菜園起業における「可能性」と「現実性」の総合…「決めなければできない」と言うこと
猛暑日が続く中、畑で農作業をして、水路沿いではあはあ言っていたところにたまたま通りかかった人が挨拶してきました。
それがきっかけで、いろいろお話をするようになったのですが、どうやら、「農業」をしたいらしく、すでに、5年ほど、とある農場に「手伝い」に行っているようです。
何がしたいのか?と聞いてみたら、生産・加工・販売・・・自分が作った作物で実際に食品を作り、その食品をお客さんに提供して・・・みたいな答えが返ってきました。
実際、かなり広範囲に見学などに行っているようで、東北の農場にまで行って、社長さんのお話を聞いてきたりしたようでした。
ただ、その法人の場合、かなり初期投資が必要と分かったとのことでした。
僕は、その作ってみたい作物は、一反あたり、どのくらい採れるのか聞いてみたところ、
食事として提供する場合、●●グラム必要と言う見当違いの返事が返ってきました。
一反は、1000平米です。律令制の昔から農地の面積の単位として使われてきました。
もっとも、律令制の頃の一反が現在の度量衡で言う1000平米のことだったかは、各説あるようですが、
とにかく、畑の単位として、一反は使われており、
農業の収益性を議論する場合に、反収、
つまり、1000平米で何キロ、収穫できるか、
そして、1キロ当たりいくらで売れるか?
だから、1000平米でいくらの売上のものが作れるか?
これは基本的なことなわけです。
この方の場合、どうも、行動力はあって、僕にも気軽に声を掛けてきましたし、何かの形で知り合った人のところに、例えば、東北まで出向いていく、そういう力はある・・・
ただ、その後、詰めていくことができない、
初期投資で●●万円かかると言われて、そこで、無理かなぁと思ってしまう、
それだけの投資はできないが、これならできると言うような案に向かっていかない、
そう思ったので、僕はいろいろと、今までの菜園起業の相談や僕が知り合った農家の人の事例を話しました。
例えば、Aと言う作物を育てたくて、農業法人に就職した人がいる、実際に事業計画をその法人の社長に見せたら、Bだったら独立させてやるが、Aなら無理だと言われた人がいる
この人の場合、その農業法人の社長から見て、Bについては独立してもやっていけると判断できるだけのものがあるが、Aをやりたいとなると、まだ甘いと言うことだったようです。
僕がその人に言ったのは、とりあえず、Bなら独立させてもらえるんなら、それで独立して自分の城を持ち、Bをやりながら、どうしてもAがやりたいんなら、そっちも追求していくと言うのでどうかと言うことでした。
しかし、この人はどうしてもAがやりたいと思って、結局、Aで実験ができる農地をどこかで見つけてきて、そこを借りることにしたそうです。
これがこの人の決断でした。
あるいは、菜園起業大学のこれまでの受講生で、自分が畑で育てた野菜を友達がやっているカフェでコールドプレスにしてくれることになった、そのコールドプレスを移動販売したいと言う人がいました。
この人の場合、それで生計を立てていくと言うのでなく、「半農生活」の中で、コールドプレスの移動販売をしたいと思ったようです。
失敗しても、「損失」は、その移動販売車の代金ぐらいです。とにかく、この人は、「半農半X」で自分が育てた野菜のコールドプレスを移動販売すると「決めた」わけです。
と言うような事例を話した後、
僕が、今回、偶然に出会った「相談者」の方にお伝えしたのは、キルケゴールの「自己とは可能性と現実性の総合である」と言う言葉でした。
「夢を持たない者は自己を見失う、しかし、現実性を考えなければ、可能性を消費して終わる」
キルケゴールは、そう述べています。
今回の相談者の方が、5年も農家のお手伝いに行っていると言うことは、何らかの形で「農」を自分の生活の中に組み込みたいと思っているからだと思います。
そして、東北まで出向いたり、僕に声を掛けてみたり、なにかの形で想いを実現していくための行動はしているわけです。
しかし、そこで、反収がいくらなのか?、そういうことを考えていないのであれば、
「夢」に「現実性」を与えることはできない、
こういうやり方もある、ああいうやり方もあると、
いろんな事例を見て思うだけで、「可能性を消費して終わる」ことになるとお伝えしました。
独立して、自分の農場を持って生活していくことを目指すか、半農半Xで行くか、
そこの決断は、人それぞれです。
ただ、「農」と言うものを生活の中に組み込んでいくのであれば、どういうやり方を取っていくか、「決める」必要があります。
そこが出来ていないとなると、コッチの農場に手伝いにいく、アッチの農場に見学に行く・・・「回遊」をしているだけで終わります。
(「回遊」が悪いわけではなく、そういう風に、方々で農業体験や田舎暮らし体験をしながら、生きていく方法もあります。
ただ、今回の相談者の方の場合、「回遊」の状態より、一歩踏み込んで、何らかの形で「農」のある生活を実現したいと思っている、それならば、自分はこうすると言うことを決める必要がある、
「決める」ためには、根拠となる「数字」、「反収」みたいなことを計算して、考えを詰めていく必要がある、
そう思っての提案でした。