかというと、
もともと友人の紹介で知った施設で、当時心身のバランスを崩していた私にはもってこいの場所だった。彼女には絶大な信頼を置いているので、1日休みを見つけるや否や、すぐに電車に乗り込んだ。

天然の岩風呂には4回入った。熱々のお湯も、なぜかここだとのぼせにくい。朝の爽やかな空気も、夕方の神秘的な空間も、どちらも好きだ。思わず何度も深呼吸をしてしまうほど、その空間は澄んでいる。まだ夏の秀明館しか知らないけれど、日が落ちるのが早い冬の雰囲気も味わってみたい。

湯床では本を読んだり、縁側でどら焼きを食べるなどした。ときどき思いついた言葉をノートにしたため、昼寝をする。思い思いのまま過ごすあまり、時が過ぎるのがあっという間だった。

以前、自分の人生には余白が足りないと記したことがあったけれど、余白とはまさにこの時間のことだとはっきりわかった。休みができたらここへ来よう。そう思えるのがとても幸せだ。

また一つ、心の拠り所ができた。

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