自然環境保護法の制定目的には存在しない「生活環境」の文言

生活環境と言うのは、人の生活に密接に関係する動植物や財物を指すと言われています。

例えば、工場排水でノリの養殖に被害が出た場合、そのノリは、養殖している人の生活に密接に関わる動植物・財物なので、生活環境が侵害されたと考える事ができます。

また、ばい煙で布団が汚れたと言う場合、その布団は布団の持ち主の人にとって、生活に密接に関わる財物なので、やはり生活環境が侵害されたと考えることが出来ます。

では、鳥獣管理保護法の制定目的に言う「生活環境」とは何なのか?

裏山のシカが畑のキャベツを食べてしまったと言う場合、シカを指すのか、キャベツを指すのか、どちらなのでしょうか?

この問題を考えていくために、

自然環境保全法と鳥獣保護管理法を比較してみたいと思います。

(自然環境保全法第一条)

この法律は、自然公園法(昭和三十二年法律第百六十一号)その他の自然環境の保全を目的とする法律と相まつて、自然環境を保全することが特に必要な区域等の生物の多様性の確保その他の自然環境の適正な保全を総合的に推進することにより、広く国民が自然環境の恵沢を享受するとともに、将来の国民にこれを継承できるようにし、もつて現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的とする。

(鳥獣保護管理法第一条)

この法律は、鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するとともに、猟具の使用に係る危険を予防することにより、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化を図り、もって生物の多様性の確保(生態系の保護を含む。以下同じ。)、生活環境の保全及び農林水産業の健全な発展に寄与することを通じて、自然環境の恵沢を享受できる国民生活の確保及び地域社会の健全な発展に資することを目的とする。

2つの法律の制定目的についての論理展開を追ってみると、

自然環境保全法)

生物の多様性の確保・その他自然環境の適正な保全 ⇒ 国民が自然環境の恵沢を享受 ⇒ 健康で文化的な生活の確保

鳥獣保護管理法)

生物の多様性の確保・生活環境の保全・農林水産業の健全な発展⇒自然環境の恵沢を享受・地域社会の健全な発展

となります。

どちらにも共通しているのは、「生物の多様性の確保」⇒「自然環境の恵沢の享受」と言う展開です。

「農林水産業の健全な発展」や「地域社会の健全な発展」と言う文言は、鳥獣保護管理法には見られますが、

自然環境保全法には、認められません。

つまり、自然環境保全法は、「とりあえず(?)」、

自然環境のことだけを考えて作られているが、

鳥獣保護管理法は、自然環境のことだけでなく、農林水産業や地域社会のことも考えますよと言う論理に基づいて作られていると言えそうです。

「裏山のシカが畑のキャベツを食べてしまう」

鳥獣の問題は、自然環境と農林水産業や地域社会の接点に立つ問題であることがこうした法律の文面にも反映されていると見ることも出来ます。

では、鳥獣保護管理法に存在し、自然環境保全法に存在しない「生活環境」と言う文言は、裏山のシカの事を指しているのか、畑のキャベツの事を指しているのか、果たしてどちらなのでしょうか?

もう少し考えてみたいと思います。


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